朝ドラ再放送『どんど晴れ』第56回感想(ネタバレ)──誠意は通じるのか?夏美が初めてぶつかった“越えられない壁”

どんど晴れ

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2025年12月16日(火)放送の『どんど晴れ』第56回は、

夏美が再び盛岡に戻り、女将修業への復帰を懸けて“最初の関門”に挑む回だった。

これまで夏美は、誠意・覚悟・感情の力によって、幾度となく人の心を動かしてきた。

しかし今回、南部鉄器職人・平治という存在を前に、そのやり方が初めて通用しない局面に直面する。

「本気でぶつかれば、きっと分かってもらえる」その信念は、果たしてどこまで有効なのか。
第56回は、夏美の“強さ”と“危うさ”が同時に浮き彫りになる、重要な分岐点の回だった。

◆【祈りと誓い】岩手山に向かう夏美、もう一度立ち上がる決意

夏美(比嘉愛未)は、盛岡に戻り、岩手山に向かって手を合わせる。

かつて逃げ出してしまった自分の過去を悔い、もう一度やり直す決意を胸に、今度こそ頑張ると誓う姿が描かれる。

一方、南部鉄器の工房では、平治(長門裕之)が弟子の聡(渡邉邦門)を厳しく指導している。

職人としての誇りと厳格さが前面に出た空気の中で、伸一(東幹久)が加賀美屋の茶会で使う茶釜を受け取りに現れる。

伸一は、これまで使っていた茶釜を「古臭い」と評し、工房にあった一つの茶釜を見て

「これはモダンでいい」

と気に入り、そのまま持ち帰ってしまう。

しかし、その茶釜は平治が作ったものではなかった。この事実を知ったカツノ(草笛光子)は、

「加賀美屋の人間が物を見る目がない」

と激怒する。

茶釜は、平治の弟子である聡が作ったものだったが、平治自身は「伸一が気に入って持って行ったのなら、それでいい」と意外にも静かに受け止めるのだった。


個人的感想

癖の強い職人がへそを曲げたら、もう取り返しがつかない——

そんなイメージを持ってしまうだけに、この一連のやり取りはヒヤヒヤする場面だった。

伸一はいつも通り「良かれと思って」動いた結果、周囲の地雷を踏み抜いてしまった形だけど、彼がいなければ物語が一切前に進まないのも事実。

トラブルメーカーでありながら、同時に物語を動かす潤滑油でもあるという、非常に便利で損な役回りを担っているなと改めて感じた。

それにしても、

「古臭い」「モダンでいい」

という評価軸で茶釜を選ぶ伸一と、

「作り手の覚悟や積み重ね」

を重視するカツノとの価値観のズレが、かなり露骨に描かれていた回だったと思う。


■ 伸一=「現代的な評価軸」の象徴

伸一の行動は、決して悪意ではない。

  • デザインが良い

  • 今風で分かりやすい

  • 客受けしそう

こうした現代的・市場的な視点で物を選んでいる。

一方で、それは

  • 誰が作ったか

  • どんな積み重ねがあるか

  • 伝統の重み

といった職人世界の文脈を、完全に無視した選び方でもある。

伸一はこのドラマの中で一貫して、

「合理」「今風」「分かりやすさ」

を体現する存在として描かれている。

■ カツノが激怒した本当の理由

カツノが怒ったのは、

「平治の茶釜じゃなかったから」

だけではない。

本質はここ。

加賀美屋が“本物を見抜けなかった”こと

これは、加賀美屋の価値そのものを否定されたに等しい。

  • 老舗旅館としての誇り

  • 本物を扱う覚悟

  • 目利きであるという自負

それらが、伸一の一言で崩れた。

だからカツノは、茶釜以上に人間の姿勢に対して怒っているのだと思う。


◆【職人の誇り】平治の茶釜と、伸一の一言が生んだ決定的な亀裂

環(宮本信子)と久則(鈴木正幸)が話していると、玄関から佳奈(川村ゆきえ)の声が聞こえてくる。二人が玄関へ向かうと、そこには盛岡へ戻ってきた夏美の姿があった。

夏美は改めて、「もう一度、女将修業をさせてほしい」と頭を下げてお願いするが、旅館の従業員たちは簡単には受け入れられない雰囲気を見せる。

夏美はカツノ(草笛光子)と環の前でも深く頭を下げ、「女将になりたいから、もう一度修業させてください」と訴えるが、その願いは即座に拒まれてしまう。

一方、平治の茶釜を持ち帰れなかった件について、カツノは伸一に報告を求める。平治の新作の茶釜を楽しみにしている客も多く、来週のお茶会をどうするのかと久則は頭を悩ませる。

久則・環・伸一の三人は、カツノに対して謝罪。

その場で夏美は、

「自分が平治のところへ行って茶釜を受け取ってくる」

「それができたら、もう一度話を聞いてほしい」

と申し出るのだった。


個人的感想

カツノ、浩司、佳奈、清美といった一部の人間が夏美に好意的なのは分かるが、その他大勢の従業員が夏美の復帰に反発するのは、あまりにも当然 だと思う。

一度トラブルを起こし、何も説明せずに姿を消した人間を、「はい、今日からまた一緒に働きましょう」とはならない。

そこは、かなり常識的な反応だった。

それと同時に気になったのは、夏美が頭を下げる相手が カツノと環だけ で、

代表取締役であるはずの久則の存在が完全にスルーされている点。

久則、本当にお飾りなのか……。

形式上は代表取締役でも、修業再開の生殺与奪は完全にカツノが握っているんだろうな、という構図がよりはっきりした。

また、茶釜については伸一に対して「なぜ持ち帰れなかったのか」を詳細に詰問するカツノが、夏美の問題行動については、ほとんど聞き取りをしなかった過去を思い出すと、どうしても違和感が残る。

茶釜がそんなに大事なのか。

それとも身内だからこそ厳しくできるのか。

あるいは、夏美を「座敷童」か何かだと思っていて、機嫌を損ねたくなかったのか。

そして最後に残る疑問。

夏美の

「必ず平治の茶釜を持って帰ってきます」

という謎の自信は、いったいどこから来ているのか。


■ 従業員の反発は、極めて健全

この場面で描かれた従業員の反応は、非常にリアル。

  • 問題を起こした

  • 説明もなく消えた

  • 戻ってきて、いきなり「もう一度やらせてほしい」

この状況で歓迎される理由はない。

むしろ、

それでも頭を下げてお願いするしかない

という立場に夏美が置かれたこと自体が、ここまでの流れの中では珍しく「現実寄り」だった。

この拒絶があるからこそ、夏美の再出発が簡単ではないことが強調されている。

■ 久則が“存在しない人”のように扱われる理由

代表取締役である久則の名前が、修業再開の話題で完全にスルーされるのは象徴的。

この旅館の権力構造は、もはや明確。

  • 名目上の代表取締役:久則

  • 現場の女将:環

  • 最終決定権者:カツノ

つまり、

夏美の人生を決めるのは、カツノだけ

久則が蚊帳の外なのは脚本のミスというより、

「この家では大女将・カツノがすべて」

という世界観を強調するための演出だと思う。

■ 夏美の「自信」の正体

夏美がなぜ、

「私が行けば必ず茶釜を持って帰れる」

と言い切れるのか。

考えられる理由は二つ。

  • 平治がこれまで優しく接してくれた経験

  • 自分には「人の心を開く力」があるという無自覚な自負

後者のほうが、このドラマ的にはしっくりくる。

夏美はこれまで、

  • 愛子

  • カツノ

と、理屈では動かない人間の心を結果的に動かしてきた。

だからこそ、

他の人がダメでも、自分ならいける

という感覚を持ってしまっているのではないか。

これは自信であると同時に、非常に危険な万能感 でもある。

■ この場面の本当の役割

この場面は、

  • 夏美が拒絶される

  • 簡単には戻れない

  • それでも前に進もうとする

という 試練の入口

同時に、

  • 夏美はまだ「特別扱いされる側」にいる

  • カツノは完全に彼女を見捨てていない

ということもはっきり示された。

つまり、

本当に試されるのは、ここから

次の平治の工房での展開次第で、夏美が「再挑戦者」になるのか、それとも「また奇跡を起こす存在」になるのかが決まる。


◆【天秤にかけられた本音】茶釜よりも恐れられた“夏美の復職”

伸一が平治の茶釜を持ち帰れなかったことで、結果的に夏美に「茶釜を取って来られたら修業再開を考える」というチャンスが与えられる形になった。

この展開に対し、「大女将にすべて仕切られてしまった」と嘆く環と久則。

一方で、恵美子(雛形あきこ)は夏美が帰ってきたと聞いて嬉しそうな表情を見せるが、環・久則・伸一の三人は「これでまたややこしくなる」と、明らかに困惑した様子を浮かべる。

しかし環は、「平治から茶釜を受け取れるはずがない」と楽観視し、どこか安堵した表情を見せる。

環自身が、平治の気難しさをよく知っているからこそ、「夏美には無理だ」と確信している様子だった。


個人的感想

この場面で一番はっきりしたのは、

環一家にとっての優先順位

  • 平治の新作茶釜がない → お茶会に支障

  • 夏美が茶釜を持ち帰る → 夏美復帰の可能性

この二つを天秤にかけたとき、

「お茶会が多少グダること」よりも「夏美が復職すること」の方が重大案件

だと、環たちが本音では考えているのが透けて見えた。

つまり彼らにとっては、

茶釜が来ない → まあ困る

夏美が戻る → 絶対に困る

という感覚。

だからこそ、

「平治が断ってくれるはず」

「夏美には無理」

という前提で安心している。

夏美の復職が嫌なら、正面から

「修業再開は認めない」

と大女将に進言すればいいのに、それをしない。

それはきっと、

言っても無駄だと全員が分かっている からなんだろう。

この旅館が事実上の独裁制であることを、彼ら自身が一番よく理解している。


■ なぜ誰も正面から反対しないのか

環も久則も伸一も、夏美の復職に反対している。

それでも、

  • カツノに対し、正式な反対意見は言わない

  • 裏で「無理だろう」と願う

  • 失敗してくれる前提で話す

という消極的な態度に終始している。

理由は一つ。

決定権が自分たちにないから

この家では、

  • 正論を言う

  • 反対意見を出す

よりも、

  • 大女将の機嫌を損ねない

  • 流れに身を任せる

方が、生存戦略として合理的。

だから彼らは、夏美が失敗することで話が自然消滅するのを待っている

これは逃げでもあるし、同時に、この家で長年生き延びてきた人間の処世術でもある。

■ 環が「夏美には無理」と断言する理由

環がここまで断言できるのは、平治の気難しさを誰よりも身をもって知っているから。

  • 理屈は通じない

  • 気分を害したら終わり

  • 相手が誰であろうと容赦しない

環自身が過去に苦い思いをしてきたからこそ、

夏美の「人の心を動かす力」は、平治には通用しない

と踏んでいる。

今まで通用した夏美のやり方が、

職人という異質な存在には通用しないだろう

という読み。

ここは環なりに、かなり冷静な分析をしている。

■ 夏美が茶釜を持ち帰れたら、何が起きるか

環たちが最も恐れている未来は、これ。

  • 夏美が茶釜を持ち帰る

  • 約束が果たされる

  • カツノが「話を聞く」と言い出す

  • 他の全員が反対しても、修業再開が決まる

つまり、

結果を出した者が正義になる世界

これまで何度も見てきた構図が、また繰り返される。

だからこそ彼らは、

「あり得ない」

「無理に決まっている」

と自分たちに言い聞かせることで、安心しようとしている。

■ この場面の本質

この場面の本質は、

  • 夏美を拒絶しているようで

  • 実は真正面から向き合っていない

という、環一家の弱さ。

彼らは、

✔ 正面から拒む勇気もなく

✔ 受け入れる覚悟もなく

「失敗してくれれば助かる」という他力本願な期待 にすがっている。

そしてその期待の先にあるのが、平治という「絶対に攻略できない壁」。

次の展開は明白。

  • 夏美が失敗すれば → 環一家の思惑通り

  • 夏美が成功すれば → すべてがひっくり返る

この場面は、夏美が“奇跡を起こす側”に戻るのか、それとも現実に跳ね返されるのかその直前の、集団心理を描いた場面だったと思う。


◆【誠意は武器になるのか】平治の工房で突きつけられた現実

夏美は、南部鉄器職人・平治の工房を訪れ、茶会で使う茶釜をいただきたいと頭を下げて頼む。

しかし平治は、

  • 茶釜はすでに捨てた

  • 加賀美屋にはもう二度と作るつもりはない

と、きっぱり拒絶する。

夏美は「もう一度作ってもらえないか」と食い下がるが、平治の答えは変わらない。

それでも夏美は帰ろうとせず、

「作ってもらえるまで帰れない」

と工房に居座る。

平治から何度「帰れ」と言われても、その場を動かず、今日の放送はここで終了した。


個人的感想

まず前提として、伸一が放った「古くさい」という言葉は完全にアウト。

あれは名工である平治のプライドを真正面から踏みにじる一言で、へそを曲げて当然だと思う。

そして、

「もう二度と加賀美屋には作らない」

という平治の判断も、個人的には それでいい と感じた。

平治は雇われではなく、自分の工房を持つ独立した職人。

売るか売らないかは自分で決めていいし、嫌な客に無理に売る義理は一切ない。

たとえ、

  • 大女将カツノが困ろうが

  • 好意を抱いていようが

仕事と感情は別という姿勢を貫いているのは、むしろ職人として筋が通っている。

このドラマは仕事と恋愛、感情の境界線が曖昧な場面が多いからこそ、平治の線引きは際立って見えた。

一方で夏美。

「もう一度作ってください」は百歩譲って分かるとしても、

「私も手伝いますから」

は正直、余計じゃないかと思う。

何の経験もない人間に

「手伝います」

と言われて、邪魔にならない仕事なんてほぼない。

そして何より、夏美は 気持ちさえあれば突破できる と本気で思っている感じがする。

これは簡単には直らないというか、直ってしまったらこのドラマ自体が成立しないのだろう。

平治さん、帰れと言っても帰らないなら、警察呼んでいいと思うよ……。


■ ここで初めて現れた「突破できない壁」

これまでの夏美は、感情・誠意・覚悟 を武器に、結果的にすべて突破してきた。

だから夏美の中では、

本気でぶつかれば、必ず相手の心は動く

という成功体験が積み上がっている。

しかし平治は、このドラマでは珍しいタイプの人物。

  • 感情に流されない

  • 組織に縛られない

  • 恋愛と仕事を切り分ける

  • 自分の「嫌」をはっきり守る

つまり、

夏美の必殺技が効かない相手

だ。

この工房は、夏美がこれまで通用してきた世界とはルールが違うはず…

■ 「居座る」という行動が象徴しているもの

夏美は、

  • 相手の事情

  • 相手の仕事の流れ

  • 相手の拒否

よりも、

自分が女将修業に戻るためには、ここで引けない

を最優先している。

これは、

  • 無謀

  • 自己中心的

とも言えるが、同時に 夏美という人物の核 でもある。

・相手が嫌がっても

・ルールを越えても

・境界線を踏み越えても

「必要だと思ったら突っ込む」

この姿勢が、これまで多くの奇跡を生み、同時に多くの問題も生んできた。

■ 平治は「感情で動く大人」ではない

愛子は感情で揺れた。カツノは覚悟に心を動かした。

でも平治は違う可能性がある。

平治は、

  • 職人としての誇り

  • 自分の仕事への姿勢

  • 客として許せるかどうか

この 基準だけ で判断しているはず。

だから、

  • 土下座

  • 情熱

  • 覚悟

では動かない。

ここが、このシーンの最大の緊張点。

■ 「手伝います」はなぜ地雷なのか

夏美の

「私も手伝いますから」

という言葉は、

  • 善意

  • 協力

  • 覚悟

のつもりで出た言葉。

しかし職人の世界では、

技術も経験もない人間の「手伝う」は、ただの侵入

になりがち。

夏美はまだ、

「自分の強みが通用しない領域」

に対する想像力を持てていない。

■ このシーンが示している次のテーマ

このラストは、

  • 夏美がまた奇跡を起こすのか

  • それとも初めて本当に跳ね返されるのか

その分岐点。

ここで夏美が、

✔ さらに強引に突破する

のか

✔ 自分のやり方を変える

のか

この選択が、女将としての資質が本物かどうか を試す試験になる。

これまでは、

「突っ走ることで道が開けた」

でも今回は、

「突っ走ることで完全に拒絶されている」

ここに初めて、夏美の成長が必要な局面が来た。

■ まとめ

第56回は、夏美が
「誠意さえあれば何とかなる主人公」
で居続けられるのか、

それとも
「誠意だけでは通用しない世界を学ぶ主人公」
に進むのか、

その境界線を示した場面。

平治は敵ではない。むしろ 現実そのもの

次回、夏美がどうやってこの壁に向き合うのかで、この物語が「成長譚」になるか、「奇跡連打ドラマ」に留まるかが決まる。

『どんど晴れ』感想まとめはこちら

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