2025年9月12日放送 第131回
ざっくりあらすじ
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帰京の三日間。 滝川を発った蝶子(古村比呂)・泰輔(前田吟)・子どもたちは、青函連絡船を経て汽車で南下。満員の車内で中本喜作(伊奈かっぺい)と隣席になり、いびき・あくび・スルメ——戦時下の移動の空気がぎゅうぎゅうに詰まる。
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リンゴの邂逅。 車内を転がるリンゴ。喜作が自分の畑のリンゴを手渡し、加津子(藤重麻奈美)と俊継(服部賢悟)は頬張る。蝶子は東京の住所を託し、喜作は「腐るほどあるから」と笑う。
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洗足に帰り着く。 三日かけて自宅へ。掃除に来ていた富子(佐藤オリエ)が段取り済み。要不在の間の家の空気が少しずつ戻る。
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“よかったね”の破裂点。 夜、神谷先生(役所広司)・安乃(貝ますみ)に滝川の報告。そこへ邦子(宮崎萬純)。「おじさん、ダメだったって?」「会えたの?」——「うん」→「よかったね」の一往復で、蝶子の涙腺が一気に崩れる。今夜は邦ちゃんがお泊まりに。
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リンゴは約束を越える。 11月末、中本喜作から木箱一杯のリンゴが到着。子どもたちもご近所も歓喜。蝶子は礼状を書き、喜作からまた送るよの返書が届く。
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東京空襲の報。 同時期、11/24 B-29 約80機が東京空襲とのナレーション。サイレンが鳴り響く中、映像は12月に滝川を発つみさ(由紀さおり)の旅路を重ね、受け入れ準備が整うところで幕。
今日のグッと来たセリフ&場面
# | セリフ/場面 | ワンポイント |
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1 | 喜作「リンゴだば腐るほどあるすけ」 | 遠慮を超える厚意。生産者の誇りがにじむ。 |
2 | 加津子&俊継、手割りリンゴを頬張る | 旅の疲れが甘さでほどけるワンカット。 |
3 | 邦子「よかったね」→蝶子、決壊 | 友の最短の言葉が最強の処方箋。 |
4 | 富子とはるが掃除を済ませる | 不在を埋める実務の愛。 |
5 | サイレンとB-29のテロップ | 家の灯りに戦争の影がかかる転調。 |
6 | 予告調ナレ「みささんを迎える準備はおおかた整い…」 | 旅の始まりと終わりが一本の線で結ばれる。 |
私が感じたポイント
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“いびき・あくび・スルメ”の戦時風景。 ぎゅう詰め車内の生活音を小ネタで積むから、リンゴの赤が余計に効く。貴重な甘みは、ただの食べ物ではなく人の温度の受け渡しだった。
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中本喜作=“往復書簡”の起点。 住所交換→木箱→礼状→返書。移動の偶然が継続する関係に育つ設計が見事。戦争が距離を広げる時代に、果物二箱が距離を縮める。
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「義兄さんは俺に憧れてた」と言えたのに言わない。自慢を飲み込み「言わぬが花」で蓋。語らないことで二人だけの時間を守る——泰輔の粋は沈黙にあった。
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親は時に間違う、それでも向き合えば分かり合える——そう言い切る蝶子に、神谷先生の「そうかい」は、教師の評価ではなく喪失をくぐった大人の頷きとして返ってきた。父の死が、教え子をひとつ先へ運んだ瞬間。
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「よかったね」の力学。 「会えた?」の問いと「うん」の返事。そこで言葉は打ち止めにして、邦ちゃんは“評価のない肯定”だけを置く。皆の前で泣けなかった蝶子が自分に戻れる相手は、やっぱり親友だった。
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邦ちゃんの「今夜、泊めてね」に、蝶子が返したのは「いいよ」ではなく「お願い」。受け入れではなく救援要請。強がりの看板をそっと下ろして、親友の腕の中で子どもに戻れる夜になった。
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“実務の愛”のリレー。 富子の掃除、音吉夫妻の気配り、神谷&安乃の気遣い。東京の生活圏が受け皿に戻るのが心強い。12月にやって来る“みさ受け入れ”の地ならしが着々と進む。
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甘みと爆音のクロス。 木箱のリンゴの香りと、B-29の轟音。家庭の嬉しい出来事のすぐ隣に空襲が来る構図は、戦時の暮らしが同時進行であることを鮮烈に伝えていた。
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今日の“個人的主役”は二人。
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中本喜作:一度の車内邂逅を持続的な助けに変える快男児。リンゴ農家の矜持がかっこいい。
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邦ちゃん:四文字で友を救う人。「よかったね」以外を言わない勇気が尊かった。
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用語メモ(さっとおさらい)
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B-29:アメリカの長距離爆撃機。1944年11月24日、マリアナ諸島の基地から発進した編隊が東京を空襲。この日から空襲が本格化。劇中でも「およそ80機」と示される。
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青函連絡船:青森—函館間を結んだ連絡航路。北海道本島と本州を結ぶ旅客・貨物の大動脈(当時)。
まとめ——甘さは届き、言葉は削られる
汽車のいびき、青森のリンゴ、洗足の掃除、そして四文字の「よかったね」。届くものは確かに届く。一方で、空襲サイレンは余計な言葉を削る。だからこそ、人の厚意と短い言葉が光る十五分だった。
次は——みさの上京と同居の始動。滝川の“恩”を東京でどう受け継ぐか。リンゴの木箱のような小さな往復を、暮らしの芯に置けるかが鍵になりそうだ。