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2026年7月6日放送の『風、薫る』第71回は、山本辰治(本田大輔)が最後のうそをつき、そして亡くなる回だった。
山本は、妻のテイ(伊勢佳世)に「手術してよかった」と伝えるため、りん(見上愛)の手を借りて病院を抜け出し、自宅へ戻る。
妻を後悔まみれで残したくない。
その思いは分かる。
けれど、今回の話を夫婦の絆の感動話として素直に受け取ることは、自分にはどうしてもできなかった。
山本の願い、テイの本音、そしてりんの判断。どれも切実ではある。だが、最後の最後で三人は間違ってしまったのではないか。そんなすっきりしなさが残る回だった。
前回の記事はこちらです。

第71回のポイント
- 山本はりんの手を借りて自宅に戻る。
- 山本はテイに「手術してよかった。お前のおかげだ」と最後のうそをつく。
- 黒川(平埜生成)と直美(上坂樹里)は、病院内で山本を探す。
- 黒川は、山本とりんがいないことを上に報告すると直美に告げる。
- 山本とテイは、夫婦二人だけの最後の時間を過ごす。
- テイは、口がきけなくても寝ているだけでもいいから、一日でも長く生きていてほしいとりんに話す。
- 山本はその言葉を聞き、病院へ戻ることを決める。
- 山本はテイに「またな」と告げ、テイも「また」と返す。
- 病院に戻った山本は、病室の手前で倒れる。
- 山本は最後に「助けて」と声を絞り出し、亡くなる。
- 翌日、テイは山本の死を知り、泣き崩れる。
- 今井教授(古川雄大)は、山本はいつ急変してもおかしくない容体だったと説明する。
個人的に印象に残ったこと
今回は、最初から最後まで何とも言えないすっきりしなさが残る回だった。
このまま死んだら、テイは手術を受けさせた自分を責める。
そう思い込んだ山本は、最後に一つうそをつかせてほしいとりんに頼み込み、自宅に戻った。
自宅で寝込んでいるテイは、夫がどうしてここにいるのか不思議がる。
山本は、自宅までの道のりは遠かったと言い、牛鍋を食べたくて出てきたと話す。
そして、テイにこう告げる。
「手術……して、よかった。お前のおかげだ。」
これが山本の「最後のうそ」だった。
牛鍋はうまくて、仕方ないからお前の分まで食ってきて腹いっぱいだ。
山本はそううそを続ける。
妻を安心させたい。
手術させたことを後悔させたくない。
その思いは分かる。
ただ、この場面を美談として見ることは、自分にはどうしてもできなかった。
山本はテイのためにうそをついている。
でも、それは本当にテイのためだったのだろうか。
テイが望んでいたのは、夫から「手術してよかった」と言われることだったのか。
それとも、どんな状態でもいいから、夫に一日でも長く生きていてもらうことだったのか。
その答えは、この後の場面でかなりはっきりしてくる。
一方、病院では黒川と直美が山本を探している。
しかし山本は見つからない。
黒川は、とりあえず副院長に報告に行くと言う。
そこで直美は、りんもいない、おそらく一緒にいると告げる。
黒川に、何か知っているのかと問われた直美は、自分には何も言ってはいないと答える。
直美はおそらく、りんが山本を連れ出したことに感づいていたのだと思う。
ただ、りんから直接相談されたわけではない。
だから何も言えない。
黒川は、自分も直美も職務怠慢となってしまうから、悪いけど報告はすると言う。
これは当然の判断だと思う。
患者が病院からいなくなった。
しかも病状の重い患者である。
それを報告しないわけにはいかない。
黒川の判断は冷たいのではなく、職務として適切だったと思う。
その頃、山本とテイは二人きりの時間を過ごしている。
山本は、テイの膝枕で横になっている。
二人で倒れてちゃ世話ないと山本が言うと、テイは、いっそこのまま二人で逝っちまうのも悪かないけどねと答える。
山本は、それはごめんだと言う。
山本は、テイに生き続けてほしいのだ。
テイが生きていれば、あの世からお前を眺めて楽しめる。
そう言って、自分の死後にテイが一人で過ごす時間を想像する山本。
それに対してテイは、「冗談じゃないよ」と涙を流す。
この夫婦の会話は切ない。
山本は、自分が死んだ後のテイの人生を考えている。
テイに生きていてほしい。
でもテイにとっては、山本のいない人生など、簡単に受け入れられるものではない。
山本の思いやりと、テイの悲しみがすれ違っているようにも見えた。
やがて、りんが「失礼します」と声をかける。
山本は眠っている様子で、テイが部屋の外に出る。
テイはりんに、わざわざ家まで来てもらってすいませんと感謝する。
りんは、山本がどうしても奥さんに会って話したかったんだと思いますと答える。
するとテイは、こう話す。
「口なんか、きけなくてもいいんです。寝てるだけでもいい。ただ……一日でも長く生きててくれりゃこっちは……。」
この言葉が、今回の話を単純な美談に見えなくした最大の理由だった。
山本は、テイの後悔を軽くするために、命を削ってまで家に帰ってきた。
手術してよかった。
牛鍋を食べてきた。
そういううそをつくために戻ってきた。
でも、テイが本当に望んでいたのは、そんなうそではなかったのではないか。
口がきけなくてもいい。
寝ているだけでもいい。
一日でも長く生きていてほしい。
それがテイの本音だった。
山本は、妻のためだと思って行動した。
しかし、その行動は、妻の本当の願いとは正反対だったのかもしれない。
そして寝ていると思っていた山本も、そのテイの言葉を聞いていた。
この瞬間、山本の中で何かが変わったように見えた。
眠るテイ。
りんは山本に目配せをする。
山本が咳き込むと、テイが起きる。
山本は「風邪っぽいな」と言い、りんに、やっぱり病院に戻って先生に診てもらえないかねと頼む。
戻って治しましょうと答えるりん。
テイもついて来ようとするが、山本は止める。
りんは、「私が、責任を持って、病院にお連れします」と約束する。
ここも引っかかった。
りんの「責任を持って」という言葉は、やはり重い。
本当に責任を持てるのか。
病院から連れ出した時点で、すでに大きな責任が発生している。
その山本を無事に戻せる保証もない。
それでもりんは、責任を持って病院に連れていくと約束する。
りんは本気でそう思っているのだろう。
でも、りんの「責任」は、いつも少し危うく見える。
山本はテイに、「ここで構わねえ」と告げる。
そして本当に最後のうそとなる「またな」を言う。
テイも「また」と返す。
二人が出ていく様子を、テイは何か覚悟したような表情で見送る。
テイも、これが本当の意味での「また」ではないかもしれないと、どこかで分かっていたのではないかと思う。
それでも「また」と返すしかなかった。
家を出ると、山本は倒れ込む。
りんに起き上がらせてもらい、山本は「ありがとう」と一言告げる。
このありがとうは、家に連れてきてくれたことへの感謝だったのかもしれない。
あるいは、テイにうそをつかせてくれたことへの感謝だったのかもしれない。
ただ、この後の山本の最期を見てしまうと、この「ありがとう」だけで山本の気持ちが完結していたとは思えなかった。
病院に戻ってきたりんと山本。
あと少しで病室というところまで来る。
りんは、一旦休憩しましょうかと提案する。
しかし山本は首を横に振り、その場に倒れ込む。
山本は脈も弱く、その場に横になる。
そこへ直美が現れる。
直美は黒川を呼びに行く。
りんは必死に山本に呼びかけ続ける。
そして山本は最後の力を振り絞り、りんの肩を強くつかむ。
「助けて……。助……け……。」
そう弱々しく声を絞り出し、山本は絶命した。
この「助けて」が、どうしようもなく重かった。
もしこれが「助けてくれてありがとう」という意味につながる言葉だったのなら、まだ美談として受け取れたのかもしれない。
でも、自分にはそうは見えなかった。
ありがとうは、すでに山本家を出た時に伝えている。
最後の「助けて」は、妻のために一日でも長く生きたいという、生への執着だったように見えた。
テイの本音を聞いた山本は、ようやく気づいたのではないか。
妻が望んでいたのは、うそで安心させられることではなく、自分が一日でも長く生きることだったのだと。
だから病院に戻ろうとした。
戻って治そうとした。
でも、もう体は限界だった。
その最後に出た言葉が「助けて」だったのだと思う。
りんは取り乱す。
「山本さん!しっかりしてください!山本さん!」
黒川が脈を計り、聴診器で胸の音を聞き、山本が亡くなったことを確認する。
りんは「うそ……うそ……うそ……! 山本さん! もううそはやめてください……」と取り乱し続ける。
ここでりんの覚悟も吹き飛んだように見えた。
りんは、今井から山本の命はあと1、2週間だろうと聞かされていた。
山本の容体がかなり悪いことも知っていた。
だから、病院から連れ出すことが命を削る行為になるかもしれないことは、どこかで覚悟していたはずである。
でも、実際に山本の死を目の当たりにした時、そんな覚悟は消えてしまった。
人は本当に死に直面した時、覚悟していたはずのことでも平静ではいられない。
今回の話が伝えたかったのがそこなのだとしたら、山本、テイ、りんの行動も少しだけ理解できる気がする。
翌日、テイが病院にやってくる。
亡くなってしまった夫の姿を見て、テイも取り乱す。
さっき会って、またねって約束したのに。
テイは泣きじゃくる。
「何で死んじゃったの?」
泣きながら、りんに確認する。
りんは、申し訳ありませんでしたと謝ることしかできない。
この場面もつらかった。
りんは何を謝っているのか。
病院から連れ出したことなのか。
山本を助けられなかったことなのか。
テイに本当のことを言えなかったことなのか。
きっと全部なのだと思う。
テイは、「バカだねぇ、なにも命懸けてまで……私のために……」と泣きじゃくる。
テイも分かっていたのだろう。
山本が命懸けで自分のために帰ってきたことを。
でも、それはテイが望んだことではなかった。
テイは、山本に一日でも長く生きていてほしかった。
だからこそ、この「私のために」という言葉は、感謝というより、悲しみと怒りと後悔が混ざったものに聞こえた。
そこへ今井、黒川、直美が病室に入ってくる。
テイが、何でこの人、こんなことにと今井に確認する。
今井は、山本がいつ急変してもおかしくない病状だったこと、自分としては数週間のうちにとは思っていたが、このようなことも不思議ではない容体でしたと説明する。
脈も弱く、食事も水分とおかゆのようなものしか取れていなかった。
今井の説明は、りんが連れ出したことが直接の原因ではないと言っているようにも聞こえた。
もちろん、実際に山本はいつ急変してもおかしくない容体だったのだろう。
ただ、病院側としても、りんが連れ出したことが原因だと認めるわけにはいかないという事情もあるのではないかと思ってしまった。
もし病院側が、りんの行動が山本の死につながったと認めれば、病院の責任問題にもなる。
りんを処分することになれば、病院側も管理責任を問われる。
ツヤの時のように解雇するようなことがあれば、逆に病院がりんの責任を認定することにもなる。
だから、ごまかそうとするのではないか。
そんなふうにも見えてしまった。
泣きじゃくるテイは、「あんた大バカ者の大ぼら吹きだよ……」と言って、夫の顔を見つめる。
山本は最後までうそをついた。
でも、そのうそはテイを完全には救わなかった。
むしろ、テイに新しい悲しみを残したようにも見える。
自分がひねくれているのかもしれない。
でも今回の話が、どうしても美談には見えなかった。
りんと山本が最後に間違ってしまった。
そんな気がしてならない。
テイ「ただ、一日でも長く生きててくれりゃこっちは……」
山本の妻・テイはりんに胸のうちを話しました。
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見上愛 伊勢佳世 pic.twitter.com/gmi5I6oKnQ— 朝ドラ「風、薫る」公式 (@asadora_nhk) July 5, 2026
山本の最後のうそは、テイの本当の願いとすれ違っていた
山本は、テイが手術させたことを後悔しないように、最後のうそをつきに帰った。
「手術してよかった。お前のおかげだ。」
その言葉は、山本なりの愛情だったのだと思う。
でもテイが本当に望んでいたのは、口がきけなくても、寝ているだけでもいいから、一日でも長く生きていてくれることだった。
山本のうそは、テイを救うためのものだった。
しかし、結果としてテイの本当の願いとはすれ違っていた。
夫婦の絆の話でありながら、最後の最後で考えがずれてしまったようにも見える。
「助けて」は、生への執着だったのではないか
山本の最後の言葉は「助けて」だった。
自分には、これが「助けてくれてありがとう」という意味には聞こえなかった。
テイの本音を聞いた山本は、病院に戻って治そうとした。
一日でも長く生きることが、テイの本当の願いだと気づいたのだと思う。
だから最後の「助けて」は、妻のためにまだ生きたいという、生への執着だったのではないか。
そう考えると、今回の話はさらに重くなる。
山本は、最後の最後で生きたいと思った。
でも間に合わなかった。
りんは最悪のケースを想像できていたのか
りんは、山本を病院から連れ出した。
それは、やってはいけない一線を越える行動だったと思う。
山本はがんの再手術後で、かなり弱っていた。
今井からは、余命はあと1、2週間だろうとも聞かされていた。
そんな患者を連れ出せば、途中で急変する可能性があることは想像できたはずだ。
それでもりんは動いた。
目の前の苦しみに共感し、山本の願いを叶えようとした。
その気持ちは分かる。
でも、看護婦として雇われている以上、勝手な行動が誰にどれほどの影響を与えるのかも考えなければならない。
りんは、その最悪のケースを本当に想像できていたのだろうか。
覚悟していても、死を前にすると人は取り乱す
今回、山本もテイもりんも、どこかで山本の死を覚悟していたはずである。
山本は自分の命が短いことを理解していた。
テイも、夫の状態がかなり悪いことを感じていた。
りんも、今井から余命の見通しを聞いていた。
それでも、実際に死が目の前に来た時、誰も平静ではいられなかった。
山本は最後に「助けて」と言った。
りんは「うそ」と取り乱した。
テイも、亡くなった夫を見て泣き崩れた。
覚悟していたとしても、実際の死を前にすると、人はこんなにも崩れてしまう。
今回の話が描きたかったのは、そこだったのかもしれない。
りんはこの件について、どう責任を取るのか
りんが山本を連れ出したことは、かなり重大な行為だと思う。
たとえ山本がいつ急変してもおかしくない容体だったとしても、医師の許可なく病院外へ連れ出した事実は消えない。
黒川が報告すると言った以上、病院側もこの件を把握しているはずである。
今井の説明を見ると、病院側はりんの行動を直接の死因とは扱わない方向に見える。
ただ、それで何もなかったことにしていいのか。
りんはこの件について、どう責任を取るつもりなのだろうか。
ここを曖昧にしたまま次へ進むのかどうかが気になる。
まとめ
第71回は、山本が最後のうそをつき、そして亡くなる回だった。
夫婦の絆の感動話として受け取った人も多いのかもしれないが、自分にはどうしても美談には見えなかった。
山本はテイを救うためにうそをついた。でもテイが本当に望んでいたのは、一日でも長く山本に生きていてもらうことだった。
りんも山本も、最後に間違ってしまったのではないか。そんなすっきりしなさが残る内容だった。
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