2025年9月16日放送 第134回
ざっくりあらすじ
-
にぎやかな食卓。 泰輔(前田吟)・富子(佐藤オリエ)が食材を持ち寄り、久々に大勢で夕食。俊継(服部賢悟)は「なんでも食べられる」と前回の反省を口にする。
-
神谷先生、疎開決断。 元気のない泰輔の理由は、神谷先生(役所広司)が札幌に疎開を決めたからだった。数日後、夫婦で挨拶に来て「東京でやることはもうない」と告げる。
-
子どもの約束。 蝶子(古村比呂)が「自分だけ残る」可能性を口にすると、加津子(藤重麻奈美)が「一緒に疎開すると約束した」と詰め寄る。俊継も「お母さんが残るなら僕も残る」と続く。
-
神谷先生の17年。 「東京で私は何をしたんか」と自虐混じりに語るが、蝶子や加津子から「童話を話してくれた」「ありがたかった」と返され、涙ぐむ。
-
童話の継承。 加津子は「大きくなったら童話を話す人になりたい」と夢を語り、神谷先生の目に涙が浮かぶ。
-
最後の別れ。 安乃(貝ますみ)が「これまでありがとうございました」と深々と礼。夫婦は札幌へ発つ。
-
沖縄戦・東京大空襲。 4月1日、沖縄戦開始。5月25日、東京大空襲で千駄木の泰輔宅は全焼。煤だらけで辿り着いた二人を蝶子が迎え入れる。
-
音吉の決断。 「東京はもうダメだ、疎開するしかねえ」と音吉(片岡鶴太郎)が宣言。泰輔と激しく衝突する。
-
強制疎開命令。 区役所の職員が来訪。「6月1日までに疎開してください。これは命令です。」と告げられる。
今日のグッと来たセリフ&場面
# | セリフ/場面 | ワンポイント |
---|---|---|
1 | みさ「そっかい」 | ダジャレ未満の天然。 |
2 | 加津子「疎開のときは一緒って約束したじゃない!」 | 子どもが親を縛る逆契約。 |
3 | 神谷先生「東京で私は何をしたんか」 | 自虐混じりの17年の総括。 |
4 | 蝶子「子どもたちに童話を話してくれました」 | 存在の意味を突き返す感謝。 |
5 | 加津子「大きくなったら童話を話す人になる」 | 未来へつながる継承宣言。 |
6 | 富子「チクショウ!」 | 焼け跡の台所からの叫び。 |
7 | 泰輔「もう住むとこがなくなっちゃった」 | 正気を失う喪失感。 |
8 | 音吉「東京はもうダメだよ、疎開するしかねえ」 | ついに現実を口にする瞬間。 |
9 | 区役所「これは命令です」 | 自治を越えて国家が侵入。 |
私が感じたポイント
-
神谷先生の“17年”に宿る影と光。 自分を「大成せず」と振り返った神谷先生。だが視聴者には分かる——彼がいなければ蝶子も邦子もここまで歩けなかった。童話を語り、悩みに耳を傾け、子どもたちの未来に灯をともしてきた17年だった。本人の自己評価と周囲の評価の落差が痛々しくもあり、だからこそ「ありがとう」という蝶子の言葉や「童話を話す人になりたい」という加津子の宣言が胸を打った。彼の17年は決して空白ではなく、“物語”として次世代に継承されている。
-
疎開の決断の重み。 東京に残るか、北海道へ行くか。蝶子は「要を待つ」という気持ちに縛られながらも、子どもたちは「一緒」という約束を守ってほしいと必死に訴える。安全のための移動と、家族の結束。両方を同時に守ることは難しい現実が突きつけられた。疎開は地図上の移動ではなく、心の地形をどう再編するかの問題でもあった。
-
大空襲の爪痕。 富子の回想は凄惨だった。煙と砂にまみれ、火に追われ、防空壕から逃げ出すしかなかった一夜。泰輔が「家、焼けちゃった」と空元気を装うしかない姿も胸に残る。家が消えるという事実は、戦争が生活を根こそぎ奪うという現実そのものだった。
-
コミュニティの崩壊。 千駄木、洗足、滝川から集まった人々のつながりは戦時下での心の支えだったが、疎開や空襲で次々と分断されていく。音吉が「東京はもうダメだ」と口にし、富子や泰輔も洗足に転がり込む。共同体が壊れていく寂しさと、それでも助け合おうとする力の両方が映し出された。
-
「逃げる」ことの葛藤。 音吉の「疎開するしかねえ」に対して泰輔が「逃げんのか」と噛みつく場面。勇ましい標語を叫んでいた人々が、現実には生き延びるために逃げる。その葛藤は滑稽にも見えるが、人間として自然な感情でもある。戦争が人の正義や一貫性を壊していくことが浮かび上がった。
まとめ——神谷先生の17年は“空白”じゃない
「大成せず」と語った17年は、加津子の夢に変わり、蝶子の支えになり、邦子や安乃の選択を照らした。本人が空虚と感じても、周囲の心に残るものは確かにある。疎開命令が下る前、東京の仲間たちはそのことを言葉にして返した。だから今日の十五分は——本人が無力と感じた年月が、子どもたちの夢に変わるのを見届ける時間だった。