2026年3月26日に放送された『どんど晴れ』第136回。
第136回は、加賀美屋の新しい企画が動き出す明るさと、イーハトーブで静かに終わってしまうアキの恋が並行して描かれた回だった。横浜では啓吾が夏美に頼まれた加賀美屋オリジナルの洋菓子について考え、加賀美屋でもその話題で盛り上がる。夏美が若女将として“新しい加賀美屋”を形にしようとしている流れはかなり前向きだ。だがその一方で、イーハトーブではアキが思い描いていた家族の形が裕二郎には届かず、思いは実らないまま終わってしまう。今回は、新しいものが生まれようとする喜びと、もうそこにはいられないと感じた人の切なさが、同じ回の中に同時に置かれた回だった。
※この回は、前日の展開を踏まえて見ると、より重みが増します。
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朝ドラ再放送『どんど晴れ』第135回感想(ネタバレ)──夏美の笑顔は秋山に何を見せたのか 加賀美屋に忍び寄る本当の危機
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夏美の洋菓子企画が動き出す――盛り上がる周囲の中で、伸一だけが浮かない顔をする
- 横浜の朝倉家では、夏美が加賀美屋オリジナルの洋菓子を作ろうとしていることが話題になり、家族が盛り上がる。
- 房子(森昌子)は智也(神木隆之介)の進路のことを気にしている。
- 啓吾(大杉漣)は智也に将来何をやりたいのかを尋ねる。
- しかし智也は、この年で何をやりたいかなんて分かるわけがないと答える。
- 房子は心配するが、啓吾はそんなに焦ることはないと言う。
- 房子と啓吾は、夏美(比嘉愛未)も以前はパティシエになりたいと言っていたのに、今こうして女将をやっているとは思いもしなかったと振り返る。
- 房子は、加賀美屋の洋菓子作りに協力できてよかったですねと啓吾に声をかける。
- 啓吾もそれを喜ぶが、その時ふと頭痛の兆候を見せる。
- 一方、加賀美屋でも夏美の洋菓子の話題で盛り上がっている。
- 環(宮本信子)と久則(鈴木正幸)は、夏美の腕が生かせることを喜ぶ。
- 柾樹(内田朝陽)は、夏美の父が国際コンクールで優勝するほどのパティシエだと説明する。
- みんなが盛り上がる中で、伸一(東幹久)だけが元気のない様子を見せる。
- その伸一の様子に、環と夏美は心配そうな表情を見せる。
個人的感想
朝倉家では加賀美屋オリジナルの洋菓子の話で盛り上がっていたが、自分としては、啓吾が手伝うのはあくまで夏美のデザインや構想を形にするまでのアドバイス段階だと思っている。さすがに、わざわざ横浜から納品までさせることはしないよなという感覚だ。劇中では洋菓子をケーキと言っていたし、試作品ができて商品化できると判断した後は、製造自体は盛岡でやる流れになるのではないかと思う。どうなんだろう。まだ商品化できるかどうか分からない段階から、お金を払って地元業者に頼めというのが多数意見なのだろうか。自分としては、そこにコストをかけるのはもったいない気がする。実の親が名の通ったパティシエなんだったら、まずはその力を無償で使い倒すくらいでいいようにも思うのだが、これはあまり受け入れられない少数派の意見なのかもしれない。
智也の進路の話も出ていたが、まだ中3なんだから、将来何をやりたいかなんて分からなくて当然だと思う。せいぜい行きたい高校をぼんやり考えるくらいだろうし、啓吾の「そんなに焦ることはない」の方がやはり正しい気がする。房子は少し心配しすぎにも見えるが、母親というのはそういうものなのだろうか。
せっかく啓吾が、娘のために洋菓子作りで協力できそうだと喜んでいるのに、ここで頭痛の兆候を見せてくるのが嫌な流れだなと思った。もしこれが大きな病気につながって、夏美に協力できなくなるような展開だとしたら、脚本家はかなり鬼だなと思ってしまう。
そして加賀美屋でも夏美の洋菓子企画で盛り上がっているのに、伸一だけが分かりやすく元気がない。環も夏美もそこに気づいて心配そうな顔をしていたが、もう周囲が前へ進もうとすればするほど、伸一だけがその流れに乗れなくなっている感じがして少し苦しかった。
この場面は“洋菓子企画の始動”であると同時に、“夏美の実家の力が加賀美屋に流れ込む場面”でもある
単に夏美が新しい商品を考えているだけではない。
ここでは、啓吾という外部の専門性が、加賀美屋の新しい魅力づくりに結びつこうとしている。
つまりこの企画は、
夏美個人のアイデアであると同時に、
朝倉家の技術や人脈が加賀美屋に接続される企画
でもある。
夏美が若女将として、加賀美屋の外の資源を持ち込める存在になってきたのが大きい。
智也の進路の話は、“将来は予定通りに決まらない”という前振りにも見える
智也は、今の年で将来何をやりたいかなんて分からないと言う。
その流れで、房子と啓吾は、夏美も昔はパティシエ志望だったのに今は女将をやっていると振り返る。
これはつまり、
人の進路や人生は、若い頃に思っていた通りには進まない
という話になっている。
何気ない家族の会話に見えて、
人生の流れの読めなさをかなりきれいに置いている場面だと思う。
啓吾の頭痛は、“喜ばしい企画”に不穏さを差し込む記号になっている
娘のために協力できる。
その話で盛り上がっていた直後に、啓吾が頭痛の兆候を見せる。
これはかなり露骨な不穏の入れ方だと思う。
まだ病気とは決まっていないが、少なくとも視聴者には
この先に何かあるかもしれない
と意識させる作りになっている。
明るい話題の中に嫌な影を差し込む、このドラマらしいやり方だと思った。
洋菓子の話で盛り上がる加賀美屋は、“新しい未来”をかなり前向きに見始めている
環も久則も、夏美の腕が生かせると素直に喜んでいる。
柾樹も啓吾の実績を誇らしげに説明している。
つまり加賀美屋の中ではもう、
夏美の企画を新しい武器として受け入れる空気
ができている。
この前向きさは、昔の加賀美屋ならもう少し抵抗があってもおかしくなかった。
そこはかなり変わってきたところだと思う。
その中で伸一だけが元気がないのは、“企画に反対”なのではなく、“心がそこに乗れない”からだと思う
伸一は洋菓子の話そのものに反発しているわけではなさそうだ。
でも心ここにあらずで、輪の中に入れていない。
つまりここで見えているのは意見の対立ではなく、
気持ちの参加ができなくなっている状態
なんだと思う。
周りが未来の話をしている時に、一人だけ現在の火種に足を取られている。
このズレがかなり大きい。
環と夏美が同時に伸一を気にするのも象徴的
洋菓子企画で場が盛り上がる中、
その伸一の異変に気づくのが環と夏美。
この二人が同時に目を向けているのはかなり象徴的だと思う。
つまり今、加賀美屋で
表の改革や新企画を見る目と
内部の危うさを見る目
を持っているのがこの二人になってきている。
女将と若女将の連携が、こういう形でも見えている。
この場面は、“新しい企画が生まれる明るさ”と“伸一がそこに入れない苦さ”を同時に見せている
朝倉家でも加賀美屋でも、基本の空気は明るい。
新しい企画が動き、家族も協力し、未来の話ができている。
でもその横で、啓吾の頭痛と伸一の沈み方という二つの不穏が置かれている。
だからこの場面は、
前向きな始まりの場面であると同時に、
その前向きさを素直に喜べない人や、先に起こりそうな影も一緒に見せる場面
になっている。
かなり嫌な予感の残し方だと思った。
秋山が伸一を取り込む――弱みを処理してくれる“理解者”の顔で差し出された全面建て替え案
- 秋山(石原良純)に呼び出され、伸一が秋山の事務所を訪れる。
- そこには秋山が呼んだレナ(野波麻帆)が待っている。
- 秋山は、その方が話が早いと言い、レナと伸一の問題に決着をつけようとする。
- 伸一は、レナに対する罪悪感を秋山に打ち明ける。
- 秋山は、この一件はこれで終わりだと言う。
- さらに、もし万が一レナが何か言ってきても、自分が伸一の代わりに引き受ける、それが間に入った者の責任だと話す。
- 伸一は、自分のために親身になってくれる秋山を信用し始める。
- 秋山は加賀美屋を褒める一方で、問題点も指摘する。
- 伸一は、何か気づいたことがあったら言ってほしいと秋山に頼む。
- 秋山は、このままでは近いうちに加賀美屋は潰れると言う。
- 秋山は、自分は世界各地の一流ホテルにも泊まってきたが、日本の老舗旅館として有名な加賀美屋に泊まってみると、思っていた以上に古くさかったと話す。
- 伸一は、加賀美屋は伝統と格式が売りだと反論する。
- しかし秋山は、伝統と古くささは違うと返す。
- 秋山は、あのままでは昔からの常連客は来ても、新規客を呼び込むことは無理だと言う。
- そのうえで、一つだけ打開策があると話す。
- その打開策として、全面建て替えをして高級リゾートのようにし、由緒ある加賀美屋の名前は残したまま、時代のニーズに合ったホテルに建て替える案を提案する。
- 秋山は、その具体策についても伸一に説明する。
- それは伸一が考えていた案と同じであり、二人は意気投合する。
- 伸一は、次回には設計図を持ってくると言い、その場を去る。
- その直後、秋山の電話が鳴る。
- 相手は秋山の上にいる梶原(中尾彬)という人物で、梶原は順調にいきそうかと確認する。
- 秋山は「ええ」と答え、口座にお金を振り込むよう頼む。
- 梶原はそれを了承する。
個人的感想
レナとの問題はこれで本当に決着がついたのだろうか。意外なほどあっさりレナが引いていたので、むしろ今後またどこかで出てくるんじゃないかと勘繰ってしまう。秋山とレナが完全にグルなのはほぼ間違いないと思っているが、それでも伸一が「レナと付き合うつもりはない」と言った時のレナの表情は本当に悲しそうに見えた。なかなかの役者だなと思う。可能性としては、①本当に伸一のことが好き、②秋山のことが好きだから協力している、③完全に金のためと割り切っている、④秋山に弱みを握られている、このあたりだろうか。どういう動機でレナが動いているのかは、今後ちゃんと答え合わせがあってほしい。
レナに罪悪感を抱いている伸一に対して、秋山が「いいんですよ、男と女は」とか「きっぱり突き放すのも男らしさですよ」と言うのは、今ならかなり危うい発言だと思う。実際に何があったのかは曖昧なままなのに、不貞行為自体を軽く扱い、女性を軽く見ているように受け取られてもおかしくない。ただ、追い詰められていた伸一にとっては、ここまで「大丈夫だ」「自分が何とかする」と安心させてくれる存在はかなり大きかっただろう。今後レナが何か言ってきても秋山が解決してくれるというのだから、伸一としては肩の荷が降りたような気持ちになったはずだ。どんな代償を払うことになるかは分からないが。
そして、ここまで信用させてしまえば秋山はもうかなりやりやすい。どこかで伸一の全面建て替え案をリサーチしておいて、それを自分の案のように説明するだけでいいのだから。伸一から見れば、自分が話したわけでもないのに、経営コンサルタントがまったく同じ案を提案してくる。そりゃ陶酔するだろうなと思う。もう完全に伸一は秋山の手の中に落ちたように見えた。
ただ、前から言っているように、加賀美屋が伝統と格式に縛られてアップデートできていないのは事実なんだよな。だから全面建て替え案そのものが全否定される話ではないと思う。実際、柾樹も改革しようとしているし、カツノも新しい風を期待していた。要するに、伸一の案がダメだったというより、それを銀行に納得させる材料がなかったということなんだろう。そして、もしその資金を銀行ではなく秋山の背後にいる組織が出すという話になるなら、伸一は完全に秋山側に引き込まれていくことになる。実際、最後に梶原が口座に金を振り込むと言っていたから、あれは伸一を信じ込ませるための見せ金として使うのだろうなと思った。
これは“脅し”より、“救済”の顔をした取り込みの場面
秋山は伸一を追い詰めるだけでは終わらない。
むしろ今回は、レナの件を片づけてやる、自分が引き受ける、と言って
救ってくれる側の顔
を見せている。
ここがいちばん危ない。
脅される相手ならまだ警戒できるが、助けてくれる相手には依存しやすい。
秋山はそこをよく分かって動いている。
レナは“終わった女”ではなく、“終わったことにするための装置”として使われている
今回のレナは、物語上いったん引いたように見える。
でも本当に役目が終わったのではなく、
伸一に「もう大丈夫だ」と思わせるために配置された存在
に見える。
つまりレナ本人が引いたというより、
秋山が「これで片づいた形」を演出するために使っている。
だから今後また出てきても全く不思議ではない。
秋山は“伸一の罪悪感”まで利用している
伸一は恐怖だけで動かされているわけではない。
レナに悪いことをしたかもしれないという罪悪感も抱いている。
秋山はそこに対しても、男と女のことだ、これで終わりにしよう、と
都合のいい整理を与えている。
つまり秋山は、
恐怖を和らげるだけでなく、罪悪感まで軽くしてやることで信用を得ている
のだと思う。
かなり巧妙だ。
全面建て替え案が効くのは、“伸一の願望”とぴったり重なるから
秋山の提案が強いのは、斬新だからではない。
伸一がもともと心の中で温めていた案と重なるからだ。
つまり伸一にとっては、新しい提案というより
やっぱり自分の考えは間違っていなかったと証明してくれる言葉
になっている。
だから意気投合する。
ここは案の良し悪し以上に、承認の問題なんだと思う。
「伝統と古くささは違う」は、言っていること自体は間違っていない
秋山の怖さは、全部が嘘ではないところだ。
加賀美屋が古さを抱えているのは事実だし、
新規客を呼び込む課題があるのも事実だろう。
だからこそ伸一は引っかかる。
つまり秋山は、
事実の一部を正しく言うことで、危ない提案全体を正しく見せている
のだと思う。
ここが詐欺的な人間の厄介さでもある。
伸一は“自分の案を理解してくれる人”に飢えていた
銀行は数字を求める。
家族は柾樹を評価する。
その中で秋山だけが、全面建て替えという伸一の夢を正面から肯定する。
しかも、古くさい、今のままではだめだ、と
伸一がずっと感じていたであろう不満まで言語化してくれる。
だから伸一にとって秋山は、怪しい人間である前に
初めて自分を分かってくれた相手
に見えてしまうのだろう。
そこがかなり危ない。
梶原の電話で、“個人の思いつき”ではなく“組織的な仕掛け”だとはっきりする
最後に梶原から電話が入り、口座に金を振り込むよう頼む。
この一件で、秋山の動きが単独ではなく
背後に資金と指示を出す組織がある仕事
だとかなり明確になる。
しかもその金が、伸一を信用させるための材料として使われる可能性が高い。
そう考えると、伸一が相手にしているのは怪しいコンサル一人ではなく、
もっと大きな仕掛けそのものなんだと思う。
この場面は、“伸一が騙された場面”というより、“伸一が自分から寄っていった場面”として重い
秋山が悪いのは当然だ。
でも今回を見ていると、伸一はただ一方的に騙されたのではなく、
自分の弱さや願望に引っ張られて、秋山の言葉に自分から乗っていっている。
だからこそ苦い。
つまりこの場面は、
外から悪意が来ただけではなく、
伸一の内側にあった承認欲求と全面建て替えへの執着が、秋山とぴたり噛み合ってしまった場面
としてかなり決定的だったと思う。
イーハトーブに流れた甘さと痛み――夏美の新しい夢と、アキの失恋が交差する場面
- 夏美は久しぶりにイーハトーブを訪れ、佳奈(川村ゆきえ)とビリー(ダニエル・カール)に洋菓子のデザイン案を見てもらっている。
- 裕二郎(吹越満)のじゃじゃ麺が出来上がり、夏美は喜ぶ。
- 裕二郎も夏美の洋菓子のデザインを確認する。
- 佳奈から連絡を受けた聡(渡邉邦門)が、平治(長門裕之)の工房の休憩中に夏美に会いに駆けつける。
- 夏美は、自分はまだまだ修業中の身だから、なかなか顔を出せないのだと聡に説明する。
- アキ(鈴木蘭々)が咲(兼崎杏優)の幼稚園のお迎えから帰ってくる。
- 咲が描いた、父・裕二郎とアキと自分の三人の絵を見て、佳奈はまるで家族みたいで、アキがお母さんみたいだと言う。
- 裕二郎は、アキには本当のお母さん代わりみたいに面倒を見てもらっていると話し、咲もアキのことが大好きだと分かる。
- 裕二郎とアキは、咲の絵をイーハトーブの壁に貼ろうとする。
- その時アキは、この絵のような家族になれたらいいねと裕二郎に言う。
- しかし裕二郎は、アキは「仲間だ」、イーハトーブの仲間だ、自分はそれでいいと思っていると答える。
- 元気のないアキの様子を見て、夏美が「どうかしたんですか」と声をかける。
- アキは夏美に、また旅に出ようかなあと話す。
- そして翌朝、アキはまた旅に出ていく。
- ナレーションは、アキの思いが実を結ばなかったのだと夏美が気づいたと語り、その日の放送は終わる。
個人的感想
夏美が描いた洋菓子のデザイン案は、ケーキのような絵で、少なくとも焼き菓子という感じではなかった。やっぱり夏美は絵がうまいよね。以前も手作りマップみたいなものを作っていたし、そういう見せ方のセンスはもともとあるんだと思う。
それにしても、夏美は大好きな裕二郎のじゃじゃ麺をまた食べられてよかったなと思った。劇中ではじゃじゃ麺ばかり食べている印象が強いけど、店の前の黒板には「じゃじゃ麺あるよ」と読めそうな文字もあったし、他の料理を出している描写も前にあった。わざわざ黒板に書くくらいだから、むしろじゃじゃ麺は特別メニューで、普段のレギュラーメニューは別にあるのかもしれない。
佳奈に連絡をもらって、休憩時間に抜けてまで会いに来る聡も相当だなと思った。そんなに夏美に会いたいのかと少し笑ってしまう。逆に言えば、佳奈がわざわざ聡に夏美が来ていると知らせたということは、佳奈はもう聡のことを吹っ切れているのか、それとも逆に、もう聡と佳奈はそういう距離になっているのか、そこが少し気になる。工房とイーハトーブの距離感も、こうしてすぐ行き来できるくらい近いんだろうなと思った。
夏美はまだまだ修業中だと言い、今は若女将の修業をしていると言っていたが、ここで少し整理が必要なんだろう。今までずっと「女将修業」だと思って見ていたけど、実際には最初の頃は仲居として現場を覚える意味合いが強くて、ここに来てようやく「仲居修業」からは卒業し、「若女将修業」に移ったという理解でいいのかもしれない。前に環が、女将という仕事に終わりはないと言っていたから、結局は一生修業なのだろうけど。
アキが咲を迎えに行って帰ってくる場面も印象的だった。幼稚園が昼までの日は裕二郎が忙しくて迎えに行けないから代わりに行っているというような話だと思うが、そもそもイーハトーブに一般客がたくさん入っている印象があまりないから、「忙しい」という言葉には少し違和感もある。ただ、仮に本当に忙しかったとしても、アキに迎えまで頼んでいる以上、アキの好意をかなり生活の中で便利に使っているように見えてしまうのは仕方ないと思う。
裕二郎はアキが自分に好意を持っていることには、おそらく前から気づいていたはずだ。それでもその好意にきちんと向き合わず、咲の世話や家のことだけ受け取っていたのだとしたら、アキはかなりかわいそうだ。そして、アキが勇気を出して、この絵みたいな家族になれたらいいねとほとんどプロポーズのようなことを言ったのに、返ってきたのは「仲間だ」という言葉だった。裕二郎には、やはり女性と改めて家庭を作ることへの怖さや苦手意識があるのだろうか。
ただアキも、断られて居づらくなるのは分かるけど、翌朝すぐ旅に出て姿を消すのはさすがに急すぎる。これはかなり衝動的な行動にも見えるし、逆に告白がうまくいかなかったら出て行こうと前から決めていたようにも見える。いずれにしても、何も言わず急にいなくなられたら周りは驚くよなと思う。でも「旅に出る」という言い方だから、たぶん下宿を完全に引き払うのではなく、ひとまず気持ちを整理するために離れるだけで、落ち着いたら戻ってくるつもりなのではないかとも思った。
そして何より、いっつも何かに気づかない夏美が、今回はちゃんとアキの思いが実らなかったのだと気づいた。ここはちょっと成長を感じた。逆にここでまだ理由も分からず「どうしてだろう」となっていたとしても、それはそれで驚きはしない。
この場面は“夏美の新しい企画”と“アキの終わった恋”を並べているのがかなり残酷
前半は、洋菓子のデザイン、じゃじゃ麺、久しぶりの再会と、かなり温かい空気で進んでいる。
でもそのすぐ横で、アキの片思いは静かに終わっていく。
つまりこの場面は、
新しいものが生まれようとしている空気と
一つの気持ちが終わっていく痛み
を同時に置いている。
だから余計にアキの寂しさが際立つ。
咲の絵が“家族の理想像”を先に見せてしまうからきつい
アキと裕二郎が家族みたいだ、アキがお母さんみたいだ、という話が出たあとで、
咲が描いた三人の絵まで出てくる。
つまりアキの前には、
自分が入りたい未来の形
がかなりはっきり見えてしまっている。
だからこそ、そのあとで「仲間だ」と言われる落差が大きい。
夢を見たあとに現実を突きつける流れとしてかなりきつい。
裕二郎は悪人ではないが、“無自覚に人を傷つける側”として描かれている
裕二郎はアキを利用しようと明確に考えているようには見えない。
でも、咲の世話や日常の支えを受け取りながら、
肝心の気持ちにはきちんと答えない。
この構図はかなり残酷だと思う。
つまり裕二郎はここで、
自分に向けられた好意の重さには向き合わず、便利さだけを受け取っていた人
にも見えてしまう。
悪意がないぶん、かえって痛い。
「仲間だ」は優しい言葉ではなく、“これ以上は入ってくるな”という線引きになっている
イーハトーブの仲間だ。
一見すると温かい言葉にも聞こえる。
でもアキが求めていたのはそこではない。
家族になれたらいいねという言葉に対して仲間だと返すのは、
かなりはっきりした拒絶だと思う。
つまりここでの「仲間」は、受け入れではなく
家族にはしないという境界線の言い換え
になっている。
だから柔らかい言葉なのに痛い。
アキの旅立ちは、失恋のショック以上に“居場所の喪失”として重い
告白がうまくいかなかっただけなら、落ち込むで終わる話かもしれない。
でもアキの場合は、イーハトーブそのものが居場所になっていた。
そこにいれば咲と裕二郎と近くにいられたし、
自分の役割もあった。
それが「仲間」にとどまるのだと分かった瞬間、そこにいる意味ごと揺らぐ。
だから今回の旅立ちは、単なる失恋ではなく
ここにいても仕方がないという感覚からの離脱
としてかなり重い。
夏美が今回はちゃんと気づけたのも、以前より人の感情を見る余裕ができたからかもしれない
以前の夏美なら、表面の変化には気づいても、
そこにある恋心や失望までは読み切れなかったかもしれない。
でも今回は、アキの旅立ちを見て、
その思いが実らなかったのだとちゃんと理解している。
これは単に説明されたからではなく、
若女将として人の気持ちを見る訓練を重ねたこと
も少しは効いているように見えた。
この場面は“イーハトーブの温かさ”が、そのままアキには残酷に作用している
じゃじゃ麺があって、咲がいて、佳奈もビリーもいて、
みんなが自然に一緒にいる。
イーハトーブは本来、あたたかい場所として描かれている。
でも今回、その温かさがあるからこそ、
アキには「自分だけ届かなかったもの」がはっきり見えてしまう。
つまりこの場面は、
あたたかい場所にいるのに、一番さみしい人が生まれてしまう
という構図になっていて、そこがかなり切なかった。
まとめ
今回の第136回は、夏美が加賀美屋の未来を作る側へさらに進んでいく回だったと思う。洋菓子の企画は、単に夏美が得意分野を生かすというだけではなく、実家の啓吾の技術まで加賀美屋に接続していく動きとして見えていた。若女将として、自分の外にある力を引っ張ってきて新しい価値を作ろうとする姿はかなり前向きだったし、環や久則、柾樹がそれを素直に歓迎しているのもよかった。だからこそ、啓吾が頭痛の兆候を見せたのはかなり嫌な流れで、ここに何か大きな不穏がつながらないといいのだがと少し不安になった。
その一方で、イーハトーブのパートはかなり切なかった。咲の描いた絵のような家族になれたらいいねというアキの言葉は、もうほとんど告白そのものだったのに、裕二郎は「仲間だ」と返す。その言い方は柔らかいが、実際にはかなりはっきりした拒絶だったと思う。しかもアキは、ただ失恋しただけではなく、自分が居場所にしていたイーハトーブそのものにいづらくなってしまった。だから翌朝すぐに旅に出るのも、衝動的ではあるけれど分からなくはない。あの温かい場所が、そのままアキには残酷な場所になってしまったのが苦しかった。
そして今回は、いっつも鈍い夏美がちゃんとアキの思いが実らなかったのだと気づいたのも少し印象的だった。若女将として人の気持ちを見ようとしてきたことが、こういうところにも少し出てきたのかもしれない。第136回は、加賀美屋の未来に向かう明るい動きがある一方で、誰かの思いがきれいに報われずに終わってしまう痛みもはっきり描かれた回だった。だから見終わったあと、前向きさと切なさの両方がかなり強く残る回だったと思う。
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