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2025年12月23日放送の『どんど晴れ』第62回は、実権を握った九代目女将・環のもとで、加賀美屋の空気が一気に厳しさを増していく回だった。
仲居頭に復帰した時江の「指導」の名のもと、夏美は現場で露骨な負担を背負わされるようになる。
一方、下宿先イーハトーブでは、夏美と柾樹がすでに「別れた関係」であることが明らかになり、聡の行動をきっかけに、佳奈との友情にも亀裂が入り始める。
物語の終盤、環は夏美を時江の直下に置き、「目の届く場所」で働かせる方針を示す。
第62回は、善意や正しさの仮面をかぶった圧力が、人を追い詰めていく過程を描いた回だった。
「指導」という言葉で包まれる圧力──現場で起きていること
夏美(比嘉愛未)は、康子(那須佐代子)・則子(佐藤礼貴)・恵(藤井麻衣子)の三人から次々と雑用を頼まれるようになる。
その様子を見た佳奈(川村ゆきえ)は、「これじゃ、しごきだよ」と疑問を口にする。
しかし、仲居頭として復帰した時江(あき竹城)は、これは「しごき」ではなく「指導」だと言い切り、問題視しない姿勢を示す。
個人的感想
「指導」という言葉を使えば、すべてが正当化されるわけではない。
優越的な地位を利用し、
-
適正な業務の範囲を超え
-
特定の人物に負担を集中させ
-
就業環境を害する
こうした行為は、明確にハラスメントに該当する。
もちろん、一番下っ端の従業員が雑用を多く引き受けること自体は、職場では珍しくない。
だが今回の三人の態度には、業務上の必要性よりも、夏美に対する嫌悪感や報復感情が前面に出ているように見える。
これは指導ではなく、「嫌がらせとしての業務押し付け」と受け取られても仕方がない空気だったことは間違いないのだが、雑用であっても業務は業務だし、夏美自身が遠慮がなくなって良かったと感じているようだから、就業環境が害されてるとも言えないんだよなぁ。だからこれもハラスメントではないと言われてしまうのだろう。
■「指導」という言葉が免罪符になる瞬間
現場ではよく、問題行為が「指導」「教育」「鍛えるため」という言葉で包まれる。
だが、行為の名称ではなく、中身と影響が問題だ。
結果として、
-
心理的負荷がかかる
-
孤立が進む
-
意欲が削がれる
のであれば、それは指導とは呼べない可能性が出てくる。
■佳奈が「異常」に気づける理由
佳奈が違和感を覚えたのは、彼女が当事者でも、権力側でもないからだ。
組織では、
-
上にいる人間
-
標的になっている人間
よりも、少し外側にいる人間のほうが状況を正確に捉えられることがある。
佳奈の視点は、視聴者の感覚に最も近い。
■「雑用」は裁量の余地が大きい仕事
雑用は、
-
明確な基準がなく
-
断りづらく
-
負担の調整が恣意的
という特徴を持つ。
だからこそ、悪意がなくても圧力として機能してしまう。
「雑用だから問題ない」という発想こそが、最も危険だ。
「別れた」という事実が生む波紋──覚悟と未練が交差する夜
イーハトーブで、佳奈は夏美に柾樹(内田朝陽)と別れたという話が本当かどうかを確認する。
夏美はそれを認め、もう一度女将修業をするためには、それくらいの覚悟が必要だったと語る。
この話を聞いた聡(渡邉邦門)は、「そんなの無責任だ」と柾樹を責めるが、アキ(鈴木蘭々)やビリー(ダニエル・カール)は、二人が別れたことに一定の理解を示す。
その後、浩司(蟹江一平)が彩華(白石美帆)を連れてイーハトーブを訪れる。
浩司と彩華は付き合っており、裕二郎(吹越満)は、彩華が子どもの頃から仲間内のマドンナ的存在だったことを明かす。
彩華は料亭の一人娘で、浩司と付き合うきっかけは高校の同窓会だった。
柾樹も同じクラスだったが同窓会には来られなかったという。
彩華は、高校時代から柾樹がモテていたことを語り、それを聞いた夏美は、切ない表情を浮かべる。
浩司と彩華は、裕二郎のじゃじゃ麵を食べに来たのだという。
個人的感想
正直なところ、夏美と柾樹は
「婚約は解消したが、別れたわけではない」
と思っていた。
だが今回で、二人は彼氏彼女の関係ですらなくなっていたことがはっきりした。
結婚を一時保留して女将修業に集中するのではなく、完全に他人として女将を目指すという選択だったのだと分かり、少し驚いた。
聡は、柾樹への敵意を隠そうともせず、「何かあれば相談に乗る」と、ここぞとばかりに攻勢に出る。
その様子を横で見ている佳奈の表情が、とにかく切ない。
また、浩司と裕二郎の関係が良好なのも印象的だった。伸一と裕二郎があまりうまくいっていなかっただけに、余計にそう感じる。
彩華も裕二郎と自然に打ち解けており、この空気感を見ると、浩司と彩華が結婚し、彩華が女将になる未来のほうが一番丸く収まるのでは、とすら思えてくる。
柾樹は高校時代からモテていたらしい。大人になってもモテていて、仕事もできる。
そう考えると、夏美は
「逃した魚が大きかった」
のかもしれない。
それにしても、板前の浩司まで絶賛する裕二郎のじゃじゃ麵。本当に相当おいしいのだろう。
じゃじゃ麵しか作らないことで、
結果的に
じゃじゃ麵を極めてしまった、
そんな気さえしてくる。
■「別れ」は覚悟の表明であり、代償でもある
夏美の選択は、逃げではなく覚悟だ。
だが同時に、関係を完全に断つという代償も伴っている。
覚悟は、美談として語られがちだが、必ず痛みを含む。
■聡の攻勢が生む新たな歪み
聡の行動は、善意と下心が混ざったものだ。
彼自身は支えているつもりでも、その姿勢は、
-
夏美を縛り
-
佳奈を傷つけ
新たな摩擦を生む。
優しさが、必ずしも正しい結果を生むわけではない。
■彩華という「完成形」に近い存在
彩華は、
-
老舗の娘
-
地元の顔
-
人付き合いも円滑
という点で、最初から女将候補として完成度が高い。
彼女の登場は、夏美の選択が本当に正しかったのかを問い直す装置になっている。
先約という拒絶と、条件付きの結婚──静かに壊れていく関係
佳奈は聡の部屋を訪れ、聡が作った新作の南部鉄器を見て、欲しがる。
しかし聡は、「これは先約がある」と言って渡さない。
その先約が、聡の好きな相手であることが分かり、佳奈は不安げな表情を浮かべる。
一方、加賀美屋の母屋では、女将就任をめぐって場が盛り上がったあと、
恵美子(雛形あきこ)が健太(鈴木宗太郎)と勇太(小室優太)に本を読んで寝かしつける。
そこへ伸一(東幹久)が現れ、恵美子に対して「何が何でも若女将になってもらう」と告げたうえで、決定的な一言を放つ。
その言葉を受けて、恵美子は今後の結婚生活について真剣に考えなければならないと、伸一に突きつける。
個人的感想
夏美が現れる前、聡と佳奈はそれなりに良い関係だったのだろうか。
それとも、昔から佳奈の一方的な片思いだったのか。
この前提によって、佳奈が夏美に向ける感情は、まったく別のものになる。
どちらにせよ、聡が「先約がある」と新作の鉄器を渡さなかった場面は、佳奈にとってかなり残酷だった。
一方、伸一は、以前からモラハラ気質の男として描かれてはいた。
恵美子と結婚した理由も、
「女将になれる人間だと思ったから」
ということは公言していた。
そして今回、ついに決定的な一言を口にする。
「女将になれないなら、誰がお前なんかと結婚するか」
このニュアンスの言葉を真正面から投げつけられた以上、恵美子がこの家にしがみつく理由は、もはやどこにもない。
個人的には、ここまで言われたなら、さっさと見切りをつけて、新しい生活を始めたほうがいいと感じてしまう。
■「先約」という言葉が持つ拒絶の強さ
「先約がある」という表現は、丁寧に見えて、実は非常に強い拒絶だ。
それは、
-
価値の優先順位
-
感情の所在
を、言葉にせず示してしまう。
佳奈が感じた不安は、偶然ではない。
■伸一の言葉はモラハラの完成形
伸一の発言は、
-
条件付きの愛
-
役割を果たせなければ価値がない
という思想そのものだ。
これは、典型的なモラハラの構造であり、関係を破壊する言葉だ。
■恵美子が突きつけた「考える」という選択
恵美子は、その場で感情的に反発せず、「考える」と宣言した。
これは逃げではなく、主体を取り戻す第一歩だ。
ここから彼女がどう生き直すかが、重要な分岐点になる。
「目の届く場所」に置くという管理──排除の準備が始まる
浩司と彩華は、イーハトーブを後にする。
その後、聡は夏美を二階に呼び、新作のフクロウの南部鉄器をお守り代わりとして手渡す。
その様子を、佳奈は陰から見つめている。
翌朝、夏美が起きてくると、佳奈はすでに出勤しており、旅館で声をかけても、素っ気ない態度を取られてしまう。
時江は夏美を環(宮本信子)のもとへ連れて行き、環は、「これからは仲居頭・時江の下で働いてもらう」と命じる。
久則(鈴木正幸)は、それが再び女将として育てる意図ではないかと心配するが、
環は、一番目の届くところに置き、夏美を追い出す口実を見つけるつもりだと明かす。
これまでは大女将の指示に従うしかなかったが、今は自分が九代目女将であり、好きなようにさせてもらうと環は語る。
時江の厳しい指導を受ける夏美の姿で、この日の放送は幕を閉じる。
個人的感想
朝からこれでもかと、視聴者の気分を削りにくる描写が続く回だった。
夏美と佳奈の友情には明確な亀裂が入り始め、時江と環は目配せを交わしながら、これから夏美に対して組織的な圧力をかけていくことを暗に示している。
これまで、夏美の女将修業をそれなりに公平な目で見ていたのかと思っていた。
だがそれもすべて、大女将の命令だったからに過ぎず、夏美を育てる気など最初からなかったことが、ここで明らかになる。
そして環は、九代目女将として実権を握った以上、好きなようにやらせてもらうと宣言する。
人の嫌な部分を、これでもかと見せつける展開で、朝の爽やかな気分を容赦なく潰しにくるのが、いかにも『どんど晴れ』らしい。
ただ一方で、七代目大女将・カツノ(草笛光子)が解雇権濫用法理をまるで理解していないかのように時江を簡単に解雇していたのに比べると、九代目女将・環は、「一度雇った以上、簡単には解雇できない」という現実を、七代目よりは理解しているようにも見える。
だからこそ、夏美に対してあっさり解雇を言い出さず、別の形で追い出そうとしているのだろう。
現時点の夏美に、解雇の客観的合理性や社会通念上の相当性を見いだすのは難しい。
そう考えると、
「嫌なら最初から復職に反対すべきだった」
という話になる。
だが九代目女将は、七代目大女将の最後の権力行使に屈したことで、結果的に自分の首を絞めることになった。
■「目の届く場所」は育成ではなく監視
環の言う「目の届くところに置く」は、育成のための配置ではない。
これは、
-
行動を逐一把握する
-
ミスを拾い上げる
-
排除の材料を集める
ための、典型的な監視配置だ。
■解雇できないから追い込むという選択
環が取っているのは、
-
解雇できない
→ -
自主退職に追い込む
という、現実の職場でもよく見られる手法だ。
表向きは合法でも、実質的には精神的圧迫による排除に近い。
■時江は「手段」に過ぎない
時江は厳しく指導しているが、主導権は環にある。
時江は、
-
実行役
-
矢面に立つ存在
として使われている。
責任の所在を曖昧にするための配置とも読める。
■友情が壊れる過程のリアルさ
佳奈との関係が壊れていくのは、裏切りや悪意が原因ではない。
-
立場の違い
-
見たものの違い
-
言葉にできない距離
そうした小さなズレの積み重ねが、人間関係を壊していく。
この描写は、非常に現実的だ。
■九代目女将が背負った「矛盾」
環は、
-
自由に采配したい
-
だが解雇はできない
という、矛盾した状況に立たされている。
この矛盾は、七代目大女将の最後の決断によって生まれたものだ。
環は、継承と同時に、解決不能な問題も引き継いでしまった。
まとめ
第62回は、環が九代目女将として実権を握った後、何を選び、何を切り捨てたのかがはっきり見えた回だった。
「指導」という言葉で包まれた雑用の押し付け、仲居頭の下に置くという名目の監視配置、そして「遠慮はいらない」という放任。
それらはすべて、解雇できない相手を組織の中で追い込むための選択にも見える。
また、聡の善意が佳奈を傷つけ、夏美との友情に影を落とす展開は、悪意がなくても人間関係は壊れる、という現実を突きつけてきた。
環は、七代目大女将の最後の決断に屈した結果、解決できない矛盾を引き継いでしまった。
第62回は、人を育てると言いながら、実は排除へ向かっていく構造が静かに、しかし確実に動き出した回だったと言えるだろう。
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