朝ドラ再放送『どんど晴れ』第61回感想(ネタバレ)──空の玉手箱と女将交代、現場が納得しない再出発

どんど晴れ

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2025年12月22日放送の『どんど晴れ』第61回は、年に一度の茶会で大女将・カツノが引退を公表し、環が名実ともに九代目女将として加賀美屋を継ぐ回だった。

カツノは、代々女将に引き継がれる「空の玉手箱」を環に手渡し、その意味を自分で考えるようにと告げる。

一方、仲居として復帰した夏美に対して、現場の従業員たちは反発を見せ、加賀美屋には新たな緊張が生まれる。

そして物語の終盤、夏美の前に新たな人物が現れ、次なる波乱を予感させる展開となった。


引退の宣言と正式な権力移譲──だが組織図は相変わらず不透明

年に一度の加賀美屋のお茶会が、厳かな雰囲気の中で執り行われる。

席上で、大女将・カツノ(草笛光子)は引退を正式に表明し、加賀美屋の実権が自分から環(宮本信子)へ移ることを明らかにする。

カツノは、これまでの支えに対する感謝とともに、大女将としての役目を終えることを参加者に伝える。

九代目女将を引き継いだ環は、女将として加賀美屋を守っていく決意を宣言する。

伝統と格式が引き継がれていく様子に、夏美(比嘉愛未)は素直に感動する。

一方、横浜にいる柾樹(内田朝陽)は、カツノの引退を複雑な思いで受け止めている。


個人的感想

正直に言うと、加賀美屋の組織体系がまったく分からない。

七代目大女将・カツノが引退し、柾樹の亡き母・俊江が八代目女将。

そして、ずっと「女将」と呼ばれてきた環が、このお茶会で初めて九代目女将になったと説明される。

……整理が追いつかない。

大女将・女将・若女将という肩書きは、一見すると並存できそうだ。

だが、実権を握るのは大女将か女将のどちらか一人だけなのか?

俊江が八代目女将だった時代は、七代目大女将と八代目女将が並存していたのか。それとも、そのときカツノはいったん引退していたのか。

もし並存できていたのなら、なぜ今回、七代目大女将と九代目女将は並存できなかったのか。

そもそも、これまで「女将」と呼ばれていた環の立場は何だったのか。

執行役員女将と取締役女将、

そんな違いだったのか。

これまでは

従業員のトップ=現場責任者として動いていたが、

やっと実権を握る

経営トップになった、

そんな解釈でいいのだろうか。

柾樹の母・俊江は、八代目女将として本当に実権を握っていたのか。

……とにかく、誰かに一度きちんと整理してもらわないと、混乱が止まらない。


■環が「やっと女将になった」意味

このお茶会で初めて「九代目女将」と明言されたことは重要だ。

それは、

  • 環が正式な権威を得た

  • これまでの“仮の女将”状態が終わった

ことを示している。

つまり今後は、環の判断が言い訳なく「加賀美屋の判断」になる。


空の玉手箱──象徴を丸投げする継承

板場では、板長の篠田(草見潤平)が大女将・カツノの引退を惜しみ、浩司(蟹江一平)たちを酒に誘っている。

一方、カツノは環を呼び、加賀美屋の女将に代々引き継がれてきた玉手箱を手渡す。

環が箱を開けると、中身は空だった。

戸惑う環に対し、カツノは

「これが加賀美屋のすべて」

「意味は自分で考えなさい」

とだけ告げる。

カツノ自身も、女将になってからこの玉手箱の意味をずっと考え続けてきたと語り、

「これからは環の番だ」と継承を完了させる。

カツノは、これからの加賀美屋を環に託し、環は誠心誠意、女将として務めあげることを約束する。


個人的感想

空の玉手箱。視聴者全員に、大きな謎を残す演出だ。人それぞれ、いろいろな解釈が浮かぶだろう。だが気になるのは、本当に正解はあるのかという点だ。

カツノは、女将になってからずっとこの玉手箱の意味を考えてきたと言う。

では、

彼女は正解に辿り着いたのだろうか。

それとも、

最後まで分からなかったのか。

代々引き継がれている以上、本来なら

「こういう意味だ」という答えも一緒に引き継がれていてもおかしくはない。

正解が存在しないのであれば、

正解にたどり着けなかった誰かが

「こんなものはいらない」

と言い出しても不思議ではない。

そう考えると、やはり何らかの明確な意味は存在している気がする。

ただし、

『どんど晴れ』という作品は、

こちらの常識を軽々と飛び越えてくる。

正解があるのか、ないのか。

この玉手箱が、今後どのような意味を持たされていくのか、それ自体が物語の見どころになりそうだ。


■「空」であること自体が答えという解釈

最も分かりやすい読みは、中身がないこと自体が意味というものだ。

女将にとって必要なものは、

  • 規則

  • 教訓

  • 正解

ではなく、その時々で考え、積み重ねていく姿勢だ、というメッセージ。


■ 正解は存在するが、言語化されないだけ

もう一つの可能性は、正解は存在するが、

  • 言葉にすると陳腐になる

  • 時代によって変わる

ため、あえて伝えられていない、というもの。

カツノが「考え続けてきた」と語る点からも、これは十分あり得る。


■ 象徴を丸投げする継承の危うさ

一方で、これはかなり乱暴な引き継ぎでもある。

理念や価値観を、「自分で考えろ」で済ませてしまうと、

  • 解釈が独りよがりになる

  • 共有されない

というリスクがある。

継承とは、自由と同時に責任の重さも渡す行為だ。


■ 物語装置としての玉手箱

この玉手箱は、今後、

  • 環の判断

  • 加賀美屋の変化

を測る基準点として使われる可能性が高い。

環の選択が、

「箱の中身をどう埋めていくか」

という比喩で評価されていく構造だ。


現場の反発と分断──「戻ってきた者」が背負わされる感情

大広間の後片付けをする中で、康子(那須佐代子)、則子(佐藤礼貴)、恵(藤井麻衣子)の三人は、再び仲居として働き始めた夏美を責め立てる。

突然姿を消し、何の説明もないまま戻ってきたことに対し、強い不満をぶつける形だ。

夏美はその言葉を受け止め、謝罪する。

その場では、佳奈(川村ゆきえ)と清美(中村優子)が夏美の味方に回り、庇うような態度を見せる。

そこへ時江(あき竹城)が現れ、「女将さんから話がある」として、板場に全員集まるよう命じる。


個人的感想

佳奈と清美が、はっきりと夏美の味方をしてくれるのは心強い。

特に佳奈は、以前から一貫して夏美を応援してきた存在だ。だからこそ、今後、聡をめぐる関係で仲違いしなければいいなと、少し先の展開を心配してしまう。

一方で、何の連絡もなく姿を消し、現場に迷惑をかけた夏美に対してネガティブな感情を抱くのは、同僚としてはむしろ自然な反応だと思う。

そう考えると、康子・則子・恵の態度は決して異常ではない。

だからこそ、夏美は佳奈と清美の存在をもっと大切にするべきだとも感じる。

これから先、康子、則子、恵、そして時江までもが、次第に夏美に厳しく当たっていくのだろう。

それは意地悪というより、現場が出す当然の摩擦なのかもしれない。


■「謝ったから終わり」ではない問題

夏美は謝罪した。だが、謝罪はスタートであって、解決ではない。

信頼は、

  • 時間

  • 行動

  • 積み重ね

でしか回復しない。

ここから夏美は、仲居としての実務で評価を取り戻す必要がある。


「同じ仲居」という宣言と、遠慮不要という危うい合図

仲居、板前、番頭を前にして、九代目女将となった環が決意表明を行う。

環は、経営を立て直すために、将来的には旅館の建て替えも検討する可能性があると伝える。

また、女将就任を機に、時江を仲居頭として復帰させたこと、そして夏美も再び働くことを従業員たちに告げる。

時江と夏美が挨拶をすると、時江には拍手が起こるが、夏美には拍手はなかった。

番頭の中本(高橋元太郎)が、夏美の復帰に納得できない人もいるのではないかと進言すると、

環は

「大女将が決めたことなので覆せない」

と答える。

そのうえで環は、夏美はもう柾樹の結婚相手ではなく、皆と同じ一人の仲居なのだから、遠慮する必要はないと告げる。

その直後、夏美にとってライバルとなりそうな人物が、加賀美屋の建物の前に姿を現し、今日の放送は終了する。


個人的感想

ついに、旅館の建て替え計画が、環の家族だけでなく、従業員たちにも共有された。

ただ個人的には、建物を建て替える前に、まず加賀美屋という組織そのものの改革が必要なのではないかと思ってしまう。

外側だけ変えても、内側が同じなら、また同じところで行き詰まるのではないか。

建て替えの話が出たとき、浩司だけが口を真一文字にして複雑な表情を見せていたのも印象的だった。

伸一と浩司の兄弟で、考え方が分かれていきそうな気配がある。

もしリゾートホテル化するなら、和食の板前は用済みになるのでは、そんな不安が頭をよぎっているのかもしれない。

また、時江と夏美の復職が伝えられ、一見すると元通りに見えるが、環の言葉には強い引っかかりが残る。

「もう柾樹の結婚相手ではないから、遠慮はいらない」

この「遠慮はいらない」という言葉は、捉え方次第で、かなり危険だ。

夏美排除派にとっては、遠慮なくいじめて構わないという許可や合図として受け取られても不思議ではない。

実際、環自身も、そうした空気をどこかで織り込み済みなのではないか、と感じてしまう。

そこにライバルまで登場するとなると、夏美の前途は、正直かなり多難だ。


■建て替えは改革ではなく「見た目の刷新」

環の語る建て替えは、経営判断としては理解できる。

だがそれは、

  • 人間関係

  • 組織文化

  • 権限構造

を変えるものではない。

内部改革を伴わない刷新は、問題を先送りするだけの可能性が高い。


■拍手の有無が示す「現場の温度」

時江には拍手があり、夏美にはなかった。

これは、

  • 誰が歓迎されているか

  • 誰がまだ受け入れられていないか

を、これ以上ないほど分かりやすく示している。

公式な決定と、現場の感情は、完全に乖離している。


■「同じ仲居」という言葉の二面性

環の言葉は、表向きには平等を示している。

だが同時に、

  • 特別扱いしない

  • 守らない

  • 配慮しない

という宣言でもある。

中立を装った放任は、弱い立場の者を最も傷つけやすい。


■遠慮不要は「管理放棄」に近い

「遠慮はいらない」は、現場管理を個々人の裁量に委ねる言葉だ。

これは、

  • 公平

  • 自由

に見えて、実際にはハラスメントを放置する構造を生みやすい。

女将としての力量が、ここで厳しく問われる。


■ライバル登場が突きつける比較

新たなライバルの登場は、夏美の存在を相対化する装置になる。

もしその人物が、

  • 能力が高い

  • 感情に流されない

  • 現場適応力がある

タイプであれば、視聴者も現場も、容易に比較を始める。

主人公補正が試される局面だ。


まとめ

第61回は、加賀美屋の「代替わり」が正式に完了した回だった。

大女将・カツノは引退し、環は九代目女将として全責任を引き受ける立場になる。

だが引き継がれたのは、明確な答えではなく、中身のない玉手箱だった。

それは自由であると同時に、判断のすべてを一人で背負うという重さでもある。

また、夏美の復帰は制度上は認められたが、現場の納得は得られていない。拍手の有無や、「遠慮はいらない」という言葉が示す通り、平等を掲げた放任は、むしろ対立を深めかねない状況だ。

女将交代という大きな節目を迎えながら、組織としての不安定さはむしろ表面化している。

そして最後に現れたライバルの存在が、夏美の立場とこれまでの積み重ねを改めて問い直すことになりそうだ。

第61回は、継承が完了したように見えて、実は何も解決していない回だったと言えるだろう。

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