2025年9月11日放送 第130回
ざっくりあらすじ
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承継決定。 北山医院は俊道の甥・三代治(山本亘)に引き継がれることが正式に。三代治は一度仙台へ戻り開業準備へ。「なかなかいい人だ」「滝川でもやっていける」と家族は安堵する。
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看板の前で。 みさ(由紀さおり)は「外さないとね」と静かに告げ、蝶子(古村比呂)は看板にそっと手を這わせる。泰輔(前田吟)は「名前このままじゃダメ?」と未練を漏らすが、みさは「三代治さんは三代治さんの名前で」と前を向く。
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東京行きの宣言。 みさが滝川を離れ東京へ行く決意を、嘉市(レオナルド熊)・品子(大滝久美)・たみ(立原ちえみ)に報告。三人は全力で反対——「線路外してでも行かせねぇ」「空知川の鉄橋落とすんでない!?」と大荒れ。新キャラ“木島寅夫”の名まで飛び出す(妙に説得力のある“伝説枠”)。
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説得の切り札。 蝶子は“情景を具体に描く”得意技で『一人』の時間割を語る——夕方、皆が帰った後の食事、風呂、布団、眠れぬ夜、満州の道郎と出征中の俊介、そして俊道を思い出して布団の中で泣く母……。
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初雪と別れ。 子どもたちが「雪だ!」と駆け込み、滝川は初雪。蝶子は自室と診察室に別れを告げ、聴診器を見つめて声にならない「さようなら」。
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“風よ吹け”。 箱から出てきた北山蝶子の自作詩「風よ吹け」を読み返す。雪を“希望”と呼ぶ幼い祈りに、今日の初雪が重なる。
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出立の玄関。 「最後みたいなこと言わないでや!」と泣く品子・たみ、気丈に段取りを整える嘉市。蝶子は「住み慣れた我が家との決別の日でした」とのナレーションに送られて滝川を発つ。
今日のグッと来たセリフ&場面
# | セリフ/場面 | ワンポイント |
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1 | みさ「三代治さんは三代治さんの名前で」 | 看板を外すのは忘却じゃなく更新。 |
2 | 嘉市「滝川だ! 世話になった人が100や200じゃない!」 | まちの負債ではなく恩の総量の話。 |
3 | たみ&品子「線路外す/鉄橋落とすんでない!?」 | 過激な妄想が愛の物差しを見せる。 |
4 | 蝶子の“一人の時間割”モノローグ | 反論を封じる具体の力。 |
5 | 蝶子、診察室で声にならない『さようなら』 | 字幕にも出ない別れがいちばん響く。 |
6 | 詩「風よ吹け」の一節 | 雪=希望。初雪が詩と現在を接続。 |
7 | 泰輔「このままじゃダメ?」 | 看板=記憶を残したい視聴者代表の迷い。 |
8 | 新名固有名詞:木島寅夫 | 一度の名指しで伝説化する名。 |
私が感じたポイント
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“看板を外す”=断絶ではなく継承の設計。 北山の名を残さない選択は冷たく見えて、実は地域医療の連続性を守る作法。三代治の看板が掛かる時、北山の記憶は建物と人の中に残る。
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まちの“恩”が可視化された回。 嘉市・品子・たみのオーバーリアクションは笑いを誘いつつ、実は医者夫婦が街にもたらした時間の総和を示す。線路も鉄橋も冗談で、本音は「一人にしない」。
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チョッちゃんの“情景説得術”。 「夕方に皆が帰る」「作ってくれた晩ごはんを一人で」——名詞と動詞の羅列で胸をつかむ。抽象語(孤独)を使わず、暮らしの手触りで語るから納得が生まれた。
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俊介の所在、言葉で回収。 蝶子の「戦地へ」の一言で、葬儀に来ない不在の理由が一本の線でつながった。モヤモヤは解けたけれど、祈る相手が一人増えた。
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“風よ吹け”が今日の天気と韻を踏む。 雪を“希望”と呼べた娘時代の蝶子。その詩を今、初雪の日に読み返す脚本の美学。凍る季節に次の春へ向く意志を置いていく。
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声にならない別れの儀式。 自室と診察室の目視チェック→触れる→さよなら。演出は最小限、でも儀式としては十分。失ってからではなく、去る前に自分で区切ることの尊さ。
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今日の“個人的主役”は木島寅夫。 姿も出ないのに一発で人物相が立つ名指し芸。滝川の人間関係の厚みを一言で感じさせた。
データメモ——1944(昭和19)年の滝川の人口は?
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28,942人(1944年2月22日臨時人口調査)。
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参考:1940(昭和15)年=23,495人/1947(昭和22)年=35,325人(国勢調査)。
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※統計は現在の市域に組み替えた数値。戦時下の移動・軍需増で40年代に一段膨らむ推移が見える。
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嘉市さんの「100や200人」は、当時の人口に対しておよそ0.3~0.7%に相当。町の規模からして“北山先生に世話になった人が大勢いる”という感覚、かなりリアルですね。でも本当は200人でもきかないくらいにもっといそう。
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参考対比(現代北海道で一番人口の多い札幌市で考えたとしたら)
札幌市の最新推計人口(令和7年8月1日現在)1,967,952人に同率を当てはめると、0.3~0.7%=約5,904~13,776人(中央値0.5%=約9,840人)。
→ “100~200人”という規模感が、今の大都市に置き換えると1万人前後に相当。どれだけ大きな「恩の総量」だったかが直感できます。
少なくとも私には、同じ市町村に住む0.3~0.7%の人に恩を感じてもらうことは不可能だなと分かりました。
用語メモ(さっとおさらい)
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初雪:その年に初めて降る雪。北海道の初雪は心理の区切りとしてもしばしば演出に用いられる。
まとめ——『一人』を減らす配置へ
看板の行方、住まいの別れ、初雪の冷たさ。今日の十五分は、去る人(みさ)と来る人(三代治)の線を引き直し、蝶子は『一人』という状態の具体を提示して皆を同じ方向に向かせた。滝川で積み上げられた恩は、反対運動の冗談にまでふくらむほど大きい。だからこそ、別れは悲しみで終わらず、次の生活の配置へと続いていく——そんな回でした。
あなたなら、親を『一人』にしないために——どんな“具体”を一日の中に置きますか?