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2026年8月31日放送の『風、薫る』第111回は、戦争が終わった後に残された人たちの傷が描かれた回だった。
戦争は、直美(上坂樹里)から吾郎(甲斐翔真)を奪った。
そして、無事に帰ってきた虎太郎(小林虎之介)にも、大きな傷を残していた。
虎太郎は、カラスの鳴き声にさえ怯え、自分の無力さを語る。
努力すれば報われる。
上に上がれる。
そう信じて戦地へ向かった虎太郎は、「頑張ったやつが報われるわけじゃない」という現実を見てしまった。
一方で、直美は平蔵(太田光)の看護を続けることで、自分自身の痛みとも向き合っていく。
そして最後に、捨松(多部未華子)は、りん(見上愛)と直美に、これからの看護婦を託す。
物語も終盤に差し掛かり、看護の未来は、りんと直美の手に渡されたように見えた。
前回の記事はこちらです。

第111回のポイント
- 直美は平蔵の背中を拭きながら看護を続けている。
- 平蔵は、直美に子どもが生まれたこと、旦那がどうなったのかを確認する。
- 直美が答えないことで、平蔵は吾郎の死を察する。
- 平蔵は、自分の酒と直美の看護は、気を紛らすという意味で似ていると話す。
- 直美は平蔵に、一緒に新しい気晴らしを探そうと提案する。
- 恵風看護婦会に虎太郎が帰国の挨拶に来る。
- 虎太郎は、カラスの鳴き声にも怯え、戦場で感じた無力さを語る。
- 虎太郎は、りんからもらった血のついたハンカチーフを取り出す。
- 虎太郎は、人の生き死にはくじ引きみたいなもので、頑張った人が報われるわけではないと話す。
- りんは、虎太郎はあの頃と同じ優しい虎太郎のままだと言い、「お帰り、虎太郎」と迎える。
- 直美は、平蔵の看護を通じて、自分も元気づけられたとりんに話す。
- 捨松が恵風看護婦会を訪れ、吾郎へのお悔みを伝える。
- 捨松は、戦争をきっかけに看護婦が認知されたことは、直美にとって複雑だろうと慮る。
- りんと直美は、この風を大きくしていくと決意する。
- 捨松は、これからの看護婦をりんと直美に託す。
- 直美は、英語で「望むところです」と答える。
個人的に印象に残ったこと
今回は、平蔵の背中を拭く直美の場面から始まった。
平蔵は、直美に子どもが生まれたことを確認する。
そして、旦那はどうなったのかと聞く。
直美は答えない。
その沈黙で、平蔵は察する。
直美は吾郎を亡くした。
それを平蔵は、直美の言葉ではなく、沈黙から受け取ったのだと思う。
平蔵は、直美の看護と自分の酒は、気を紛らすものとして似ていると言う。
徳利には、以前直美が貼った「酒一杯、水一杯」の貼り紙がもうない。
剥がした紙はまとめて棚に突っ込まれている。
平蔵はそっぽを向き、頭をかく。
どうやら平蔵は、直美に言われて酒を控えようとしていたのだろう。
平蔵にとって酒は、ただの楽しみではない。
つらさをごまかすもの。
気を紛らわせるもの。
戦争を生き残った傷や、体の不自由さや、生活の苦しさを忘れるためのものだったのかもしれない。
一方で、直美にとって平蔵の看護も、気を紛らすものになっている。
吾郎を亡くした悲しみは消えない。
明を育てる日々もある。
その中で、平蔵のもとへ行き、背中を拭き、酒を控えるように言い、生活に関わる。
それは平蔵を助ける行為であると同時に、直美自身の痛みを少し逃がす行為でもある。
直美は、これからも来ることを約束する。
そして言う。
「一緒に探しましょう。新しい気晴らし。」
平蔵は答える。
「あんたの気晴らしになんならつきあってやるよ。」
この二人の関係は、なかなか良い。
直美が平蔵を看護する。
平蔵は直美の気晴らしに付き合う。
平蔵の酒に代わる何かを探すことが、直美の悲しみを紛らわせることにもなる。
誰も損をしない関係である。
恵風看護婦会では、りんが書類の整理をしている。
そこへ虎太郎がやって来る。
虎太郎は帰国の挨拶に来た。
りんは、無事で良かったと安堵する。
虎太郎は、自分がいたのは前線のずっと後方だったからと説明する。
でも、虎太郎の様子はいつもと違う。
りんは「疲れてる?」と声をかける。
虎太郎は「少しね」と答える。
その時、カラスの鳴き声が聞こえる。
虎太郎は、その鳴き声にも怯えた様子を見せる。
そして、自嘲気味に笑う。
「笑えるくらいに無力だった……。」
虎太郎は、毎日何人もの兵隊が後送されてきたことを話す。
薬も包帯もいくらあっても足りなかった。
虎太郎は戦いに行ったわけではない。
前線のずっと後方にいた。
それでも、戦場の現実を見てしまった。
傷ついた兵隊たち。
足りない薬。
足りない包帯。
自分にはどうにもできない命。
虎太郎は、その無力さを思い知ったのだと思う。
虎太郎は、昔りんがくれたハンカチーフを取り出す。
そのハンカチーフは、血がついて変色している。
虎太郎は、このハンカチーフがお守りだったと言う。
そして、向こうで知り合った兵隊に、お守りになればと渡した。
その兵隊は……。
虎太郎は、最後まで言えない。
言えないということは、その兵隊は助からなかったのだろう。
りんからもらったハンカチーフ。
虎太郎にとってのお守りだったもの。
それを誰かのために渡した。
でも、その人はおそらく死んだ。
虎太郎の中で、そのハンカチーフは、優しい思い出の品であると同時に、戦場の血に染まった記憶にもなってしまった。
虎太郎は言う。
死んでいく兵隊たちと、自分は何が違うのだろう。
「人の生き死には……。くじ引きみたいなもんだ。」
「頑張ったやつが報われるわけじゃない。」
この言葉が重かった。
虎太郎は、努力の人だった。
ツテも学もない自分が、努力だけでどこまで行けるのか試したい。
そう言って、志願して朝鮮へ向かった。
人ができないこと、知らないことをすれば、その分、上に上がれる。
そう信じていた。
でも戦場で虎太郎が見たのは、努力すれば報われる世界ではなかった。
頑張った人が生き残るわけではない。
優秀な人が助かるわけでもない。
生きるか死ぬかは、くじ引きのように決まってしまう。
虎太郎の価値観は、かなり揺らいだのだと思う。
りんは、虎太郎の手からハンカチーフを取る。
「これは、きれいにしておくね。」
虎太郎は「分からなくなった……」と言う。
これからどうしようかと悩んでいる。
りんは言う。
虎太郎は、あの頃と同じで、優しい虎太郎のままだ。
そして、
「お帰り、虎太郎」
と労う。
虎太郎は「なんだよ、改まって」と照れ笑いする。
この「お帰り、虎太郎」は、とても良かった。
戦地から日本に帰ってきた虎太郎への「お帰り」でもある。
でも、それだけではないように感じた。
あの頃と同じ、優しい虎太郎に戻ってきた。
背伸びして、虚勢を張って、上に上がろうとして、戦地まで行った虎太郎。
でも、根っこの部分は、りんを守り続けた純粋で優しい少年のままだった。
りんはその虎太郎を見ていた。
だから「お帰り」と言ったのではないか。
月明かりの縁側で、りんと直美が話している。
りんは、平蔵がどうだったかを確認する。
直美は、自分が元気づけられたと話す。
平蔵のつらさにも共感し、酒に代わる気晴らしを一緒に探すことにしたと言う。
それを聞き、りんは微笑む。
直美は、少しずつ動き出している。
吾郎を失った悲しみは消えない。
でも、平蔵の看護を通じて、自分だけではない痛みに触れている。
誰かの痛みに寄り添うことが、自分の痛みを少し支えることにもなる。
看護とは、患者のためだけではなく、看護する側にも何かを返してくるものなのかもしれない。
布団に寝かせた明のそばで、直美は吾郎の写真を見ている。
小さな瞳で、明が直美を見ている。
吾郎はいない。
でも明がいる。
明はまだ何も分からない。
でも、直美のそばに確かにいる。
直美は吾郎を失ったが、明とともに生きていくことになる。
恵風看護婦会には、捨松が来ている。
捨松は、吾郎のことについて、大山軍司令官の妻としても心からのお悔みを伝える。
そして、この戦争がきっかけで看護婦というものが認知されたことは、直美にとっては複雑なことだろうと慮る。
ここは大事だった。
戦争によって、看護婦の必要性は広く認識されるようになった。
負傷兵を看護する看護婦たちの働きは、新聞でも取り上げられた。
看護婦という職業の社会的な評価は上がったのかもしれない。
しかし、その戦争で、直美は夫を失っている。
看護婦の認知が広がったことを、単純によかったとは言えない。
捨松は、その複雑さをちゃんと分かっている。
「思わぬほうから、風は吹くものね。」
捨松はそう言う。
直美は答える。
「きっかけを気にしても、しかたありません。」
りんも続ける。
「私たちで、この風を大きくしていきます。」
この二人の覚悟は強い。
戦争は悲しみを生んだ。
吾郎を奪った。
虎太郎にも傷を残した。
それでも、そこで吹いた風を無駄にしない。
看護婦の必要性が知られたなら、その風を大きくしていく。
複雑な思いを抱えながら、それでも前に進もうとしている。
捨松は笑う。
「あの日、あの炊き出しであなたたちに声をかけた自分を褒めたいわ。」
本当にそうである。
あの日、捨松が声をかけなければ、りんと直美は看護婦の道に進んでいなかったかもしれない。
りんと直美の人生は、あの出会いから大きく動いた。
帰ろうとする捨松。
二人の覚悟を聞きに来ただけだから、もう十分だと言う。
そして捨松は伝える。
今後、看護婦はますます必要とされるようになる。
看護の本当の値打ちが問われる闘いがこれから始まる。
あなたたちの歩む道が、後に続く者の道になるはず。
「これからの看護婦をあなたたちに託します。」
この言葉は大きかった。
託すということは、今の日本の看護婦を捨松が背負っていたのか、という気持ちも少しあった。
捨松は看護婦そのものではない。
ただ、アメリカで看護を学び、日本に看護の考えを持ち帰り、梅岡看護婦養成所への道を導いた人物である。
そういう意味では、捨松は確かに、看護婦という新しい仕事を広げるための風を起こした人だった。
その捨松が、次の世代としてりんと直美に託す。
これで、看護のバトンが渡されたのだと思う。
捨松は最後に、英語で「プレッシャーかしら」と微笑みながら聞く。
直美は英語で答える。
「いいえ、望むところです。」
直美とりんは微笑み返す。
この直美は強い。
吾郎を失ったばかりで、明を育てながら、それでも「望むところです」と言える。
りんも、直美の隣にいる。
物語も終盤に差し掛かり、看護の未来はりんと直美に託された。
虎太郎「わからなくなった。これからどうしようか……」
戦地から帰ってきて、
笑えるほどに無力だったと話す虎太郎。
そんな虎太郎に、りんは……👇おかえり、虎太郎https://t.co/pslS00vLlU#朝ドラ #風薫る
見上愛 小林虎之介 pic.twitter.com/ppyaCOFmtk— 朝ドラ「風、薫る」公式 (@asadora_nhk) August 30, 2026
平蔵と直美は互いの気晴らしになっている
平蔵と直美の関係は、少し不思議で良い関係になってきた。
平蔵にとって酒は、気を紛らわせるものだった。
直美にとって平蔵の看護も、気を紛らわせるものになっている。
だから直美は、新しい気晴らしを一緒に探そうと言う。
平蔵は、あんたの気晴らしになるなら付き合ってやると返す。
患者と看護婦ではある。
でも、一方的に助ける、助けられる関係ではない。
直美も平蔵に助けられている。
平蔵も直美に助けられている。
こういう関係は、看護の中でとても大事なのかもしれない。
虎太郎は戦場で何を見てきたのか
虎太郎は、無事に帰ってきた。
でも、完全に無事ではなかった。
カラスの鳴き声に怯える。
血のついたハンカチーフを持っている。
自分の無力さを語る。
人の生き死にはくじ引きみたいなものだと言う。
虎太郎は戦場で何を見てきたのだろう。
前線の後方にいたとしても、後送されてくる負傷兵を見続けることは、相当な経験だったはずである。
薬も包帯も足りない。
助けられない命がある。
自分が何をしても、どうにもならない。
戦場は、優しすぎる虎太郎には厳しすぎたのだと思う。
努力で上に行こうとした虎太郎が見た現実
虎太郎は、努力で上に行こうとしていた。
ツテも学もない自分が、努力だけでどこまで行けるか。
それを試すために戦地へ向かった。
でも、戦場で見たのは、努力ではどうにもならない世界だった。
頑張った人が報われるわけではない。
優しい人が生き残るわけでもない。
運のように命が失われていく。
これは、虎太郎の生きる軸を揺るがす出来事だったと思う。
これからどうすればいいのか分からなくなるのも当然である。
虎太郎は、出世するために危険な場所へ行った。
でも、その出世への意欲そのものが、戦場の現実で壊されかけている。
戦争は、直美から吾郎を奪っただけでなく、虎太郎から未来まで奪おうとしているように見えた。
虎太郎、負けるな。
りんの「お帰り、虎太郎」が良かった
りんの「お帰り、虎太郎」は、とても良い言葉だった。
戦地から戻った虎太郎を迎える言葉。
そして、あの頃と同じ優しい虎太郎に戻ってきたことを認める言葉。
虎太郎は、虚勢を張っていたのかもしれない。
上に行きたい。
りんに釣り合いたい。
人がやらないことをやって出世したい。
そうやって自分を強く見せてきた。
でも、根は優しい少年のままだったのだと思う。
りんは、それをちゃんと見ていた。
だから、虎太郎はまだ戻れる。
そう感じさせる場面だった。
捨松からりんと直美へ看護の未来が託された
捨松が、これからの看護婦をりんと直美に託すと言った。
物語としては、とても大きな継承の場面だった。
捨松は、看護の風を起こした人である。
りんと直美は、その風を受けて看護婦になり、現場で経験を積んできた人である。
そして今、その二人がこれからの看護婦を背負っていく。
直美は吾郎を失った。
りんもさまざまな喪失や迷いを経験してきた。
それでも二人は、看護の未来を引き受ける。
直美が英語で「望むところです」と答えたのは、かなり強かった。
戦争がもたらした風をどう受け止めるのか
捨松は、思わぬほうから風は吹くものだと言った。
戦争によって看護婦が認知された。
これは、確かに風である。
でも、その風は多くの命を奪った戦争から吹いた風である。
直美にとっては夫を奪った戦争である。
そのきっかけを喜ぶことはできない。
ただ、きっかけを気にしても仕方ない。
直美の言葉も分かる。
起きてしまったことを消すことはできない。
ならば、その中で生まれた風を大きくし、看護の未来につなげるしかない。
それが、りんと直美の覚悟なのだと思う。
まとめ
第111回は、戦争が終わった後に残された傷と、それでも前へ進もうとする人たちの回だった。直美は平蔵の看護を続けることで自分自身も支えられ、虎太郎は戦場で見た現実に深く傷ついていた。
虎太郎の「頑張ったやつが報われるわけじゃない」という言葉は重かった。努力で上に行こうとして戦地へ向かった虎太郎が、命のくじ引きのような現実を見てしまった。戦争は吾郎の命だけでなく、虎太郎の未来まで奪おうとしているように見える。
一方で、捨松からりんと直美へ、看護の未来が託された。戦争がきっかけで看護婦が認知されたことは複雑だが、その風を大きくしていくと二人は決意する。
物語も終盤に差し掛かり、看護婦の道はりんと直美の手に渡された。直美も虎太郎も、まだ傷の中にいる。それでも、ここからどう立ち上がっていくのか見届けたい。
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