朝ドラ再放送『どんど晴れ』第65回感想(ネタバレ)──「しきたり」は誰を守るのか――板場騒動で露わになった加賀美屋の歪み

どんど晴れ

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2025年12月26日放送の『どんど晴れ』第65回は、彩華の仲居手伝いによって加賀美屋の空気が一変する回だった。

生け花や立ち居振る舞いで差を見せつける彩華に対し、夏美は自分の未熟さを痛感しながらも前を向こうとする。

しかし物語の終盤、板場で起きた佳奈の火傷事故をきっかけに、「しきたり」と「人命・安全」が真正面から衝突する。

第65回は、これまで積み重ねられてきた違和感が、ついに爆発した回だった。


ぎくしゃくした人間関係と、柾樹の新たな選択

  • 夏美(比嘉愛未)・聡(渡邉邦門)・佳奈(川村ゆきえ)の関係は依然としてぎくしゃくしており、夏美が佳奈に話しかけても取り合ってもらえない状況が続いている。

  • 場面は横浜に移り、智也(神木隆之介)が柾樹(内田朝陽)の部屋を訪ね、姉・夏美との関係を気にかける様子を見せる。

  • 柾樹は、現在住んでいるアパートの契約更新を機に、新しい部屋を探しているところだった。

  • 智也は「いいところを知っている」と言い、柾樹に自分の家(=啓吾の家)に住むことを勧める。


個人的感想

職場も下宿先も同じで、しかも恋愛絡みのトラブルを抱えている状況は、正直かなりきつい。仕事に集中できるわけがないし、生活の逃げ場もない。

夏美・佳奈・聡の三人で一度ちゃんと話し合えばいいのにと思うが、それができない性格と関係性だから、ここまでこじれているのだろう。

一方で、柾樹が契約更新を機に引っ越しを考えているという流れは少し面白い。もし啓吾(大杉漣)の家に住むことになったら、それはそれで新しい火種にもなりそうだし、極端な話、柾樹がパティシエを目指して、夏美が女将を目指す物語と入れ替わっても成立するんじゃないか、なんてことまで考えてしまった。


■ 下宿×職場×恋愛の三重苦構造

生活空間・労働空間・感情関係がすべて重なっているのが、問題を深刻化させている。

どれか一つでも切り離せれば楽になるが、今の夏美にはそれができない。


■ 柾樹の引っ越し=物語上のポジション移動

住む場所を変えるというのは、ドラマでは立場や役割の変化を示すサインでもある。

啓吾の家に入ることで、柾樹は「夏美の相手」ではなく「夏美の家族側の人間」に寄っていく可能性もある。


彩華という“完成された仲居”の登場

  • 加賀美屋では、清美(中村優子)が家庭の事情で休んでいる間、手伝いとして彩華(白石美帆)が働くことが従業員に紹介される。

  • 時江(あき竹城)は夏美に掃除の基本として「上から下」「奥から手前」を繰り返し指導し、「頭で分かったつもりになるな、体に叩き込め」と厳しく教える。

  • 掃除の最中、環(宮本信子)と彩華が花を生けに現れる。

  • 夏美は「少しだけ習っていた」と言って生け花を任されるが、続いて彩華も花を生けることになる。

  • 彩華は生け花の師範免許を持っており、その腕前に環たちは感心する。

  • 環は彩華に他の部屋の生け花も任せる。

  • 夏美が「すごいですね」と声をかけるが、彩華は無視する。

  • 伸一(東幹久)は「夏美と彩華では格が違う」と言い放ち、時江にも同意を求める。

  • しかし時江は「夏美の花も彩りはなかなかきれいだ」と、夏美を擁護するような発言をする。

  • 彩華は他の部屋で花を生けながら、先ほどの夏美の言動を思い出すように、不穏な表情を見せる。


個人的感想

時江の掃除指導、もはや ベスト・キッドを彷彿とさせる。
「上から下」「奥から手前」を体に叩き込ませられ、絶対あとで防御力が上がってるはず。
これがいずれ、彩華との殴り合いで力を発揮するんだろう。もちろん冗談です。

それにしても、時江と夏美の距離、確実に縮まってきている。以前なら伸一の「格が違う」という言葉に同調してもおかしくなかったのに、今回ははっきりと夏美を擁護した。

一方で彩華。

師範免許という分かりやすい“強カード”を持って登場し、完全にライバル枠。ただ、「すごいですね」と声をかけられただけで無視するほど敵意を向ける理由が、まだ見えない。

才能の差に苛立っているだけなのか、それとも加賀美屋そのもの、あるいは夏美個人に別の感情を抱いているのか。ここが見えない分、不気味さが際立つ。


■ 時江は「敵」から「育てる側」へ完全に移行しつつある

掃除、生け花の場面での時江の立ち位置は、もはや 環の手先ではなく、夏美の現場指導者 に近い。

環が価値(格・肩書)で人を見るのに対し、時江は「積み重ね」「手触り」で評価する側に移っている。

これは後々、

  • 環 vs 時江

  • 制度 vs 現場

という構図に発展する布石にも見える。


■ 彩華は“完成形”で、夏美は“成長途中”

彩華は最初から

  • 技術あり

  • 肩書あり

  • 立ち居振る舞いも完璧

という 完成された女将候補 のように描かれている。

対して夏美は、

  • 未完成

  • 失敗も多い

  • だが伸び代がある

物語的には、この時点でどちらが主役かは明白だが、だからこそ彩華は「負ける側」として描かれる可能性が高い。


■ 「格が違う」という言葉が一番ズレているのは伸一

伸一だけが、

  • 才能=序列

  • 免許=格

という価値観から一切アップデートされていない。

時江ですら評価軸を変え始めている中で、伸一の発言は浮いており、今後この人物が物語からどう“処理”されるのかが気になってくる。


■ 彩華の敵意は“夏美の言葉”ではなく“夏美の存在”そのもの?

夏美の「すごいですね」という言葉は、挑発でも皮肉でもなく、素直な感想だった。

それでも彩華が不穏な表情を見せたのは、言葉ではなく、

  • 比較される構図そのもの

  • 主役が自分ではないという事実

に反応している可能性が高い。

もしそうなら、彩華は「才能を持つが、物語の中心にはなれない人物」という、非常に扱いの難しいポジションになる。


平治とカツノが感じ取った違和感

  • 平治(長門裕之)は、彩華を見て座敷童と勘違いする。

  • 彩華は、実家の料亭で平治の鉄瓶を使っていたため、平治のことを以前から知っていると話し、平治は驚く。

  • 縁側で亀の世話をしているカツノ(草笛光子)のもとを平治が訪ね、彩華について「気が付きすぎるのも、なんだか落ち着かない」と評する。

  • そこへ夏美が現れ、生け花を教えてほしいとカツノに直接頼む。


個人的感想

彩華は、客観的に見れば非の打ちどころがないほど完璧だ。立ち居振る舞い、知識、気配り、過去の接点まで総動員して、平治を自然に持ち上げている。

ただ、その“完璧さ”が、平治のように経験を積み重ねてきた人物にとっては、「ありがたい」よりも「落ち着かない」に変わってしまうのが興味深い。

良かれと思ってやっている行為が、相手にとっては情報過多・配慮過多になることもある、という感覚。

一方で夏美は、知識も技術も足りないが、分からないことを分からないまま正面から頼みに行く。

亀が苦手そうなカツノも、ちゃんと世話はしていて一安心。

ただし夏美、亀触った後はちゃんと手を洗えよ、とは思った。

(この子、常識がないところがあるからな…)

そして少し気になるのが、生け花を教えてもらう相手として環を飛ばしてカツノに直行したこと

無邪気さなのか、距離感のズレなのか、この一手が後で問題にならなければいいが…という不安は残る。


■「気が付きすぎる人」はなぜ疲れさせるのか

彩華は正解を外さない。相手が喜びそうな情報、話題、態度を常に選んでいる。

だがそれは裏を返せば、相手に委ねる余白がないということでもある。

平治が感じた「落ち着かなさ」は、気遣いそのものではなく、“隙のなさ”への違和感なのかもしれない。


■ 平治が夏美に安心する理由

夏美は、

・知らない

・できない

・失敗する

その全部を隠さない。

平治にとっては、評価されるよりも、ぶつかられることの方が心地いいのだろう。

「分からないけど教えてください」という姿勢は、経験者にとって最も対等なコミュニケーションでもある。


■ カツノという“抜け道”を使う夏美の危うさ

環を通さず、カツノに直接頼む。これは効率的で、実際うまくいく可能性も高い。

ただし、組織の中では“正しいルートを飛ばす人”は警戒される。

夏美自身は悪気ゼロだが、その無自覚さが火種になるのが、これまでのパターンでもある。


■ 彩華と夏美は「才能の種類」が違う

彩華:

  • 積み上げた技術

  • 社会的に評価される完成度

夏美:

  • 人の懐に入る力

  • 未完成ゆえの吸引力

どちらが優れているかではなく、どちらがこの場に“異物”として作用するかの違い。

今の加賀美屋にとって、危険なのはむしろ“正解ばかりの存在”なのかもしれない。


板場の「しきたり」と火傷事故が突きつけたもの――「守られているのは何なのか」という問い

  • 加賀美屋の板場では、浩司(蟹江一平)が彩華に対して張り切った様子で仕事ぶりをアピールしている。

  • 配膳から戻ってきた佳奈に、夏美が声をかけようとする。

  • 夏美から急いで距離を取ろうとした佳奈は足を滑らせて転倒し、腕に火傷を負う。

  • 夏美は佳奈を連れて板場に入り、すぐに腕を冷やし始める。

  • 板長・篠田(草見潤平)は「女は板場に入るな」と怒鳴り、夏美を強く叱責する。

  • しきたりを守る篠田と、手当を最優先する夏美が対立する。

  • 彩華が現れ、「板場は神聖な場所」「しきたりは大切」と主張し、

    夏美に「加賀美屋でやっていくのは厳しいのでは」と言い放つ。

  • 緊張と対立が最高潮に達した場面で、今回の放送は終了する。


個人的感想

まず、浩司のアピールがうるさい(笑)刺身の上で大声を出すな。唾が飛ぶぞ!

それはさておき、今回の転倒事故とその後の対応で、視聴者の感情が一気に噴き出したのは間違いないと思う。

佳奈に話しかけようとする夏美についても、気持ちは分かるが、プライベートな話(断定はできないが)は仕事が終わってからでよかった。結果として、佳奈はその場を避けようとして転倒し、火傷を負ってしまう。

そして、ここから一気に空気が変わる。

板長・篠田の

「女は板場に入るな!」

という怒鳴り声。

この一言で、視聴者の多くが一気に引いたはずだ。しきたりを重んじるあまり、「目の前で怪我をした従業員の手当」よりも「板場のルール」が優先される構造が、ここでも露骨に描かれる。

夏美は、しきたりよりもまず火傷の手当を優先する。これは特別な勇気ある行動というより、ごく一般的な判断だ。だからこそ、今回は多くの視聴者が

「今回は夏美が正しい」

と感じたと思う。

ところが、その流れを断ち切るように現れた彩華が、

  • 板場は神聖な場所

  • しきたりは大切

  • それがおもてなしの心につながる

と、一気に理屈を重ね、「夏美には加賀美屋でやっていくのは厳しい」と言い放つ。

この瞬間、ヘイトは夏美ではなく、篠田と彩華、そして作品そのものに向かって爆発した印象がある。

SNSでは「現代だったら許されない」という声も多かったようだが、正直、これは20年近く前でもアウトだったと思う。


■「しきたり」と「安全配慮義務」の衝突

今回の佳奈の転倒は、故意ではない。業務中に発生した事故であり、

  • 業務起因性

  • 業務遂行性

を満たす、典型的な業務上の災害(労災)と考えられる。

使用者には、労働者の生命・身体の安全を確保する義務、いわゆる安全配慮義務がある。

これは後に法律として明文化されるが、どんど晴れ放送当時の2007年時点でも、すでに最高裁判例を通じて確立していた考え方だ。

つまり、怪我をした従業員を救護せず、板長であり管理監督する立場の篠田の「しきたり」を理由に制止する行動は、安全配慮義務に反すると解釈されても不思議ではない。

しきたりは文化かもしれないが、安全配慮義務はどんど晴れ放送当時にあっても判例によって確立された法的な考え方だ

ここで描かれているのは、「しきたり」という文化と、労働者の安全を最優先に考える判例法理が真正面からぶつかった瞬間でもある。


■「神聖な場所」という言葉の危うさ

彩華が使った

「板場は神聖な場所」

という言葉は、一見もっともらしく聞こえる。

だが、「神聖」を理由にすれば、何を排除しても正当化できてしまう。

  • 女性を排除する

  • 救護を後回しにする

  • 異論を封じる

この構造は非常に危うい。

しかも、その理屈を語っているのが、登場して間もない人間である彩華である点が、視聴者の反感をさらに強めている。

内部の人間ですらない人物が、「ここでは無理だ」と断じる構図は、正義というより排除に近い。


■「しきたり」を守るために会社は滅びる

仮に、板場の水道が最短距離だったとしても、女性が使えないのであれば、

  • 別の場所に水道を設ける

  • 緊急時の例外ルールを作る

それを考えるのが、経営側の仕事だ。

しきたりを守るために、怪我人を見殺しにする組織は、いずれ信用を失い、社会的責任を問われる。

伝統をアップデートできなかった組織は、伝統と共に消えていく。

今回のエピソードは、加賀美屋という組織が抱える致命的な弱点をこれでもかと突きつけてきた回だった。


■視聴者のヘイトが「夏美」から「作品」へ移った瞬間

これまで視聴者の苛立ちは、主に「夏美」に向けられていた。

だが今回で、その矛先は明確に変わったように感じる。

  • おかしな理屈

  • 時代錯誤な価値観

  • それを肯定的に描こうとする演出

これらが重なり、「どんど晴れ」という作品そのものへの不信感が強まっているような反応が見られる。

ハクサンチドリのエピソード以降、このドラマが一貫して抱えている危うさが、ここで臨界点に達したように感じる。
感想記事を書き続けてきて見えてきた傾向も確かにある。需要はないかもしれないがいずれ別記事にしてもいいかなとも思う。


まとめ

第65回は、単なる登場人物同士の衝突ではなく、加賀美屋という組織そのものの危うさが、はっきりと可視化された回だった。

火傷を負った仲間を前にしても優先されたのは「しきたり」。それを保障する仕組みも、代替手段も用意されていない現実。今回ばかりは、視聴者の多くが「夏美の行動は正しい」と感じたはずだ。

これまで批判の矛先が向きがちだった夏美ではなく、作品世界そのものに疑問が向き始めた点が、この回の決定的な特徴だろう。

物語は今、

改革か、崩壊か

その分岐点に立っているように見える。

それでも最後まで見届けたいと思わせるのは、この歪んだ世界が、どこへ辿り着くのかを確かめたいからだ。

『どんど晴れ』感想まとめはこちら

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