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2026年3月19日に放送された『どんど晴れ』第130回。
銀行から融資に前向きな反応を引き出し、加賀美屋の再建にようやく光が見えてきた第130回。だが、その前進は素直に喜べるものではなかった。家族がこぞって柾樹を評価するほど、伸一は自分の立場が崩れていく痛みを味わうことになる。一方で夏美は、大女将カツノを失った悲しみからまだ抜け出せず、一人になるとついカツノの部屋に足が向いてしまう。そして、その不安定さはついに実務上のミスとして表面化した。今回は、加賀美屋が前へ進もうとするほど、人の心のズレや組織の綻びが逆にはっきり見えてくる回だった。
※この回は、前日の展開を踏まえて見ると、より重みが増します。
👇 前回(第129回)の感想はこちら

柾樹の独壇場になった夕食――伸一が“居場所のなさ”を突きつけられる時間
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母屋で夕食が開かれ、柾樹(内田朝陽)が銀行に行ったことで融資がおりるかもしれないと、加賀美家の家族たちと時江(あき竹城)が喜んでいる。
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浩司(蟹江一平)は、伸一(東幹久)が今まで何度銀行に行っても融資の話は全部ダメだったのにと口にする。
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さらに浩司は、伸一の話は相当大きくなっていた、イギリスから設計士まで呼んで模型まで作っていたことを引き合いに出し、「夢見る兄貴」とくさす。
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その発言に、環(宮本信子)と久則(鈴木正幸)も思わず呆れ笑いを見せる。
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父や母まで笑っている様子を見て、伸一は不機嫌そうな表情を見せる。
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柾樹は、自分が銀行にすぐ提案できたのも、伸一がきちんと銀行と付き合ってきたからだとフォローする。
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夏美も、伸一が信頼関係を築いていてくれたおかげだと続ける。
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しかし浩司は、柾樹が帰ってきてくれなかったら自分たちはどうなっていたか分からないと嘆く。
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その発言を、伸一は悲しげに聞いている。
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余計な一言が多い浩司を黙らせるように、夏美と柾樹はご飯のおかわりを勧める。
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環は、柾樹の作った改革案がよくできていたと評価する。
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柾樹は、融資さえしてもらえればその後の展開はこちらでいろいろできると話す。
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さらに柾樹は、新規客を呼び込む案を皆に説明する。
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皆がその説明を聞き入る中、伸一だけが浮かない表情を見せている。
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環は、その伸一の様子を見逃さない。
個人的感想
母屋での夕食の場面だが、相変わらず恵美子(雛形あきこ)の前には食事がない。ここまで来ると、恵美子は子どもたちと一緒に先に夕食を済ませているんだろうなと思えてくる。そして、また当たり前のように時江がいる。住み込みで働いているような距離感だなとあらためて感じる。
柾樹のおかげで融資がうまくいきそうで、しかも融資担当が柾樹のいた横浜のホテルの成功事例を雑誌で知っていたから、伸一としても最初は鼻が高かったのだろう。ここまではたしかに上機嫌だった。ところが浩司が空気も読まずに、兄である伸一は融資に失敗してきたと笑いものにするような発言をしてしまうのはいただけない。伸一が、自分の全面建て替え案と柾樹のリフォーム案ではそもそも融資額が違うのだから仕方がないと、苦しい言い訳をしている姿はかなり痛々しかった。
時江だけは全面的に伸一の味方をしてくれていて、その点では恵美子も少し救われていたのではないかと思う。逆に言えば、それまでずっと伸一寄りだったはずの環や久則までが笑ってしまっているのがきつい。今までは自分の案が家の中心にあったのに、ここへ来て一気に柾樹が褒められ、自分は夢見がちな人間だったかのように扱われる。この空気の変化は、伸一にとってかなり堪えるものだっただろう。
柾樹と夏美は空気を読んで、伸一が銀行との信頼関係を築いてくれていたおかげだとちゃんとフォローしている。それなのに、まだ追い打ちをかける浩司は、さすがにビールを飲みすぎているのかと思ってしまった。
それと少し引っかかったのは、柾樹の「なんとか融資さえしてもらえれば、あとの展開は、こちらでいろいろできますからね」という発言だ。もちろん前向きな意味で言っているのだろうが、言い方だけ聞くと少し危うくも聞こえる。まさか融資だけ引っ張ってきて資金使途をずらすみたいな話ではないよな、と少し身構えてしまった。
新規客の開拓について熱く語る場面は、まさに柾樹の独壇場だった。あそこは完全に柾樹が主役で、伸一は居心地が悪そうにするしかない。環はその伸一の顔をちゃんと見ている。やはり視野が広い。一方で夏美は、夫である柾樹ができる男ぶりを見せまくっていて、かなりうっとりしていたように見えた。
これは“家族の団らん”ではなく、伸一の公開処刑に近い場面
表面上は、融資の光が見えてきたことを喜ぶ明るい夕食の場面。
でも実際には、
柾樹の有能さが可視化されるほど、伸一の失敗がみんなの前で再確認される場面
になっている。
浩司の軽口が象徴的だが、
本当にきついのは、環や久則まで笑ってしまうこと。
伸一にとっては、身内の食卓が安心できる場ではなくなっている。
伸一が傷つくのは、融資の話そのものより“評価の反転”
銀行から前向きな反応が出たこと自体は、本来なら伸一にとってもうれしいはず。
でもこの場面で起きているのは、単なる成功ではない。
これまで家の中心で改革を語ってきた自分より、
柾樹の方が現実的で頼れる人間だと、家族の中で認定される瞬間
になっている。
だから伸一は、加賀美屋の前進を喜ぶだけでは終われない。
浩司は“本音を代弁する役”になっている
浩司は空気が読めないというより、
その場のみんながなんとなく思っていることを、そのまま口にしてしまう役回りに近い。
「夢見る兄貴」という言葉はひどいが、
今の家族の空気には、
伸一の案は夢が大きすぎて現実味がなかった
という評価がすでに共有されていることが見えてしまう。
だからこそ、軽口なのに重い。
時江だけが伸一の側に立っているのが意味深い
この場面で伸一に寄り添っているのは、ほぼ時江だけ。
家族が柾樹に傾いていく中で、
時江だけが旧来の加賀美屋の論理に近い位置に残っている
ようにも見える。
伸一が孤立していくほど、
時江の存在は“最後の味方”として強くなる。
それは同時に、伸一が家族の中で逃げ場を失っていることの裏返しでもある。
環は場の流れより、伸一の表情を見ている
みんなが柾樹の話に聞き入る中、
環だけは伸一の浮かない表情を見逃さない。
ここが環の怖さでもあり、すごさでもある。
環は単に改革案の良し悪しを見ているのではなく、
この場の成功が、誰にどういう傷を残すか
まで見ている。
視野の広さがよく出ている場面だった。
柾樹の発言には“できる人”特有の危うさもある
「融資さえしてもらえれば、あとの展開はこちらでいろいろできる」という言い方は、
前向きな自信の表れではある。
ただ同時に、
資金を引っ張るところまでは銀行向けの論理、その後は現場の裁量で動かす
という資金使途違反のようにも聞こえる。
少なくともこの台詞には、
柾樹の実務感覚の強さと、少し危うい自信が同居している。
この場面は“柾樹上げ”で終わらず、“伸一崩し”の続きでもある
柾樹の説明力や構想力が際立つ場面なのは間違いない。
ただ、物語として本当に大事なのはそこだけではない。
柾樹が評価されればされるほど、
伸一の中には劣等感、屈辱、居場所のなさがたまっていく。
つまりこの夕食シーンは、
改革が前に進む明るい場面であると同時に、伸一の心がさらに追い詰められていく場面
でもある。
カツノの部屋に引き戻される夏美――埋まらない空白を柾樹が黙って支える夜
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柾樹は自分の部屋で仕事をしており、外では雨が降っている。
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夏美はカツノ(草笛光子)の部屋の縁側で一人たたずんでいる。
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夏美は、カツノに星合いを教えてもらったことを思い出している。
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柾樹が来ると、夏美はみんなと一緒にいるときは大丈夫だが、一人になるとカツノの部屋に来てしまうと打ち明ける。
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夏美は、このままではいけないと思っていることも口にする。
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柾樹は夏美の手をそっと握り、励ますように笑顔を見せる。
個人的感想
改めて思うのは、加賀美家の人間は本当に仕事が好きだということだ。本来なら労働から解放されているはずの夕食の時間にもずっと仕事の話をしているし、柾樹は自室に戻ってからもパソコンで作業している。経営者だからこの感覚でも成り立つのだろうが、これをそのまま労働者にも求めると、ついていけなくなる人が出てくるだろうなと思う。
夏美は、カツノに星合いを教えてもらった日のことを思い出して落ち込んでいた。みんなと一緒にいるときは大丈夫だが、一人になるとカツノの部屋に来てしまうと言っていたけれど、柾樹と一緒に暮らしているのだから、そんなに一人になる時間ばかりあるわけでもないはずだ。そう考えると、これは自然に一人になってしまったというより、わざわざ一人の時間を作ってでもカツノの部屋に来てしまっているように見える。
夏美自身も、このままではいけないと思っているようだが、もう自分一人でどうにか乗り越えられる段階を超えているのではないかという気もする。平治は、自分で乗り越えるしかないというようなことを言っていたが、今の夏美を見ていると、それだけで済む状態には見えない。
それと少し思ったのは、こういうときに柾樹とは別に、昔から何でも話せる親友のような存在が夏美にはいないのかということだ。大学時代の友人として久美子は出てきたが、今の夏美には、夫以外に気持ちをこぼせる相手があまり見えてこない。そのことも、夏美がカツノの不在を抱え込んでしまう一因になっているのかもしれない。
これは“思い出に浸る場面”ではなく、自分から空白に戻っていく場面
夏美は偶然そこにいただけではない。
一人になると、カツノの部屋に来てしまうと言っている。
つまりこれは、思い出がよみがえるというより、
自分から喪失の中心に戻っていってしまう状態
として描かれている。
まだ気持ちの整理がついていないというより、
整理を始める前の段階に近いのかもしれない。
「みんなといると大丈夫」は、本当に大丈夫という意味ではない
この台詞は一見すると少し安心できる言葉にも聞こえる。
でも実際には、
誰かと一緒にいる間だけ何とか保っている
という意味にも取れる。
つまり夏美は回復しているのではなく、
人といる間だけ崩れずに済んでいるだけで、
一人になるとまた元に戻ってしまう。
柾樹は励ましているのではなく、“支える以上のことができない”立場にいる
手を握って笑顔を見せる柾樹は優しい。
ただ、この場面で印象に残るのは万能感ではなく、
見守ることしかできない無力さ
の方だと思う。
言葉で解決できる問題ではないし、
代わりに悲しみを引き受けることもできない。
だから柾樹は、ただ隣にいることで支えようとしている。
雨と縁側の組み合わせが、夏美の内面をそのまま映している
外は雨。
夏美は縁側で一人たたずむ。
かなり分かりやすい演出ではあるが、
その分だけ今の夏美の心の停滞がよく出ている。
しかも場所がカツノの部屋というのが大きい。
夏美は
不在が最も濃く残る場所に身を置いている。
夏美には“夫以外の逃げ場”があまり見えない
柾樹は支えてくれる。
でも夫婦だからこそ、全部を吐き出せるとは限らない。
むしろ近すぎる相手には言えないこともある。
そう考えると、夏美に
昔からの親友や、気持ちを整理できる別の受け皿が見えない
のは結構大きい。
カツノを失ったあと、その空白を受け止める相手が少なすぎる。
だから夏美は、人ではなく場所に戻ってしまうのかもしれない。
佳奈が感じた違和感――確認できたはずの小さなズレが、失敗へ向かい始める
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お客様の前田夫妻(北見敏之)(児島美ゆき)が到着し、佳奈が出迎える。
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前田夫妻は、佳奈が出迎えに来たことに対して不審そうな表情を見せ、二人で顔を見合わせる。
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佳奈に案内されて藤の間に通されるが、ここでも前田夫妻は怪訝そうな様子を見せる。
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佳奈は藤の間から見える岩手山の景色を勧めるが、前田夫妻の表情は浮かない。
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その様子を見て、佳奈は何かおかしいと感じ始める。
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則子に「どうかしたの?」と確認され、佳奈は違和感があることを伝える。
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佳奈は夏美に前田のことを確認しようとする。
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しかし時江が、若女将は今忙しいと止めに入る。
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さらに環が、旅館組合の人が見えたから紹介すると言って夏美を連れ出す。
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そのため佳奈は、夏美に質問する機会を失ってしまう。
個人的感想
佳奈が前田を出迎えた時点で、前田夫妻にはもうはっきり違和感がありそうだった。その後、藤の間に案内されて岩手山を勧められても怪訝な顔をしているのだから、これはもうほぼ同姓同名の別人で確定なんだろうと思う。
ただ、前田の側も違和感を覚えているのなら、その時点で「何か違いませんか」と言ってくれればいいのにとも思ってしまう。旅館側に何から何まで察してもらう前提でいるのかよ、と少し言いたくなった。
佳奈が、前田から感じる違和感を夏美に確認しようとしているのに、他の用件で夏美が環に連れて行かれて確認できなくなる流れは、以前の雨の日の場面を思い出させた。あのときは、夏美が佳奈に確認しようとしているのに、佳奈が他へ連れて行かれて答えを聞けず、その結果ハクサンチドリの吉田が転んで怪我をした。今回はその真逆の構図だ。確認したい側と、確認されるべき側が入れ替わっているだけで、起きていることは同じだと思う。確認を後回しにした結果、取り返しのつかないことが起こる。やはり確認は大事だなとあらためて思った。
それだけに、このとき佳奈が「じゃあ、いいです。ま、いっか」と引いてしまったのはもったいなかった。その場には時江もいたのだから、夏美に聞けなくても時江に確認すればよかったのにと思ってしまう。佳奈の遠慮や経験不足もあったのだろうが、あそこで一歩踏み込めていれば止められた事故だったかもしれない。
この場面は“失敗の発生”ではなく、“修正の最後の機会を逃す場面”
前田夫妻の表情、佳奈の違和感、則子の問いかけ。
ここではもう、何かがおかしいというサインは十分に出ている。
つまりこの場面は、ミスが起きた瞬間というより
ミスを修正できた最後のチャンスを逃した場面
として見るとかなり重い。
前田夫妻も“違和感”は持っているが、はっきり言わない
出迎えの段階でも、部屋に通された段階でも、
前田夫妻は明らかに何かを感じている。
それでも自分から積極的には言い出さない。
ここには、旅館という場ならではの
客側の遠慮と、旅館側が察するべきだという期待
の両方があるように見える。
違和感は両者に共有されているのに、言葉にされないまま進んでしまうのが怖い。
佳奈はちゃんと異変に気づいている
この場面で救いなのは、佳奈が鈍感ではないこと。
むしろ佳奈は、前田夫妻の反応から
「何かおかしい」ときちんと察知している。
つまり問題は、佳奈の感受性ではなく
察知したあとに、どこまで強く確認に踏み込めるか
という次の段階にある。
以前の“確認できなかった事故”と鏡写しの構図になっている
この流れは以前の雨の日の事故とかなり似ている。
あのときは夏美が確認したくてもできず、
今回は佳奈が確認したくてもできない。
立場は逆でも共通しているのは、
確認したい人が、その場の流れや別件に押し流されてしまうこと
だと思う。
このドラマは、確認不足そのものより
「確認の優先順位が下がる現場の怖さ」
を繰り返し描いているように見える。
時江がその場にいるのに、確認先として機能していないのが大きい
佳奈が夏美に聞こうとして止められた時点で、
本来なら時江が代わりの確認先になれたはず。
それが機能していないということは、
この現場がまだ
誰に確認すればいいかが整理されきっていない
状態だということでもある。
つまり個人の遠慮の問題でもあるが、
同時に指揮命令系統の曖昧さもにじんでいる。
“ま、いっか”が危ないのではなく、そう思わせる空気が危ない
佳奈がここで引いてしまうのは、単純に注意不足というより、
若手として強く出にくい空気や、
今は忙しいから後でいいかと思わせる流れがあるからだろう。
現場で本当に怖いのは、
重大なミスをした人よりも、
小さな違和感を飲み込ませる空気の方
だったりする。
この場面はまさにそこを突いている。
このシーンで描かれているのは、“気づいていたのに止められなかった”という後味の悪さ
誰も完全に無能だったわけではない。
夏美は誤認している。
佳奈は違和感に気づいている。
前田夫妻も変だと思っている。
時江もその場にいる。
それぞれの動きには理由があるのに、
その全部が少しずつ噛み合わず、修正の機会だけが失われていく。
だからこの場面は、単なる接客ミスの前振りではなく、
現場の連携不全がどう事故になるかをかなり丁寧に見せている場面
だったと思う。
常連客の怒りが噴き出す――データベースの取り違えがついに接客事故として表面化する
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藤の間で夕食をとっている前田夫妻は、「ここに来ると落ち着く」「今が幸せだ」と会話している。
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しかし夫の前田は、「今回はいつもと違う」と言いかける。
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妻は、そんなに気にしなくてもいいと夫をなだめようとする。
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佳奈が、アワビを含む三陸でその日に獲れた魚の刺身を運んでくる。
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それを見た夫は怒った表情になり、「女将を呼んでくれ。すぐにだ!」と佳奈に強い口調で告げる。
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佳奈は急いで夏美と時江のもとへ行き、事情を説明する。
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その際、最初に出迎えた時も、部屋に案内した時も様子がおかしかったことを伝える。
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時江は、どうしてそれをもっと早く言わなかったのかと佳奈を注意する。
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夏美は、すぐにお客様のところへ行って話を聞くと言う。
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時江は環を呼びに行く。
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夏美が前田の部屋に行き、「お気に召さないことがおありでしたら、何なりとお申し付けください」と頭を下げる。
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すると前田は、「来る者、帰るが如し」はウソなのかと言い、残念そうな表情を見せる。
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困った表情の夏美のアップで、その日の放送は終わる。
個人的感想
夫の前田啓介が「ここに来るとやっぱり落ち着くな」と言い、妻の朋子もそれに同意しているのに、そのあとで「今回はいつもと違う」と啓介が口にする。この「今回は」という言い方を聞くと、やはりこの客は2回目どころではなく、かなり長い付き合いのあるごひいきのお客様なんだろうなと思う。そうなると、これはまさに環が前に言っていた「データベースには書き込めない、その都度確認が必要なお客様」なんじゃないかという気がしてくる。
佳奈がアワビを含んだ三陸の刺身を運んできた瞬間に、啓介が「女将をすぐに呼んでくれ」と怒りだす。ここは、生ものが食べられないとか、そういう食の前提がずれていたんだろうなとまず思った。佳奈が急いで夏美と時江に報告に行き、時江が「また粗相したんじゃないのか」と疑うのに対して、佳奈が「今日はうまくいっていたはずなんですけど」と答えるのも、ちょっと笑ってしまうようでいて笑えない。おいおい、「今日は」ってことは、やっぱり普段は何かしらやらかしてるのかよ、と突っ込みたくなった。
佳奈は最初に案内した時から様子がおかしかったことを伝え、夏美はとりあえず環が来るまでのつなぎとして前田の部屋に向かう。時江は環を呼びに行く。佳奈も「やってしまった」という顔をしていたが、正直これはかなり難しい問題だと思う。みんながまだ使い慣れていない柾樹のデータベースで、電話口で東京都世田谷区の「マエダケイスケ」と言われて、その条件に合う「前田啓輔」が出てきたら、かなりの人が「この人で合ってる」と思ってしまうんじゃないだろうか。
まだ確定ではないから推測になるが、おそらく次のページか別のところに、同姓同名の「前田啓介」がいるんだろう。そして「前田啓輔」は2回目の宿泊程度の客で、環への確認が不要な客。一方で「前田啓介」は昔からのごひいき客で、環の頭の中にあるような情報まで含めて確認が必要な客。そういうズレなんじゃないかと思う。
ただ、これを夏美だけの責任にしてしまうのも酷だ。電話番号で照合しろとか、漢字まで確認しろとか、そういう運用ルールがきっちり整備されていないなら、使い方に不慣れな段階で間違いが起きるのはかなり自然だと思う。しかもチェックインの時点でも気づけなかったとなると、現場の誰か一人の注意力だけでは防ぎきれない。
佳奈も責任を感じていたようだが、佳奈は基本的には指示された通りにやっていただけだから、佳奈だけを責めるのも少しかわいそうだ。ただし、違和感を感じ取っていたのだから、あの時もう一歩踏み込んで確認すべきだったのは間違いない。夏美に聞けないなら、その場にいた時江に確認するべきだった。そこで止められた可能性は十分ある。
それにしても、この前田という客もかなり分かりにくい。何かいつもと違うと感じていたなら、もう少し早くはっきり言ってくれればいいのにと思ってしまう。遠回しなクレームで察しろというのは、旅館相手だから許されると思っているのかもしれないが、現場としてはかなりきつい。
そしてここで少し怖いのは、この前田という客が「常連なんだから分かっているだろう」と思って、普段から細かい要望をいちいち伝えていないタイプかもしれないことだ。もしそうだとすると、今回問題になったのが刺身で済んだからまだいいが、仮にアレルギーや絶対に口にできない食材の情報まで「前から分かってるはず」で済まされていたら、また別の悲劇が起きてもおかしくない。夏美は申し送りの時に「前田には食べられないものはないから、いつもの食事でいい」と言っていたが、その「いつもの」が別人の情報に基づいていたのだとしたらかなり危ない。
柾樹の作ったデータベースは便利なのかもしれないが、みんながきちんと運用できないなら、便利どころか危険なものにもなってしまう。注意しなければいけない客にはアラートが出るとか、確認必須の顧客には別の印が出るとか、そういう仕組みがないと現場では回らないだろう。しかも、今の加賀美屋の空気を見ると、きっと誰もまだ使いこなせていない。環は頭の中で回してしまうだろうし、時江はそもそもパソコン自体に距離がある。そう考えると、責任が一番重いのは誰かといえば、データベースを作ったことそのものより、現場への運用方法を落とし込まなかった柾樹にあるのかもしれないなと思った。
これは“接客ミス”というより、“情報の取り違えが現場に流れ込んだ事故”
今回表に出たのは刺身を出したことだが、
本質は料理そのものではなく、
最初に取り違えた顧客情報が、申し送りを通じてそのまま現場に流れていったこと
にある。
つまり失敗は藤の間で起きたのではなく、
予約受付の時点で始まっていた。
前田夫妻は“常連ゆえに説明しない客”として描かれている可能性が高い
「今回はいつもと違う」という言い方からして、
今回だけの客ではないことが強くにじむ。
しかも違和感があっても、最初の段階でははっきり言わない。
これは裏を返せば、
長年の信頼関係があるから、いちいち言わなくても通じると思っている客
ということでもある。
常連客の怖さはここで、情報が合っていれば満足度は高いが、
一度ずれると失望も大きくなる。
佳奈は被害者でもあり、最後の防波堤でもあった
佳奈は指示された通りに動いていただけで、
誤った顧客情報を自分で作ったわけではない。
その意味では被害者でもある。
ただ同時に、
前田夫妻の違和感を最初に肌で感じ取っていたのも佳奈だった。
だから佳奈は、
事故の原因ではないが、止められる最後の位置にいた人
でもある。
この二重性がこの場面を苦くしている。
“確認しろ”だけでは防げないミスでもある
電話番号照合、漢字確認、過去履歴確認。
そういう運用ルールが最初からきちんとあれば防げた可能性は高い。
逆に言えば、現場にそのルールが落ちていないなら、
「もっと注意すべきだった」で片づけるのは無理がある。
今回見えているのは、
個人の不注意だけではなく
システムを入れたのに、運用設計と教育が追いついていない現場の危うさ
だと思う。
新しい仕組みと昔ながらのおもてなしが、まだ接続されていない
柾樹はデータベースという新しい道具を持ち込んだ。
でも加賀美屋が本来強みとしてきたのは、
環やカツノの頭の中にある属人的な記憶や勘だった。
今回の事故は、
新しい仕組みを入れたのに、昔ながらの確認文化とうまく接続できていない
ことの表れにも見える。
仕組みが悪いというより、仕組みと現場の橋渡しが不足している。
問題は“誰が悪いか”より、“どこで止めるべきだったか”の多重性
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夏美は予約時に確定しすぎた
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佳奈は違和感を感じたのに止めきれなかった
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前田夫妻は違和感を言葉にしなかった
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時江はその場にいたが確認先として使われなかった
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柾樹は仕組みを作ったが運用指導が見えない
こうして見ると、
誰か一人だけを犯人にするより、
いくつもあったはずの確認ポイントが全部すり抜けたこと
の方が重要に見えてくる。
この場面は、“便利な道具”が“危ない道具”にもなることを示している
データベースは本来、接客の質を上げるためのもの。
でも現場が使いこなせなければ、
誤った情報を以前より速く、広く共有してしまう。
つまり便利さは、そのまま危険さにもなりうる。
今回の失敗はまさに、
情報化が進むほど、誤情報の影響も大きくなる
という怖さを見せているように感じた。
まとめ
今回の第130回は、加賀美屋にとっては前進の回でありながら、そこで生まれる心の亀裂が非常に重く描かれた回だったと思う。銀行対応では柾樹の有能さが際立ち、家族もそれを喜んでいたが、その分だけ伸一は自分の無力さや居場所のなさを突きつけられていた。恵美子だけがそんな伸一を支えようとしていたが、伸一の中にはすでに、経営の中心から少しずつ外れていく苦さが広がっているように見えた。
一方の夏美は、みんなと一緒にいるときは何とか保てても、一人になるとカツノの部屋に戻ってしまうほど、まだ心の空白を埋められていない。その不安定さは、ついに「前田啓介」と「前田啓輔」の取り違えという形で、加賀美屋の現場に直接流れ込んでしまった。今回怖かったのは、誰か一人の重大な失敗というより、確認できたはずの場面が何度もありながら、それが全部すり抜けてしまったことだろう。
さらに印象的だったのは、柾樹の作ったデータベースが、便利な仕組みであると同時に、運用が整っていなければ危険にもなりうることがはっきり見えたことだ。新しい仕組みを入れること自体が改革なのではなく、それを現場がどう使うかまで落とし込んで初めて意味を持つ。今回のトラブルは、まさにそこができていない怖さを見せつけた。
第130回は、表向きには融資の前進、家族の期待、若女将としての仕事という“明るい材料”が多い回だった。けれど実際には、その裏で伸一の心は削られ、夏美の悲しみは深まり、加賀美屋の現場には新しい仕組みの綻びが出始めている。前に進んでいるはずなのに、足元では静かに不穏さが広がっていく。そんな嫌な予感がかなり濃く残る回だった。
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