2025年9月6日放送 第126回
ざっくりあらすじ
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十一月。 岩崎家の菜園が大収穫。蝶子(古村比呂)・加津子(藤重麻奈美)・俊継(服部賢悟)が歓声を上げると、お向かいのはる(曽川留三子)が回覧板ついでにひと言——「十五日に防空壕作りだって」。
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そこへ邦子(宮崎萬純)が小麦粉と砂糖、かぼちゃを背負って登場。「作るならドーナツ!」。はるの鶏の卵一個が宝物みたいに場を明るくする。
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捏ねる・混ぜる・笑う。道産子2人+はる(蝶子×邦子×はる)の女学校みたいな賑わいに、音吉(片岡鶴太郎)も吸い寄せられ、子ども用バイオリンを“こっそり”試奏しては大照れ。
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そこへ連平(春風亭小朝)。机に召集令状をドン。「箸より重いもの持ったことない」弱音と、「舞扇で見送って新内のつま弾きで送りたい」場違いな夢想で皆を苦笑させる。
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千駄木では泰輔(前田吟)・富子(佐藤オリエ)・神谷(役所広司)らが連平を励ます。「生きて帰れ」の声に、強がりで「幽霊になって化けて出る」なんて言いながら、最後は小さく「死にたくねえなあ」。
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洗足に戻ると、要(世良公則)から軍事郵便。南方か北方かは伏せられつつも「洗濯も裁縫も、あなた様のご指導にてつつがなく」と達者ぶりを知らせる。
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ところが蝶子は悪夢を見る——銃声、砂煙、倒れる要。「蝶子!」。汗に濡れた額で飛び起きたその後、千駄木の電話が鳴る。受話器の向こう、滝川から『俊道(佐藤慶)が危篤』の一報。蝶子・加津子・俊継・泰輔は夜行で北へ。
今日のグッと来たセリフ&場面
# | セリフ/場面 | ワンポイント |
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1 | 蝶子×邦子「一個でもね、卵入りには違いない」 | たった一個の卵が、戦時の台所を祝祭に変える。 |
2 | 音吉、子どもバイオリンに「おお、出るね出るね」 | 近所のオジサン、少年に戻る瞬間の無邪気さ。 |
3 | 連平「舞扇で見送って、新内のつま弾きで……」 | 不安を冗談で包むカラ元気。笑いの膜の薄さが怖い。 |
4 | 富子「生きて帰ってきなさい」 | 儀礼の『万歳』より強い、女の直球。 |
5 | 要からの手紙「つつがなく励んでおります」 | 平仮名の温度で届く、遠い人の体温。 |
6 | 蝶子の悪夢→電話「危篤」 | ほんの数分で笑い→恐怖→出立。心拍が跳ねた。 |
私が感じたポイント
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“女子会”が戦時の空気穴。 小麦粉と砂糖、かぼちゃ、そして卵一個。材料不足を工夫とおしゃべりで乗り切る三人の台所は、立派な避難所だった。ここだけ温度が二度高い。
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音吉の「初めての音」に胸がほどけた。 子ども用バイオリンを手にしたときの顔! 毎日“本物の音”を浴び続けてきたからこその無邪気な好奇心。変な音を咎めるはるのツッコミも含め、 家の向かいにある“オーケストラ席”の楽しみ方が、今日も微笑ましい。
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連平のカラ元気=恐怖の裏返し。 「舞扇」だ「新内」だと江戸前の冗談で気を紛らせても、最後の「死にたくねえ」が本音。「おめでとう」と告げられて戦地へ出る時代の残酷さが、細い声に集約された。
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手紙の言い回しが“逆翻訳”を迫る。 「つつがなく」は無事の符牒だけど、行間が広い。蝶子の悪夢は根拠なき妄想じゃなく、その行間を埋める身体の警報だと思う。
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ラスト一分の落差に持っていかれた。 ドーナツの油が揺れていた台所から、夜汽車の汽笛へ。十五分の中で、平和の手触り→召集→悪夢→危篤まで振り切る構成に、胸の置き場がなくなる。だからこそ、明日の滝川行きが怖い。
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ドーナツの行方と“二人の泰輔”。 まず、ドーナツはちゃんと上手くできたのかがずっと気になる(こういう日こそ、揚げたての甘さは救い)。そして泰輔——川谷拓三さん期の頼りなさが愛おしい一方で、上野から滝川まで夜行で付き添う泰輔(前田吟)には心底助けられた。こんな状況だからこそ、「そばにいてくれる大人」の体温がありがたい。
用語メモ(さっとおさらい)
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舞扇(まいせん):舞踊で用いる扇。紙や布を貼った大ぶりの扇で、所作の見せ場を作る小道具。連平の「舞扇で見送り」は、色香と晴れやかさをまとわせたいという場違いな妄想ゆえの冗談。
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新内(しんない)のつま弾き:三味線音楽の一流派「新内節」を、唄少なめに三味線を爪弾く趣向で聴かせるもの。しっとり哀切。出征の場にふさわしいかはともかく、連平の“江戸の粋”アピール。
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軍事郵便:戦地・軍属からの郵便。検閲を経るため、地名や部隊名は伏字・婉曲が常。だから手紙はどうしても型通りの無事報告になりやすい。
まとめ——笑って、揚げて、泣いて、走る
卵一個で膨らむドーナツみたいに、家の空気は一度ふくらんだ。けれど次の瞬間、赤紙と危篤が空気を一気にしぼませる。戦時の暮らしは、幸福と恐怖が同じ鍋でぐつぐつ煮えているのだと突きつけられた十五分。どうか滝川に着くまで、悪い知らせが増えませんように。
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