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2026年8月28日放送の『風、薫る』第110回は、直美(上坂樹里)がようやく本当の意味で吾郎(甲斐翔真)の死と向き合う回だった。
広島から戻った多江(生田絵梨花)が、吾郎の最期を直美に伝える。
吾郎は、台湾で骨折して後送されてきたものの、すでに脚気の症状が出ていた。
苦しい中でも明るく、最後まで直美のことを思っていた。
そして、多江に託したのは、取れてしまった軍服のボタンだった。
いつも取れかけていたボタン。
直美が文句を言いながらも真剣に縫い付けてくれたボタン。
それは、直美と吾郎だけの小さなコミュニケーションだった。
今回、直美はそのボタンを小川家で縫い付ける。
吾郎と過ごした空間で。
吾郎の歌声を思い出しながら。
そして、ようやく大声で泣く。
とても切ない回だった。
前回の記事はこちらです。

第110回のポイント
- 広島から戻った多江が恵風看護婦会に来る。
- 多江は、吾郎を自分が看護したことを直美に伝える。
- 吾郎は台湾で骨折して後送されてきたが、病院到着時には脚気の症状が出ていた。
- 多江は、この戦争では戦死者よりも伝染病や脚気で亡くなった人の方が多いと伝える。
- 吾郎は苦しい中でも明るかったが、次の日には呼吸もつらそうだった。
- 吾郎は多江に、直美への言葉を託す。
- 吾郎は、直美にごはんを作れそうにないこと、怒られそうなこと、会いたかったことを伝える。
- 多江は、吾郎から預かった軍服のボタンを直美に渡す。
- 吾郎は、直美が文句を言いながらもボタンを付けてくれる姿を見るのが好きだったと多江に語っていた。
- りん(見上愛)は、明を見ているから、ボタンを付けてきてあげてと直美を小川家へ送り出す。
- 直美は小川家に戻り、軍服のボタンを縫い付ける。
- ボタンを付けながら、直美は吾郎の歌声や姿を思い出す。
- 幻のように現れた吾郎は、いたずらに笑い、軍服のボタンをちぎる。
- 直美は泣き笑いで「バカ……!」と言う。
- 直美は一ノ瀬家に戻り、明を抱いて「ただいま」と言う。
- りんが「お帰り」と声をかけ、直美はもう一度「ただいま」と答える。
個人的に印象に残ったこと
今回は、広島から戻った多江が恵風看護婦会に来る場面から始まった。
多江は、吾郎を自分が看護させてもらったことを直美に伝える。
この時点で、やはりそうだったのかと思った。
前回、広島の陸軍予備病院に運ばれてきた負傷兵を見て、多江は顔をしかめていた。
あれは吾郎だったのだろう。
多江は、直美の夫の最期を看取った人として、恵風看護婦会に来た。
友人の夫の死の詳細を伝えなければならない。
これは、多江にとっても相当苦しい役目だったと思う。
吾郎は台湾で骨折して後送されてきた。
しかし、病院に到着したころには、すでに末端のしびれ、むくみ、四肢冷感、動悸の症状が出ていた。
多江は、すぐに脚気だと分かったと言う。
そして、この戦争では、戦死者よりも伝染病や脚気で亡くなった人の方が多いことを伝える。
ここが重い。
戦争というと、戦場で敵と戦って命を落とすことを想像しがちである。
でも実際には、病気で亡くなる人が多い。
怪我をして後送されても、脚気で命を落とす。
戦争は、弾や刀だけで人を殺すのではない。
衛生、栄養、病気、移送、医療体制。
そういうものも含めて、人の命を奪っていく。
これは、現場で看護にあたってきた多江だからこそ伝えられる言葉だったと思う。
多江は、吾郎は苦しかっただろうけれど、それでもずっと明るかったと話す。
でも、次の日にはもう、呼吸をするのもつらそうだったという。
寝たまま鉛筆を握る吾郎。
しかし、うまく書けない。
多江は、自分が代わりにと鉛筆を手に取る。
その時、吾郎はボタンを多江に渡す。
そして言葉を絞り出す。
「直美……ごめん……。飯……作れそうにない……。」
「ああ〜、怒られそうだ……。」
「ピリッとして……優しくて……さみしがりの……お母さんか……。」
「ああ……会いたかったなあ……。直美……。」
吾郎は、最後まで吾郎だった。
直美にごはんを作る約束を忘れていなかった。
帰ってごはんを作ってほしいと直美に言われていたことを、ちゃんと覚えていた。
そして、それができないことを謝っている。
こんな時でも、直美に怒られそうだと心配している。
直美のことを、ピリッとして、優しくて、さみしがりのお母さんだと言っている。
吾郎は、直美のことを誰よりも分かっていた。
強いだけではない。
怖いだけでもない。
明るいだけでもない。
さみしがりで、優しくて、ピリッとしている。
直美の奥にある寂しさを、吾郎はちゃんと知っていた。
吾郎は、そのまま意識を失い、その夜に亡くなった。
その話を聞き、直美の涙は止まらない。
でも、怒られそうだと言ったことに対して、
「私のこと、鬼みたいに……。」
と笑う。
泣きながら笑う直美。
吾郎との関係が、そこにある。
多江は、小さな紙の包みを差し出す。
中に入っていたのは、軍服のボタンだった。
吾郎は、軍服のボタンが取れると、直美が文句を言いながらも真剣に付けてくれること。
それを見るのが好きだったこと。
だから、見たくて、つい引っ張って、取れて、また付けてもらって、うれしくて。
そう多江に語っていた。
ここで、軍服のボタンがいつも取れそうになっていた理由が分かった。
直美の縫い方が下手だっただけではなかった。
吾郎が、わざと引っ張って取れそうにしていたのだ。
余計な仕事を増やしやがって、と思うような行為ではある。
でも、この二人にとっては、愛情を確認する行為だったのだろう。
直美が文句を言いながらボタンを付ける。
吾郎は、それを嬉しそうに見る。
何気ない日常の中で、二人はそうやって夫婦の時間を重ねていた。
ボタン付けは、ただの裁縫ではなかった。
直美と吾郎だけに分かる、二人のコミュニケーションだった。
吾郎の最後の思いを託されたのが多江でよかった。
多江でなければ、吾郎はここまで話せなかったかもしれない。
直美のことを知っている多江だからこそ、吾郎もボタンの意味を伝えられたのだと思う。
もし多江でなければ、軍服のボタンの真相は、永遠に分からないままだったかもしれない。
ボタンを前に座っている直美に、りんは言う。
明は私が見てるから、それを付けてきてあげて。
りんは、直美の手を握る。
「つけて、帰ってきて。」
このりんの心遣いが良かった。
軍服にボタンを付けるだけなら、一ノ瀬家でもできる。
でも、りんは直美を小川家へ戻らせた。
吾郎と暮らした家。
吾郎が料理をしていた台所。
吾郎の歌声が残っている場所。
そこでボタンを付けることに意味がある。
直美が、吾郎との時間を自分の中で整理するためには、あの家に戻る必要があった。
りんは、それを分かっていたのだと思う。
風呂敷包みを手に、直美は小川家へ向かう。
誰もいない小川家の居間に、一人で入る直美。
マッチを擦り、ランプを灯す。
軍服を手に取り、ボタン付けを始める。
涙を流しながら、直美はボタンを付ける。
すると、小川の歌声が聞こえてくる。
台所に目を向ける直美。
でも、家の中のどこにも吾郎はいない。
ここが本当につらかった。
吾郎はいつも台所にいた。
鼻歌を歌いながら料理をしていた。
直美にごはんを作ってくれた。
その歌声が聞こえる気がする。
でも、もう吾郎はいない。
直美の涙は止まらない。
それでも懸命に針を動かす。
「直美。」
そう呼ぶ声が聞こえる。
そこには、軍服姿で立つ吾郎の姿があった。
吾郎は、いたずらに笑い、軍服のボタンをちぎる。
直美は泣き笑いで言う。
「バカ……!」
軍服姿の吾郎も笑っている。
そして吾郎の姿は消え、直美は現実に戻る。
これは幻だったのだろう。
でも、直美にとっては必要な時間だったと思う。
もう吾郎はいない。
でも、吾郎との記憶はある。
文句を言いながらボタンを付けた時間も、吾郎がいたずらに笑っていた顔も、確かに直美の中に残っている。
直美は、小川家でようやく大声で泣くことができた。
前回、直美は吾郎の死を知らされても、どこか無表情だった。
すぐに仕事へ戻ろうともした。
一ノ瀬家にはりんも美津も環も明もいる。
だからこそ、逆に大声で泣けなかったのかもしれない。
強がっていたのかもしれない。
でも、小川家には吾郎との時間がある。
そこで一人でボタンを付けることで、直美はようやく悲しみを解放できたのだと思う。
一ノ瀬家では、りんが明をあやしている。
直美が戻ってくる。
直美は明を抱き明に向かって
「ただいま。」という。
りんが「お帰り」と声をかける。
直美は、もう一度「ただいま」と答える。
この「ただいま」が良かった。
直美は小川家へ行って、吾郎と過ごした時間に別れを告げてきた。
そして一ノ瀬家へ帰ってきた。
明のいる場所へ。
りんのいる場所へ。
今の自分が生きていく場所へ。
完全に立ち直ったわけではない。
そんなはずはない。
でも、直美は帰ってきた。
明を抱いて、もう一度「ただいま」と言えた。
そこに、これから前を向くための小さな一歩があったと思う。
直美はボタンをつけながら……
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上坂樹里 甲斐翔真 pic.twitter.com/ip56DugWWY— 朝ドラ「風、薫る」公式 (@asadora_nhk) August 27, 2026
多江が吾郎を看取ってくれてよかった
多江は、看護婦として吾郎の最期を見ていた。
友人の夫の死を伝えなければならないのは、とても苦しい役目だったと思う。
それでも、多江だからこそ伝えられたことがある。
脚気のこと。
戦争では戦死者よりも病気で亡くなる人が多いこと。
吾郎が苦しい中でも明るかったこと。
最後まで直美に会いたがっていたこと。
そして、ボタンの真相。
これは多江でなければ直美に届かなかったかもしれない。
多江がそこにいてくれてよかった。
吾郎も、直美を知っている多江に託せたから、最後の思いを言葉にできたのだと思う。
ボタン付けは二人だけの愛情表現だった
吾郎がわざとボタンを引っ張って取れそうにしていたという事実は、普通に考えれば迷惑である。
直美の仕事を増やしている。
でも、二人にとっては違ったのだろう。
直美が文句を言う。
それでも真剣にボタンを付ける。
吾郎はそれを見るのが好きだった。
直美が自分のために手を動かしてくれる時間。
文句を言いながらも、ちゃんと向き合ってくれる時間。
吾郎にとっては、それがうれしかった。
ボタン付けは、夫婦の会話であり、愛情表現だったのだと思う。
だから最後に、吾郎はボタンを多江に託した。
直美にもう一度、ボタンを付けてもらうために。
りんの心遣いが直美を泣かせた
りんは、直美にボタンを付けてきてと言った。
明は私が見ているから。
これはとても大きな心遣いだった。
直美は一ノ瀬家にいれば、明の母であり、りんたちの前の直美でいなければならない。
泣き崩れることも、感情を全部出すことも難しい。
でも小川家なら、吾郎と二人で過ごした場所なら、直美は直美として泣ける。
りんはそれを分かっていた。
ボタン付けをきっかけに、直美を小川家へ帰らせた。
そのおかげで直美は、吾郎の不在を感じ、吾郎を思い出し、やっと大声で泣けた。
りんのバディとしての寄り添いが、ここでも生きていた。
直美はようやく悲しみを解放できた
直美の喪失感は計り知れない。
やっと手にした幸せだった。
吾郎と結婚し、明を授かり、明るい未来を願った。
その矢先に、吾郎は戦争で帰らぬ人になった。
前回の直美は、すぐに仕事へ戻ろうとしていた。
それが悪いわけではない。
働くことで痛みを逃がせることもある。
でも、直美はまだ十分に泣けていなかったのだと思う。
今回、小川家で軍服のボタンを付けながら、吾郎の歌声を思い出し、幻のような吾郎に会い、直美はようやく泣いた。
悲しみを解放できた。
ここから前を向くには、まだ時間がかかるだろう。
でも、明のためにも、直美はきっと立ち上がると思う。
吾郎は最後まで直美を分かっていた
吾郎は、直美のことを本当によく分かっていた。
ピリッとしている。
優しい。
さみしがり。
お母さんになる直美を、そう見ていた。
直美は強い。
でも、寂しがりでもある。
そこを吾郎は分かっていた。
だからこそ、一人にしないと約束したのだろう。
その約束を守れなかったことを、吾郎は最後まで悔やんでいたのかもしれない。
ごはんを作れない。
怒られそうだ。
会いたかった。
その言葉の一つ一つが、直美への愛情だった。
直美は「ただいま」と言えた
最後の「ただいま」がとても良かった。
直美は小川家に戻り、吾郎との時間に触れた。
そして一ノ瀬家に帰ってきた。
明を抱いた。
りんが「お帰り」と言った。
直美は「ただいま」と答えた。
これは、直美が今の場所へ戻ってきたということだと思う。
吾郎はいない。
でも、明がいる。
りんがいる。
一ノ瀬家がある。
恵風看護婦会もある。
直美は、これからも悲しみを抱えながら生きていく。
でも、帰る場所はある。
そのことが、少しだけ救いだった。
まとめ
第110回は、吾郎の最期の言葉と、軍服のボタンの真相が明かされる回だった。吾郎が最後まで直美のことを思い、会いたがっていたことが伝わってきて、とても切なかった。
ボタン付けは、直美と吾郎だけに分かる愛情表現だった。文句を言いながらも真剣に縫い付ける直美と、それを見るのが好きだった吾郎。その小さな日常が、最後にこんなに重い意味を持つとは思わなかった。
りんが直美を小川家へ送り出したことも良かった。吾郎と過ごした場所で、直美はようやく大声で泣くことができた。悲しみを解放するために必要な時間だったのだと思う。
直美と吾郎の結末は本当に切ない。それでも、直美は明を抱いて「ただいま」と言えた。壊れるほど頑張る必要はないが、きっと直美はまた立ち上がる。頑張れ、直美。
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