『あんぱん』第50回は、戦時下における別れのリアルと、人間の心の叫びがこれでもかというほど胸に響いた回だった。嵩(北村匠海)がついに出征の日を迎え、それを見送る母・登美子(松嶋菜々子)とのぶ(今田美桜)の言葉は、私の心を深く揺さぶった。
嵩の出征と町の空気の変化
坊主頭で現れた嵩。その姿に、のぶはすべてを悟り、「おめでとうございます」と頭を下げた。この言葉には表面的な祝福ではなく、戦時下の“正しい態度”を装いながらも、心の底では嵩の無事を祈る、のぶの複雑な感情がにじんでいた。
母・登美子が叫んだ“命の言葉”
出征の見送りの場面で、嵩の母・登美子がようやく口にした言葉は、どれも涙なしには聞けなかった。
「死んだらダメよ!」
「絶対に帰ってきなさい!」
「逃げ回ってもいいから、卑怯だと思われてもいいから、何をしてもいいから!生きて帰ってきなさい!」
「死んだらダメよ、生きるのよ!」
これまで気丈に振る舞ってきた母が、ついに感情を爆発させた瞬間。息子を想う気持ちが一気にあふれ出し、その叫びがあまりにも真っ直ぐで、私の胸に強く突き刺さった。
のぶがようやく伝えた本音
のぶが最後に叫んだ言葉もまた、深く印象に残った。
「必ず、もんてき!」
「死んだら承知せんき!」
これまで言えなかったその一言を、嵩に向かって叫ぶことができたのぶ。想いを押し殺し続けてきた彼女の心が、この瞬間にやっと解放されたように見えた。
新たな登場人物・八木信之介の登場
物語のラストでは、小倉連隊の上等兵・八木信之介(妻夫木聡)が登場。「お前、何者だ?」という問いかけから、これから始まる嵩の新しい生活と、その中での人間関係がどう展開していくのか、大きな転機を予感させる締めくくりだった。
言葉にできた想い、言葉でしか伝えられなかった想い
この第50回では、「生きて帰ってきてほしい」という想いを、ただただ真っすぐに言葉にする登場人物たちの姿が描かれた。戦時下という過酷な状況の中で、それでも伝えたいこと、伝えなければいけないこと。その強さと優しさに、ただただ涙がこぼれた。
『あんぱん』の中でも屈指の名シーンが詰まった回。忘れられない朝となった。