朝ドラ再放送「チョッちゃん」第127回感想 滝川の病床で交わる声——『聞く耳持たん』が返ってきた夜

朝ドラ

2025年9月8日放送 第127回


ざっくりあらすじ

  • 11月半ば・滝川へ。 俊道(佐藤慶)危篤の報を受け、蝶子(古村比呂)は泰輔(前田吟)・加津子(藤重麻奈美)・俊継(服部賢悟)と帰郷。往診の中川の見立ては「危篤は一度脱したが、予断を許さない」。

  • 病名は“すい臓がん”。 みさ(由紀さおり)は夏前からの不調を明かし、俊道の意向で“知らせるな”としてきたことを告白。蝶子は怒りと悲しみを噛みしめる。

  • 家を支える人たち。 石沢嘉市(レオナルド熊)と品子(大滝久美)、たみ(立原ちえみ)が見舞い。戦地の夫たちの便りがない現実に、女たちのため息が重なる。

  • 孫の声が、滝川に灯を点す。 加津子が俊継に絵本を読み聞かせていると、俊道が「蝶子?」とつぶやいて覚醒。加津子・俊継が到着の旨を伝えると、俊道は「母さんに、目が覚めたって言ってきてくれ」と頼む。

  • 父と娘の短い対話。 俊道は雅紀の死を悼み、要(世良公則)の安否を気にかける。「親の不注意じゃない、いつまでもしょげるんでない」と、いつもの調子で娘を励ます。

  • 弱音と、返歌。 「もう長くはない」と初めて口にした俊道に、蝶子は「あたしは聞く耳持たんから!」と、かつて父が口癖にした言葉で応じる——ナレーションが、悲しみと可笑しみが同居する瞬間をそっと拾って幕。


今日のグッと来たセリフ&場面

# セリフ/場面 ワンポイント
1 みさ、病名は「…スイ臓がん 秘密にしていた“名”が出た時、部屋の温度が一段下がる。
2 蝶子「なして知らせてくれなかったんさ! 怒りは愛の裏返し。母への矢印であり、父への矢印でもある。
3 俊道「わざわざ来たんかい。大げさなことして」 いつも通りに振る舞うことで、家族を安心させたい頑固者の作法。
4 俊道「雅紀は残念なことした…」「敗血症か…」 言葉少なに受け止め直す医者の父。遠い東京の現実が滝川で再燃。
5 石沢嘉市「少々のことで、くたばる先生じゃない 古馴染みの大声援。方言がそのままお守りになる。
6 蝶子「聞く耳持たんから!」 口癖のバトン。親子の歴史が一行で往復する名シーン。

私が感じたポイント

  • “知らせない優しさ”の是非。 俊道は、雅紀の死と要の出征で手一杯の蝶子を案じて黙した。結果、知らせを受けた側は“間に合わないかもしれない”恐怖を抱える。守るための沈黙支度するための情報——どちらが正解かは簡単に決められない。

  • 孫の声が治療になる。 俊道が最初に呼んだのが「蝶子」だったのは、加津子の影に幼い娘時代の蝶子を見たから。読み聞かせ=生のリズムが、俊道の時間をほんの少し日常へ引き戻す。

  • “医者の父”と“父の医者”。 「敗血症か…」と症例名で受け止める一瞬に“医者の言語”がのぞき、その直後に「いつまでもしょげるんでない」と“父の言語”に切り替わる。この振幅が、俊道そのものだ。

  • 『聞く耳持たん』の逆転が泣けて笑える。 弱音を吐いた父に、娘がかつての口癖を投げ返す。言葉は家族の遺産で、時に護符にもなる。ここまで積み上げた親子史が一行で立ち上がった。

  • 中川先生の立ち位置。 クレジット表記に「医師」となくても、往診医としての安心材料を的確に置く。広大な滝川で“俊道だけが町医者”でないことが、最期を前にした支える網の厚みを感じさせた。

  • レオナルド熊の北海道弁は、やっぱり“風景”だ。 何度も書いてしまうが、石沢嘉市の「石沢でした」からこぼれる音が、子どもの頃あちこちにいた“あのおじさんたち”を連れ戻す。方言=土地の温度を改めて実感。


用語メモ(さっとおさらい)

  • 危篤(きとく):病状が極めて重く、いつ容体が急変してもおかしくない状態のこと。必ずしも“すぐに亡くなる”を意味しないが、家族への連絡が優先される段階。

  • すい臓がん:すい臓に発生する悪性腫瘍の総称。自覚症状が出にくいことで知られ、発見が遅れることがある。劇中では病名が“家族に伏せられていた”ことが焦点。


まとめ——弱音を受け取る勇気

俊道は初めて「もう長くはない」と言い、蝶子は「聞く耳持たん」と返した。弱音を言える関係と、受け取っても折れない関係。この一往復が、滝川の家族の強さだった。

戦地の要からの便りは少ない。東京の家も揺れている。それでも、滝川に響く孫の声と、方言まじりの茶飲み話が、今夜の灯りを守っていた。次回、この灯りをどこまで運べるだろう。

『チョッちゃん』感想まとめはこちら

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