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2025年12月20日(土)放送の『どんど晴れ』第60回は、夏美の女将修業復帰と、大女将・カツノの引退を告げる茶会が描かれた。
カツノは環の反対を押し切り、「明日までは自分が大女将だ」として夏美の復帰を許可する。
一方、環は夏美に対し、復帰には賛成しかねると冷たく本音を伝える。
久しぶりに下宿・イーハトーブへ戻った夏美は仲間たちに迎えられ、柾樹とも電話で言葉を交わすが、二人の距離には微妙な“間”が生まれていた。
そして加賀美屋では、平治の新作の茶釜を使い、昭和から旅館を支えてきた大女将・カツノの最後のお務めとなる茶会が厳かに始まる。
「許可」と「承認」を切り分ける決断――大女将と次期女将のズレ
夏美(比嘉愛未)は、もう一度仲居として働かせてほしいと頭を下げてお願いする。
これに対し環(宮本信子)は、これから女将としてやっていく自分に決めさせてほしいとカツノに申し出る。
しかしカツノ(草笛光子)は、「自分が引退するのは明日。今日までは大女将だ」と述べ、その権限をもって夏美の復帰を許可する。
その後、廊下で環を捕まえた夏美は、「明日からまた頑張るので、よろしくお願いします」と声をかける。
だが環は、夏美が戻ってくることには賛成しかねている、という本音をはっきり伝え、その点を覚えておくよう念を押す。
個人的感想
この場面、選択肢は二つあったと思う。
一つは、カツノが取ったように、
「大女将の引退は明日だから、今日までは自分が決める」
という形で夏美の復帰を許す方法。
もう一つは、
「明後日以降は環が実権を握るのだから、環さんが決めてください」
と、判断を次期体制に委ねる方法だ。
個人的には、今後の旅館運営を担うのが環である以上、後者のほうが筋は通っていたのではないかと思う。
明日引退する人間が、環一派とも折り合いが悪く、問題行動も多かった夏美を、引退の置き土産のように残していく。
この決断は、組織運営としてはかなり乱暴だ。
加賀美屋は、権力さえ握れば不当解雇すらやりかねない空気のある職場だ。
「復職を認めたのは大女将だが、私の代になったので解雇します」
と言われても、正直驚かない。
もちろん、一度雇った以上、簡単に解雇できるわけではなく、そこには明確な問題がある。
ただ一方で、環が夏美に対して「復職に賛成しかねている」と正直に伝えた点は、悪くなかったと思う。
夏美には、理由を言葉にして伝えないと、なぜ自分が厳しく扱われているのか分からなそうだからだ。
この宣言をした以上、今後、環が夏美を容赦なくいびり倒す展開になるだろう。
それが『どんど晴れ』というドラマだ。
■「許可」と「承認」は別物である
カツノが与えたのは、あくまで復帰の許可だ。
一方、環が示したのは、賛成しかねるという意思表示。
制度上は戻れる。だが、現場では歓迎されていない。
この二重構造は、職場で最も人を消耗させる。
■引退直前の決断がもたらす混乱
カツノの判断は、「今の権限を使い切る」決断だ。
だがそれは同時に、
-
次期体制への不信
-
権限移行の失敗
を意味する。
引退する者が、次に責任を取らない決断をする。これは、組織ではよくあるが、最もトラブルを生むパターンでもある。
■環の冷たさは感情ではなく戦略
環の対応は冷酷に見えるが、
-
自分は賛成していない
-
だから厳しく接する
という、立場の明確化だ。
曖昧な笑顔より、よほど誠実とも言える。
■「正直さ」が生む新しい対立
環が本音を伝えたことで、今後の関係性は明確になった。
これは和解ではなく、公式な対立の始まりだ。
だが、理由の分からない敵意より、宣言された敵意のほうが、戦い方は分かりやすい。
帰れる場所と、距離を置く選択──安心と保留が同時に訪れる夜
夏美はイーハトーブに戻り、下宿先に帰還する。イーハトーブの仲間たちは、変わらぬ明るさで夏美を迎え入れる。
自分の部屋に戻った夏美は、柾樹(内田朝陽)に電話をかける。柾樹は夏美のことを心配しており、再び修業させてもらえることになったと聞いて安堵する。
夏美は、今後もこのように電話してもいいかと柾樹に尋ねるが、柾樹は即答せず、少し間を置く。
個人的感想
イーハトーブの面々は、いつも変わらず、無条件で夏美を迎え入れてくれる。
裕二郎(吹越満)が「何でも好きなもの作ってやる」と言った流れで、夏美が「じゃじゃ麵」を選ぶのは、多くの視聴者が「やっぱりね」と思ったはずだ。
正直、裕二郎のレパートリーはじゃじゃ麵か冷麺しかないんじゃないか、という気もするが、それだけ何度でも食べたくなる味なのだろう。
ビリー(ダニエル・カール)が演奏する曲も、お決まりの「カントリーロード」。あまりにも様式美すぎて、デジャヴュを見ているような安心感すらある。
ここは、夏美にとってやっと一息つける場所なのだとよく分かる。
一方で、柾樹との電話は少し違う空気を含んでいた。
柾樹は、夏美が自分の人生を決めたことを受けて、
「自分ももう一度ちゃんと考えたい」
と語る。
この流れだと、電話そのものを拒否する展開かと思いきや、柾樹は
「声を聞くこと自体は問題ない」
と伝える。
これは、都合よくキープしているというより、自分の考えを整理するために、一人の時間が必要という意味合いだろう。
この冷却期間の間に、香織(相沢紗世)や聡(渡邉邦門)の“猛攻”が始まりそうな気配も、正直、かなりする。
■ お決まりの演出が担う役割
じゃじゃ麵、カントリーロード、いつもの歓迎。
これらは新鮮味はないが、意図的な「繰り返し」でもある。
変わらない場所があることで、変わらなければならない場所が、より浮き彫りになる。
■柾樹の「即答しなかった」意味
柾樹が即答しなかったのは、拒絶ではない。
むしろ、
-
距離を取る
-
判断を保留する
-
感情を整理する
という、かなり誠実な対応だ。
安易な励ましや約束より、ずっと大人の選択とも言える。
■「冷却期間」は物語を動かす装置
この一時的な距離は、
-
香織
-
聡
といった、別ルートの人物が動き出すための余白でもある。
感情が落ち着いた時間ほど、周囲は静かに動き始める。
達観した者たちが「意気」に反応する瞬間
縁側で涼んでいるカツノのもとを、平治(長門裕之)が訪ねてくる。
二人は完成した茶釜について言葉を交わし、話題は自然と夏美のことへ移る。
カツノも平治も、夏美の働きぶりや姿勢を高く評価し、いわば“べた褒め”の状態になる。
話の終わりに、平治は、明日で大女将を引退するカツノを労う言葉をかける。
個人的感想
カツノと平治。この二人にとって、夏美の存在が相当大きなものになっているのは間違いない。
長い人生を生きてきた二人の周囲には、いつの間にかイエスマンばかりが増えていたのだろう。
そんな中で、
-
正直な感情をぶつけてくる
-
評価を求めずに向き合ってくる
若者の存在は、驚くほど新鮮で、心に響くものなのかもしれない。
カツノの大女将としての人生も、平治の職人としての人生も、相当な年月を重ねてきたはずだ。
その価値観を、短期間で揺さぶるだけの力を持つ夏美は、やはりどこか
座敷童的な存在なのかもしれない。
「人生意気に感ず」という言葉が、この場面にはよく似合う。
達観した二人にとって、もはや金銭や名誉は二の次で、心が動いたかどうかだけが重要なのだろう。
■イエスマンに囲まれた世界の限界
カツノも平治も、長年の立場ゆえに否定されない世界に生きている。
その世界では、本音や衝突は起きない。
だからこそ、真正面からぶつかってくる存在は、過剰に価値を持ってしまう。
■ 引退直前の二人が共有する時間の意味
明日で大女将を退くカツノと、職人としての終わりを意識し始めた平治。
二人は、自分の人生の終盤に差し掛かっている。
そのタイミングで出会った夏美は、「成果」ではなく人生の納得感を与える存在になっているように思う。
引退という儀式と、すべてが元に戻る違和感
お茶会が始まろうとしている。
夏美と時江(あき竹城)の復帰を目の当たりにし、康子(那須佐代子)、則子(佐藤礼貴)、恵(藤井麻衣子)の三人は驚きを隠せない。
やがて広間に招待客が集まり、茶会が始まる。
カツノは、平治の新作の茶釜を使ってお茶を点て、一同はその様子を静かに見守る。
昭和から人生の大半を加賀美屋と共に生き抜いてきた大女将・カツノの最後のお務めとなるお茶会が、厳かな空気の中で執り行われ、今週の放送は幕を閉じる。
個人的感想
夏美が復帰した以上、時江が戻るのは、正直「そりゃそうだよな」という流れだ。
ただ、この光景を斎藤愛子が見たらどう感じるのか、それがどうしても気になってしまう。
斎藤愛子は、加賀美屋を気に入ったと言っていた。また宿泊に来ても、まったくおかしくない。
もし彼女が、
-
女将は降格
-
仲居頭は解雇
-
夏美は出て行った
と聞かされていた状況から、この“全部元通り”の現場を見たら、
「なんだ、全部元に戻ってるじゃないか」
と思うのか、
それとも、
「気に入っていた夏美が戻れて良かった」
と受け取るのか。
どちらの反応も、十分あり得る。
また、お茶会というものに詳しくない身としては、もっと大人数で派手に行われるものだと勝手に想像していた。
実際には、20人程度の、かなり限られた空間。
招待されること自体は名誉なのだろうが、あの張り詰めた空気の中に、もしも自分がいたらと想像すると、正直、居心地は良くなさそうだ。
来週の予告では、夏美のライバル登場が示唆されていた。
そのライバルが、夏美とは正反対のタイプだったら、視聴者の支持がそちらに流れてしまいそうな予感も、今の段階では否めない。
■「全部元通り」がもたらす安心と停滞
夏美の復帰、
時江の復帰。
結果だけを見ると、加賀美屋は騒動前の状態に戻った。
これは視聴者にとっては安心感があるが、
同時に、
-
何が変わったのか
-
誰が責任を取ったのか
が、曖昧なままでもある。
変化が「なかったこと」になる危うさが、ここにはある。
■ライバル登場が意味するもの
来週登場が示唆された「夏美のライバル」は、
-
主人公の正当性
-
これまでの積み重ね
を相対化する存在になるのだろうか。
もしその人物が、
-
冷静
-
有能
-
感情に流されない
タイプであれば、視聴者の共感がそちらに集まる可能性はある。
まとめ
第60回は、夏美が「戻ること」は許されたが、「賛成されたわけではない」ことがはっきり示された回だった。
カツノは、引退前最後の権限を使い、夏美の復帰を決断する。一方、環は次期女将として、賛成していないという立場を隠さなかった。
許可と承認が分離した状態での再出発は、夏美にとって決して楽なものではない。
また、イーハトーブという安心できる場所と、加賀美屋という緊張の場の対比、そして柾樹との“距離を置く選択”が、今後の人間関係の変化を静かに示していた。
物語のラストでは、平治の新作の茶釜を用い、大女将・カツノの最後のお務めとなる茶会が始まる。
すべてが元に戻ったように見えながら、実際には、立場も関係性も、少しずつ変わり始めている。
第60回は、表面的な再出発の裏に、次の対立と試練が仕込まれた回だったと言えるのかもしれない。
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