2026年3月4日放送『どんど晴れ』第117回。
環が示した「柾樹を後継にする」という決断により、加賀美家の対立はさらに深まっていく。
柾樹と夏美は伸一の立場を思い、あえて後継の座を辞退しようとするが、環はそれを受け入れない。
一方、伸一は自分の思いと将来への不安を抱え込みながら葛藤を続けていた。
家族それぞれの思いがぶつかる中、事態を見かねた大女将・カツノが動き出す。
第117回は、加賀美家の行く末を左右する重要な転換点となる回だった。
※この回は、前日の展開を踏まえて見ると、より重みが増します。
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女将の宿命――環の姿に覚悟を決める夏美と柾樹
・夏美(比嘉愛未)は、辛い出来事があった直後にも関わらず平然と接客をしていた環(宮本信子)の様子を柾樹に伝える。
・柾樹(内田朝陽)は、それが加賀美屋の女将の宿命だと説明する。どんなにつらいことがあっても弱音を吐かず、笑顔で客を迎えるのが女将の役割だという。
・その話を聞いた夏美は、いつか自分もそんな女将になりたいと語る。
・そして夏美と柾樹は、これ以上女将たちがつらい思いをしなくて済むように、自分たちは後継ぎを辞退し、伸一に譲ることを環に伝えようと決意する。
個人的感想
サービス業であれば、つらいことがあっても笑顔で接客する場面は珍しくない。そう考えると、これを「加賀美屋の女将の宿命」とまで言うのは、少し大げさにも感じる。
もちろん、代わりがいない立場という意味では理解できる。辛くても自分が立たなければならない、という点では確かに特別な役割なのかもしれない。ここは「誰にも代わりが利かない存在」という意味での宿命だと解釈しておくことにする。
ただ、それでも疑問は残る。
あれだけ辛そうな環の姿を見て、しかも柾樹から「それが女将の宿命だ」と聞かされたうえで、なお「自分もそんな女将になりたい」と思う夏美の感覚は、正直なところ少し理解しがたい。
普通に考えれば、「そんな大変な役割ならやりたくない」と思う人の方が多いのではないだろうか。
一方で、夏美と柾樹は「これ以上女将たちが辛い思いをしなくて済むように」という理由で、後継ぎの座を辞退し、伸一に譲ることを考える。しかし、この申し出がそのまま受け取られるとは思えない。
今の伸一の状態を見ていると、むしろ「上から目線で同情されている」「なめられている」と受け取る可能性の方が高い気がする。
善意での譲歩が、かえって相手のプライドを刺激する。
そんな展開にならなければいいのだが。
■ 女将という“役割神話”
「女将の宿命」という言葉には、役割を神格化するニュアンスがある。
本来は職務であるはずのものが、いつの間にか“人格”や“覚悟”の問題にすり替わっている。
これは家業型組織にしばしば見られる構造だ。
■ 夏美の価値観
普通の感覚なら「大変だから避けたい」と思う場面でも、夏美はむしろそこに憧れを抱く。
これは責任感というより、「役割そのものに価値を感じるタイプ」の人物像なのかもしれない。
■ 善意の譲歩が生む摩擦
夏美と柾樹の提案は、一見すると平和的解決策だ。
しかし当事者の感情を考えると、逆効果になる可能性もある。
特にプライドが傷ついている状態の伸一にとっては、
「譲ってあげる」という形は屈辱に感じられるかもしれない。
■ 物語の次の火種
今回の決意は、対立を終わらせるためのものだが、
むしろ新しい衝突の火種になる可能性もある。
善意とプライドがぶつかるとき、
人間関係はさらに複雑になる。
後継を巡る決断――環が語る「柾樹しかいない理由」
・庭で地蔵を拭いている環の脳裏には、伸一に言われた言葉がよぎっていた。
・そこへ夏美と柾樹が話があると声をかける。環は結婚式の日取りの相談だと思い込み、その席で夏美の若女将就任と柾樹の後継を発表するつもりだと話す。
・しかし柾樹は、伸一に後を継いでもらいたいと環に伝える。自分たちは伸一の下で働いていくつもりだと申し出る。
・環に後継者として期待されたことは嬉しいが、後を継がなくても加賀美屋のために働くことはできると柾樹と夏美は語る。
・環はその決意に感謝するものの、「それはできない相談」だときっぱり断り、加賀美屋を継ぐのは柾樹しかいないと告げる。
・環は、これまで常連客の厚意に甘えてきたが、今は新しい改革が必要だと語る。
・柾樹と夏美が、それなら伸一でもできるのではないかと食い下がると、環は伸一の人柄を評価しながらも、「地元とのしがらみを断ち切れない」と説明する。
・伸一は情にほだされやすく、人とのつながりや和を大切にする性格だという。
・それでも柾樹は、伸一がどれだけ加賀美屋を思っているか理解したからこそ、伸一の下でもやっていけると語る。
・しかし環は、新しいことを成し遂げるには強い意思と信念が必要だとし、柾樹の板場改革を高く評価する。
・さらに、夏美が加賀美屋に来てから生まれた変化を挙げ、夏美が若女将となり柾樹が経営者となって新しい風を吹かせてほしいと頼む。
・環の真意を知った二人は、深く頭を下げる。
個人的感想
柾樹と夏美の申し出は、単なる「伸一でもいい」という消極的なものではない。「伸一の下で働きたい」という、かなりはっきりした意思表示だったように感じる。
そして興味深いのは、伸一自身も「自分が後継ぎとしてやりたい」「柾樹の下では働けない」と考えている点だ。つまり、伸一と柾樹の思いはある意味で一致している。
それでもなお、その提案を拒むのが環だ。
二人の善意に感謝しながらも、「それはできない相談」と断言する。
環は、今のままの加賀美屋では生き残れないという危機感を持っている。そしてその理由として、「伸一は地元とのしがらみを断ち切れない」と説明する。
ただ、ここで少し疑問も残る。
伸一もまた、現状の加賀美屋のままでは駄目だと考えていたはずだ。だからこそ高級リゾートへの建て替え計画を進めていたのではないか。
むしろ、全面的に建て替えてしまう“スクラップアンドビルド”の方が、地元との関係をリセットするという意味ではやりやすいのではないだろうか。
一方で、柾樹の改革は既存の加賀美屋を残したまま中身を変えていく方法だ。
どちらがしがらみを断ち切りやすいのかといえば、必ずしも柾樹の方が有利とも言い切れない気がする。
ただ、環が評価しているのは「実際に何かを変えた」という事実なのかもしれない。
板場の仕入れ改革はまだ数か月程度のはずだが、それでも“形として変化を起こした”こと自体を評価しているようにも見える。
逆に伸一の高級リゾート構想は、まだ構想段階で何も形になっていない。
環にとってはそれでは「改革」とは呼べないのだろう。
そしてもう一つ気になる点がある。
環はここで突然、夏美が加賀美屋に来てからの変化を高く評価し始める。
しかし、ついこの間まで環は「夏美だけは女将にさせない」と強く反対していたはずだ。
あの時の原動力は、加賀美屋の未来というよりも、大女将・カツノ(草笛光子)への対抗意識や彩華(白石美帆)への肩入れだったように見えた。
彩華がいなくなり、冷静になって初めて加賀美屋の未来を考えられるようになった――
そう解釈しておくのが一番自然かもしれない。
■ 改革の二つのモデル
この回では、二つの改革モデルが対比されている。
伸一モデル
・全面建て替え
・高級リゾート化
・スクラップ&ビルド
柾樹モデル
・既存旅館の改良
・仕入れ改革
・内部改善型
環が評価したのは「すでに動いている改革」だった。
■ 女将の意思決定基準
環の判断基準は意外とシンプルだ。
・人情型 → 伸一
・合理型 → 柾樹
旅館経営を生き残らせるには合理型が必要だと判断した。
■ 彩華退場後の環
彩華がいた頃の環は、
未来よりも対立に動かされていたように見えた。
しかし彩華が退場したことで、
初めて「加賀美屋の未来」を冷静に考える立場に戻ったのかもしれない。
伸一の本音――子どもに継がせたいという強い思い
・健太(鈴木宗太郎)と勇太(小室優太)が学校から帰宅し、恵美子(雛形あきこ)と伸一(東幹久)が話をしていると時江(あき竹城)に聞き、先にカツノのところへ摘んできた花を届けに行く。
・恵美子は落ち込む伸一を励まし、伸一は女将として忙しく働く母の姿を見ながら育ってきたのだから、たとえ寂しい思いをしたとしても健太と勇太もきっと立派に育つと語る。
・しかし伸一は、今回の後継問題だけは納得できないと言う。もし自分が柾樹の下で働くことになれば、盛岡中の笑いものになり、いとこに旅館を乗っ取られたと言われると憤る。
・それでも世間体以上に大きな理由があると続ける。親として健太と勇太に加賀美屋を継がせたいという思いがあり、そのためにも柾樹には継がせるわけにはいかない。帳場を預かってきたのは自分と父であり、何があっても柾樹に継がせるわけにはいかないと本音を語る。
個人的感想
伸一は、自分が母である環から十分な愛情を感じられないまま育ったとしても大人になれたのだから、仮に恵美子が女将になったとしても、健太と勇太も同じようにちゃんと育っていくはずだと考えているようだ。
ただ、そこには少し違和感もある。
普通は自分が辛い思いをしたなら、同じ経験を自分の子どもにはさせたくないと思うものではないだろうか。もしこの考え方のまま家業が続いていけば、健太や勇太が後を継ぐ頃にも同じ問題が繰り返される可能性がある。いわば負の連鎖だ。
また、伸一は「子どもたちに誇れるものを残したい」という理由で、将来は健太と勇太に加賀美屋を継がせたいと考えている。しかし、そこに当の本人たちの意思はまだ存在していない。もしかすると二人は旅館に興味がないかもしれないし、全く別の夢を持つ可能性だってある。
このドラマではよくあることだが、関係者本人の意思を確認する前に周囲が将来を決めてしまう場面が多いように感じる。
さらに言えば、「子どもに継がせたいから柾樹には継がせない」という理屈も、かなり不確定要素の多い前提の上に成り立っている。そもそも健太や勇太が本当に継ぐかどうかも分からないし、柾樹と夏美に子どもが生まれない可能性もある。あるいは将来、加賀美屋そのものが存続しているかどうかも分からない。
つまり伸一は、まだ起きていない未来の心配を先取りして、自分で自分を追い詰めているようにも見える。
そしてもう一つ、少し大げさに感じたのが「盛岡中の笑いものになる」という発言だ。もちろんドラマ的な誇張表現だとは思うが、もし本当にそんなことになるとしたら、加賀美屋は盛岡の中で相当な知名度を持つ旅館ということになる。
先ほど環も「伸一は地元とのしがらみを断ち切れない」と語っていたが、どうやら盛岡という土地にはそれだけ人間関係が密接な社会があるらしい。そこまで影響力のある旅館なのかと、ある意味で驚かされる場面でもあった。もちろんこれは半分冗談だが、少し想像を膨らませてしまうエピソードだった。
■ 後継問題の本質
この場面で明らかになったのは、伸一の反発の本質が「自分が継ぎたい」というよりも、「自分の子どもに継がせたい」という点にあることだ。
つまり、後継問題は伸一個人の問題ではなく、世代をまたいだ継承意識の問題になっている。
■ 家業と子どもの将来
家業を持つ家庭ではよくあることだが、親世代は子どもに事業を継いでほしいと考えがちだ。しかし現代では、子どもが必ずしも同じ道を選ぶとは限らない。
この点で、伸一の考え方はやや「家制度的価値観」に近いとも言える。
■ 世間体というプレッシャー
「盛岡中の笑いものになる」という言葉には、地元社会での評判や世間体を強く意識する伸一の性格が表れている。
これは環が指摘した「地元とのしがらみを断ち切れない」という評価ともつながる部分だ。
■ 未来への不安
まだ起きていない未来の出来事を想像し、それに縛られてしまう。
伸一は今、現実の問題よりも「もしこうなったら」という不安に支配されているようにも見える。
その不安が、判断をより難しくしているのかもしれない。
家族の危機に動く大女将――カツノの「最後の務め」
・健太と勇太が、カツノからの伝言を時江に伝える。カツノは「みんなを集めてほしい」と指示していた。
・その知らせを受けた時江は、環を探しに向かう。
・一方、夏美はカツノの部屋へ向かう。縁側には平治が静かに座っていた。
・カツノは着物に着替えながら、「加賀美家の家長として、どうしても務めなければならないことがある」と夏美に語る。
・カツノが一家の要として最後の務めを果たそうとしている、というナレーションが入り、この日の放送は幕を閉じた。
個人的感想
以前、カツノが平治と何か意味深な話をしていた場面があった。確か「平治にも知っておいてもらいたい」というようなことを言っていたはずだ。今回の様子を見る限り、あの時に話していたことが、いよいよ実行に移されるのだろう。
ただし、カツノは「加賀美屋」ではなく「加賀美家の家長」として務めを果たすと言っている。この言葉の違いは意味が大きい。
大女将という立場はすでに隠居の身だ。旅館経営に直接口を出す立場ではない。だからこそ、何か行動を起こすとすれば「家業」ではなく「家族」の問題として介入するしかない。
おそらくカツノがやろうとしているのは、今バラバラになりかけている加賀美家の関係を正すことなのだろう。
旅館の経営問題というよりも、家族の問題として決着をつけようとしているように見える。
長い間加賀美家を支えてきたカツノが、「家長」として動く。
その姿には、まさに一家の柱としての覚悟が感じられる場面だった。
■ 「加賀美屋」と「加賀美家」の違い
このシーンの重要なポイントは言葉の使い分けだ。
・加賀美屋 → 旅館(事業)
・加賀美家 → 家族(血縁)
カツノは経営ではなく、家族の問題としてこの争いに介入しようとしている。
■ 隠居した者の権威
カツノはすでに大女将として第一線を退いている。
しかし「家長」という立場は依然として強い象徴的権威を持つ。
つまり今回の行動は
経営者としてではなく、家族の長としての最終介入
と言える。
■ 物語構造の転換点
ここまでの流れは
・伸一 vs 環
・後継問題
という対立構造だった。
しかしカツノが動くことで、
「家族の問題としての決着」
という新しい局面に入る可能性が高い。
■ 最後の務め
「最後の務め」という言葉も重い。
これは単に仲裁するというより、
家の秩序を最終的に決める宣言
になる可能性もある。
次回はかなり大きな展開が来そうな気配がする。
まとめ
第117回は、加賀美屋の後継問題が単なる経営の問題ではなく、家族の問題であることがよりはっきりと描かれた回だった。
柾樹と夏美は伸一の立場を思って後継を辞退しようとするが、環は旅館の未来のために柾樹こそが必要だと譲らない。一方で伸一も、自分の子どもに加賀美屋を継がせたいという強い思いを抱えていた。
それぞれの立場と価値観がぶつかり、家族の関係は大きく揺れ始める。
そんな中、事態を見かねた大女将・カツノが「加賀美家の家長」として動き出した。
長年この家を支えてきたカツノが、家族のためにどのような決断を下すのか。
物語は、いよいよ大きな転換点を迎えようとしている。
『どんど晴れ』感想まとめはこちら