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2026年7月8日放送の『風、薫る』第73回は、トヨ(松金よね子)の最期と、山本辰治の死を引きずるりん(見上愛)の姿が描かれた。
トヨは住み慣れた長屋で、嘉平(春海四方)やキク(広岡由里子)、丸山(若林時英)、直美(上坂樹里)、りんに見守られながら息を引き取る。
嘉平やキクは、それを大往生として受け止めようとしていた。けれど、直美だけは、病院に入院させ、医者に診てもらえていたらもっと生きられたかもしれないと後悔する。
山本の死を背負うりん。トヨの死を背負う直美。看護とは何か。助けるとは何か。正しさとは何か。答えの出ない問いが、二人の前にまた突きつけられた回だった。
前回の記事はこちらです。

第73回のポイント
- 直美とりんは、トヨの長屋へ駆けつける。
- 直美はトヨの熱や脈を確認し、口元をぬらしながら看病する。
- りんは山本の死を思い出したのか、呼吸が荒くなり外へ飛び出す。
- 直美はトヨを看ながらも、りんのことも気にかける。
- トヨは直美に「いい人に出会ったねえ」と告げる。
- トヨは、嘉平、キク、丸山、直美、りんに見守られながら息を引き取る。
- 直美は、入院させて医者に診てもらえたらもっと生きられたかもしれないと後悔する。
- 黒川(平埜生成)は、りんの最近の様子を心配し、直美を呼び出す。
- 黒川は英語で、病院がりんの処分を保留している理由を直美に伝える。
- 万作(飯尾和樹)が院長とつながっているのではないかという噂も語られる。
- りんは詰所で一人、包帯を巻く練習をしている。
- 直美は自分の腕を差し出し、りんの練習に付き合う。
- 直美は今日の当直を代わると申し出るが、りんは「大丈夫」と答える。
- 直美は丸山の団子屋に寄り、そこへシマケン(佐野晶哉)が現れる。
- 最後は、りんが自分の手を見つめる場面で終わる。
個人的に印象に残ったこと
今回まず描かれたのは、トヨの長屋に駆けつける直美とりんの場面だった。
トヨは床に伏している。
直美はおでこに触れて熱を調べ、脈を測る。
りんは外に水を汲みにいく。
直美は、手拭いに水を含ませ、トヨの口元をぬらす。
ここでりんは呼吸が荒くなり、外へ飛び出してしまう。
山本の最期を思い出したのだろう。
弱っている人の呼吸。
水を含ませる看護。
死が近づいている空気。
それらが、りんの中で山本の「助けて」とつながってしまったのだと思う。
りんはトヨの看病に来たはずだった。
しかし、今のりんは、死に近い人を前にすると自分自身が崩れてしまう状態にある。
正直、りんはこの場面ではあまり役に立っていなかったように見えた。
それどころか、トヨの看病に集中したいはずの直美に、りんの心配までさせてしまっている。
それでも直美は、りんを放っておかない。
「今、つらいよね、こういうの。」
そう声をかけ、りんが大丈夫かどうか確認する。
直美は本当に優しい。
自分にとって大切なトヨが苦しんでいる。そのトヨを看なければならない。
それなのに、山本の件で傷ついているりんのことも忘れない。
直美は、自分のことを怖い人だと思っているし、周囲からも怖がられている。
でも、実際にはとても優しく、面倒見のいい人なのだと思う。
りんは「もう、大丈夫。戻らないと」と答える。
でも、大丈夫には見えない。
大丈夫じゃなくても、大丈夫と言うしかなくなっているように見える。
この「大丈夫」が、今のりんの危うさそのものだと思う。
直美はトヨに語りかけ続ける。
近くにはキクも嘉平も丸山もりんもいる。
そう伝える。
りんは、呼吸が荒いまま泣いている。
その様子を見たトヨは、直美に「いい人に出会ったねえ」と言う。
この言葉は、直美に向けられた優しい言葉だった。
直美は家族を知らない。
頼れる人も少なかった。
でも今は、りんという人に出会っている。
トヨは、そのことをちゃんと見ていたのだと思う。
嘉平もキクも、トヨに話しかけ続ける。
丸山は、足でももみましょうかと言ってトヨの足をもむ。
必死に足をもみ続ける丸山を、直美が「もういいよ」と止める。
そしてトヨは息を引き取った。
ここは静かな最期だった。
病院ではなく、長屋。
医者もいない。
特別な治療もない。
ただ、長く一緒に暮らしてきた人たちがそばにいる。
嘉平は、「住み慣れた、しみったれた長屋でみんなに見守られて、あの世にいけたんだ。大往生だ!」と言う。
キクも、「私も、こんなふうに、逝ってみたいね、直美ちゃん」と言う。
嘉平やキクには、悲壮感があまりない。
長屋で見守られて死ぬことを、ひとつの幸せとして受け止めている。
でも直美は泣いている。
何もできなかった。
入院して薬をもらい、医者に診てもらえていたら、もっと生きられたかもしれない。
直美はそう後悔する。
この温度差が印象的だった。
トヨ本人は、以前から病院へ行くことを拒んでいた。
直美はお金を自分が出すと言っていたはずだ。
でもトヨは、それを受け入れなかった。
病院という場所が落ち着かない場所だったのかもしれない。
何より、直美が稼いだお金を、自分の病院代として使わせるのが嫌だったのだろう。
だからトヨは長屋で死んだ。
嘉平やキクは、それで良かったと受け止めている。
でも直美だけは、病院に入院させて長生きさせたかったと後悔している。
何が正しいのかは分からない。
山本の時もそうだった。
山本は家に帰りたかった。
でも、家に帰ったことで命を縮めたかもしれない。
トヨは家にいたかった。
でも、病院に行けばもっと生きられたかもしれない。
死んだ人が最期にどう思っていたのかを知るすべはない。
結局、残された人の後悔というのは、ある意味では自己満足なのかもしれない。
もっとやれたのではないか。
違う選択をすればよかったのではないか。
そう思ってしまう。
でも、どうやっても完全に満足することはできないのだと思う。
時間とともに、その後悔が少しずつ風化していく。
それくらいに捉えておかないと、残された側の心は持たないのかもしれない。
嘉平は、直美とりんと丸山に感謝を伝える。
そして、自分の時は店子勢ぞろいで、ひとつ盛大に頼むよと笑う。
嘉平のこの明るさに救われる部分もあった。
死を悲しみだけで終わらせない。
長屋の人たちなりの受け止め方があるのだと思う。
その後、直美は黒川に呼び出される。
黒川は、りんの最近の様子を気にしていた。
直美は、やる気はあるんですけど、体が……と答える。
りんはやる気がないわけではない。
逃げているわけでもない。
でも体が動かない。
包帯も巻けない。
脈も取れない。
山本の死が、りんの体にまで影響しているのだと思う。
黒川は、休ませないとは院長も酷なことをすると言う。
直美は、処分がなくて意外に優しいなと思ったことを告げる。
すると黒川は、直美の甘さを指摘し、組織というものが分かっていないと言う。
ここで、部屋の外には万作の姿があった。
黒川は突然、会話を英語に切り替える。
そして英語で、「病院の非を認めぬため、処分を保留しているだけだ」と直美に伝える。
この場面はかなり面白かった。
黒川は普通に英語を話せる人だった。
第36回で、バーンズ先生が英語で話し、直美が違う訳をしていた場面があった。
あの場には、多田、今井、藤田、黒川がいた。
藤田と多田は英語を理解できないような様子だった。
しかし黒川と今井は、はっきり分からない様子を見せていなかった。
今回の黒川を見ると、少なくとも黒川は英語を理解していたことになる。
つまり、バーンズ先生と直美が、帝都医大病院の医師たちに伝わらないように英語でやり取りしていたつもりの場面で、黒川には全部聞こえていた可能性がある。
黒川は、それを気づかないふりしてくれていたのだろうか。
だとしたら、かなり早い段階から黒川は看護婦たちの味方だったのかもしれない。
りんに千佳子の看護を任せて大丈夫かと心配していた時点でも、黒川は看護婦たちのことをかなり見ていた。
英語を理解しているのに、バーンズ先生と直美の企みを多田にばらさなかった。
そう考えると、黒川は最初から完全に敵ではなかったのだと思う。
一方で、万作が院長とつながっているのではないかと、医者の間では言われているらしい。
黒川はそのことも直美に教える。
万作は看護婦の味方なのかと思いきや、院長と通じているのかもしれない。
しかも、黒川が英語を話せることをここまで隠していたように、万作も英語が理解できる可能性はゼロではない。
万作は一体何者なのか。
ますますミステリアスな存在になってきた。
黒川は、今のままで仕事を続けさせられる方がつらいのではないかと、りんを心配している。
考えようによっては、追い込んでいるとも言える。
何が正しいかなんて山本に聞かなければ分からない。
あのまま、病室の天井を眺めながら一人で死ぬ可能性もあった。
黒川はそう直美に言う。
ここも深かった。
りんの行動は、医療従事者としては問題がある。
でも、山本本人にとって何が正しかったのかは、山本にしか分からない。
病院に残っていたら、それで山本は幸せだったのか。
それも誰にも分からない。
そこへ直美は、つい最近、自分の親しい人も亡くなったことを伝える。
そして、「家でみとられてよかったという人もいるけど、私は、彼女に病院で治療を受けさせたかった」と言う。
この直美の言葉も重い。
トヨは長屋で死んだ。
周囲は大往生だと言う。
でも直美は、病院で治療を受けさせたかった。
山本は家に戻った。
トヨは家に残った。
二人の死は正反対のようでいて、どちらも「どこで死ぬのが正しいのか」という問いを残している。
詰所では、りんが一人で包帯を巻く練習をしている。
直美が戻ってきて、りんの横に座る。
そして腕まくりをし、自分の腕を差し出す。
「生身の人間で練習しないと意味ないでしょ。」
直美らしい言葉だった。
りんが上手くできないと、直美は「ゆっくりでいいよ」と優しく語りかける。
それでも上手くいかず、りんが「ごめん」と謝る。
直美は「難しいね……」とつぶやく。
そして、「看護とは何か」と続ける。
ここはとても良かった。
直美は、りんを責めない。
自分だけ分かったふりもしない。
一緒に悩む。
りんは、看護婦としての正しいと、人としての正しいを考え出すと分からなくなってきたと答える。
まさに、今のりんが抱えている問題である。
看護婦としては、山本を病院から連れ出してはいけなかった。
でも、人としては、山本の願いを叶えてあげたかった。
看護婦として正しいことと、人として正しいと感じることがぶつかる。
そこでりんは動けなくなっている。
直美は、「りんだけじゃないよ。私も分からない」と寄り添う。
直美もまた、トヨを病院に入院させたかった。
でも、トヨは長屋で看取られた。
それが本当に良かったのか、悪かったのか分からない。
直美も分からないのだ。
りんは再び包帯を巻き直す。
直美は、もし自分がりんと同じことになったら、どうしたらいいか分からないと言う。
トヨさんを入院させたかった。
でも、山本さんは家にいたかったのか。
直美はそう考える。
りんは、「ただ……生きたかったと思う」と答える。
この一言が大きかった。
りんは、山本の最後の「助けて」を、生への執着として受け取っている。
山本は、家にいたかっただけではない。
最後には、生きたかった。
テイの「一日でも長く生きていてほしい」という言葉を聞いたからこそ、山本も生きようとした。
そして、りんはそのことを感じ取っている。
だから苦しいのだと思う。
直美は、今日の当直を代わらせてくれるかと申し出る。
でもりんは「ううん。大丈夫」と答える。
そして包帯の巻き直しを成功させる。
直美は、「本当に? 責任、持てる?」と確認する。
この確認は重い。
直美は友人としてはりんを休ませたい。
でも外科の取締としては、りんに仕事を任せていいのか判断しなければならない。
りんは「うん。頑張る」と答える。
そして直美は分かったと引き下がる。
ここは心配だった。
りんは全然大丈夫には見えない。
でも、「大丈夫」と言う。
「頑張る」と言う。
責任を持てるかと確認されても、「うん」と答える。
ここで何かミスをすれば、りんはまた自分を責め続けるだろう。
しかも、外科取締である直美の管理責任も問われるかもしれない。
直美はりんを信じたい。
でも、本当にこの判断でいいのか。
かなり不安が残る場面だった。
帰りに直美は丸山の団子屋へ寄る。
嘉平やキクの様子を確認する。
そしてそこへシマケンが現れる。
最後は、りんが自分の手を見つめているところで終わった。
突然英語で話す黒川先生。その理由は…?
黒川「万作さんは院長と繋がってるんじゃないかって」
👇万作は何をしていたのか…?https://t.co/407QSxJ0WF#朝ドラ #風薫る
上坂樹里 平埜生成 飯尾和樹 pic.twitter.com/ohoKIYloR6— 朝ドラ「風、薫る」公式 (@asadora_nhk) July 7, 2026
トヨの死は「大往生」だったのか
トヨは住み慣れた長屋で、長屋の人たちに見守られながら亡くなった。
嘉平は大往生だと言い、キクも自分もこんなふうに逝ってみたいと言った。
長屋の人たちにとっては、それで良かったのだと思う。
でも直美だけは、病院に連れて行きたかったと後悔している。
入院して、薬をもらい、医者に診てもらえたら、もっと生きられたかもしれない。
そう思っている。
トヨ自身がどう思っていたのかは分からない。
死んだ人の本当の思いは、もう誰にも聞けない。
だから残された人は、自分の後悔と向き合うしかないのだと思う。
黒川はかなり早い段階から看護婦の味方だったのかもしれない
黒川が英語を話せることが分かったのは、かなり面白かった。
第36回で、バーンズ先生と直美が英語でやり取りしていた時、黒川はそれを理解していた可能性がある。
もしそうなら、黒川は看護婦たちの企みを知りながら、黙っていてくれたことになる。
これはかなり大きい。
黒川は最初から完全に敵ではなく、看護婦たちの力や必要性を認めていたのかもしれない。
今回も、りんを心配し、病院の内情を直美に伝えている。
黒川はかなり信頼できる人物に見えてきた。

万作は一体何者なのか
一方で、万作はさらに謎が深まった。
黒川によれば、万作は院長とつながっているのではないかと医者の間で言われているらしい。
看護婦の味方なのか。
院長の目なのか。
それとも、また別の立場なのか。
黒川が英語を話せることをここまで隠していたように、万作も何かを隠している可能性はありそうだ。
万作はただの陽気な人物ではないのかもしれない。
直美は本当に優しい
今回いちばん強く感じたのは、直美の優しさだった。
トヨの看病をしながら、りんの異変にも気づく。
りんが苦しんでいることを責めずに受け止める。
包帯の練習には自分の腕を差し出す。
当直も代わろうとする。
直美は、自分では怖い人だと言う。
でも、実際にはかなり優しい人である。
息を吐くようにうそをつくところを除けば、直美は本当に頼りになるし、すごくいい人だと思う。
りんの「大丈夫」は信用できない
りんは何度も「大丈夫」と言う。
でも、全然大丈夫には見えない。
トヨの看取りでは呼吸が荒くなり、外へ飛び出した。
包帯もまともに巻けなくなっていた。
夜も眠れていない。
それでも当直を代わろうかという直美に、「大丈夫」と答える。
さらに「本当に? 責任、持てる?」と確認されても、「うん。頑張る」と答える。
りんの頑張るは、今かなり危うい。
もしここでまた何かが起きたら、りんは自分をさらに追い込んでしまうのではないか。
直美がそばにいることだけが、今のりんの救いなのかもしれない。
まとめ
第73回は、トヨの死と、りんの傷、そして直美の優しさが強く描かれた回だった。
トヨは長屋で看取られ、嘉平やキクは大往生として受け止めていた。けれど直美だけは、病院に連れて行きたかったと後悔している。
黒川が英語を話せることや、万作の謎も出てきて、病院側の人間関係も少しずつ見え方が変わってきた。
りんはまだ全然大丈夫には見えない。直美がどこまで支えられるのか、そしてりん自身が本当に現場に戻れるのかが気になる。
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