2025年9月10日放送 第129回
ざっくりあらすじ
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俊道死去から三日。 俊道(佐藤慶)の墓参から戻った北山家。みさ(由紀さおり)は、約束したはずの嘉市(レオナルド熊)が来ないのを気にかける。蝶子(古村比呂)は「おじさん、墓を見たくなかったんじゃない?」と胸の内を代弁。
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嘉市の嗚咽。 加津子(藤重麻奈美)が呼ぶ先の部屋で、嘉市が声を詰まらせて泣いている。「口ゲンカする相手がいなくなって、何を張り合いに生きればいい?」。みさも涙でうなずく。
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尺八の形見分け。 みさは俊道の大切にしていた尺八を嘉市へ託す。「だからこそ、嘉市さんに」。嘉市は静かに受け取る。
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みさ、東京へ—— 夜、泰輔(前田吟)と蝶子は、何もできないまま一人になるみさを案じて東京行きを提案。「したら…そうする」とみさは承知。
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家のゆくえ。 みさは弔問に訪れた甥・三代治(山本亘)に「滝川でやらないかい?」と打診。三代治は俊道からの手紙を示す——10月20日付、自らの病状と、北山医院の承継を願う文面。
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決まっていく段取り。 「みなさんさえよろしければ」。三代治は開業を引き受け、北山の家と医院は彼へ。蝶子と泰輔は「ひょっとして義兄さん、死期を知ってたんでないか」と語り合い、みさも静かに「そうだね。お父さん、医者だもね」と応じる。
今日のグッと来たセリフ&場面
# | セリフ/場面 | ワンポイント |
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1 | 嘉市「口ゲンカする相手いなくなって、何ば張り合いに…」 | 友の喪失を“張り合い”で言い表す、男の正直。 |
2 | みさ→嘉市へ尺八を手渡す | 大切にしていた物だからこそ託す。形見分けの“逆説の温かさ”。 |
3 | 泰輔「姉さん一人にさせられないんだよ!」 | 甲斐性でも叱咤でもなく、同居を申し出る愛。 |
4 | 蝶子「うちには孫もいる」→みさ「したら…そうする」 | 残される人の“次の住所”が決まる瞬間。 |
5 | みさ→三代治「この家、もらってくれないかい?」 | 他人より身内へ——家の記憶を守る提案。 |
6 | 三代治、10/20付の手紙を示す | 『平癒してもただ延命の余生』——医者の父の冷静な自己診断。 |
7 | 手紙住所の一節「滝川町一ノ坂」 | 画面外の地理と、私のロケ地巡りの記憶(チョッちゃん坂)がつながる快感。 |
8 | 泰輔「義兄さん、知ってたんじゃない?」→みさ「医者だもね」 | 悲しみの上に、納得という小さな足場ができる。 |
私が感じたポイント
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嘉市の涙は“墓参り不参加”の答え。 墓に行けなかったのは、受け入れたくなかったから。案内役としてようやくお墓に向かえたのも、三代治の「行きたい」という一言があったからこそ。嘉市がやっと同じ方向を向けた瞬間だった。
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尺八という“時間の遺産”。 ただの物ではなく、音の記憶が染み込んだ道具。嘉市が手にした瞬間、滝川の冬の息、馬そりの鈴、川べりの風まで立ちのぼる——そう思わせる形見分けの力。
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みさの東京行きは“安心の設計”。 できない家事の羅列ではなく、「娘と弟のそばへ」という配置の現実解。俊道が最後に案じた「みさの行く末」に、家族全員で答えを出した回だ。
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家と医院を“他人に売らない”英断。 三代治への承継は、地域医療の連続性を守る選択。看板は残り、記憶は更新される。滝川を去る人(みさ)と来る人(三代治)が一本の線でつながった。
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手紙という段取り表。 10月20日付の手紙は、俊道の冷静な自己診断と次善の策の提示。『平癒』という語の硬さに、覚悟の温度を感じた。結果として、みさの願いとピタリ噛み合うのが泣ける。
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“滝川町一ノ坂”という固有名詞の幸福。 画面の向こうの具体的な地名が、私の足跡(ロケ巡りの“チョッちゃん坂”)と直結する快感。物語と現実が相互に照らす瞬間が尊い。
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去る人/来る人、それぞれの物語。 みさは思い出の密度が最も濃い町を離れる決断を、三代治は知らない土地で医を開く決断をした。どちらも簡単ではない。だからこそ、「人の数だけ物語がある」と思わずにはいられない。
用語メモ(さっとおさらい)
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平癒(へいゆ):病気やけががすっかり治って健康な状態に戻ること。医療文書では完治に近い語感で用いられるが、病気の性質によっては経過観察を含むことも。
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形見分け:故人が生前に愛用した品を、親族・友人に分け与える習俗。物の所有を移すだけでなく、記憶と時間を託す意味合いが強い。
まとめ——“家の行き先”が決まると、人は少し前を向ける
嘉市の嗚咽、尺八の手触り、東京行きの決断、そして三代治の承継。去る段取りと残す段取りが一つずつ決まり、悲しみの只中にも生活の線が引かれた。俊道が願ったのは、家族が迷わないこと。その願いどおり、今日の十五分で地図が描かれた。
あなたなら——大切な人のあとを継ぐか、別の地で新しく始めるか。“家の行き先”を決めるとしたら、どんな線を引きますか?