2025年9月3日放送 第123回
ざっくりあらすじ
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一週間後。 雅紀の死から七日。蝶子(古村比呂)は遺品を前に「忘れるには捨てた方がいい」とつぶやくが、要(世良公則)は「捨てたって忘れられるわけじゃない。このままでいい」と静かに返す。「見るたびに泣くかも」と不安を漏らす蝶子へ、「……ま、泣いてもいいさ」。
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だるま貯金箱から鳴る小銭の音。「何を買うつもりだったろう」と要。メンコ、ボール……雅紀の一個一個に触れながら、二人は一週間分の涙をゆっくり解凍していく。
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二か月後。 炎暑の九月。お向かいの音吉(片岡鶴太郎)とはる(曽川留三子)が「最近、旦那のバイオリンが明るい」と声をかける。要は演奏会で手応えがあり、家の空気も少しずつ立ち直りの温度へ。
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そこに区役所の使いが玄関へ。「おめでとうございます。」。紙一枚が、回復し始めた時間を一気に別章へ投げ込む。
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千駄木から滝川へ電話。報を受けたみさ(由紀さおり)は俊道(佐藤慶)に伝えるが、俊道は食べ残しと背中の痛み、そして「水一杯」を頼む弱り方。みさは不安を隠しきれない。
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洗足の家に皆が集まり、要の出征前夜の宴。泰輔(前田吟)/富子(佐藤オリエ)/神谷(役所広司)/連平(春風亭小朝)/安乃(貝ますみ)/邦子(宮崎萬純)/、そしてお向かいも総動員で「あとのことは任せて」と支える。富子は「男たちがいなくなったら女同士でしのぐ」と宣言。
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連平の促しで、加津子(藤重麻奈美)が昔、自分で作詞し要が曲を付けた歌を歌う。ナレーションが静かに落ちる——「要さんは、いったいどんな気持ちで聴いていたのでしょうか」。
今日のグッと来たセリフ&場面
# | セリフ/場面 | ワンポイント |
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1 | 要「捨てたって忘れられるわけない」 「……泣いてもいいさ」 | 喪の“正解”は一つじゃない。二人の答えがやさしい。 |
2 | だるま貯金箱のコトン | もう使われない未来の音——でも、今は家をあたためる音。 |
3 | 音吉「今日のバイオリン、明るいよ」 | ご近所が聴診器。回復の兆しはまず音で伝わる。 |
4 | 区役所「おめでとうございます」→召集令状 | 祝詞の皮をかぶった悲痛な通達。言葉の温度差に震えた。 |
5 | 富子「女同士、手を取り合って」 | いなくなる男の前で、残る側の覚悟を真っ直ぐに。 |
6 | 俊道「ワシも医者だ」→みさ「産婦人科でしょや」 | 夫婦漫才の陰で光る体調不安の赤信号。 |
7 | 要「明日、妻と子を残して——」一礼 | 父として、夫として、言葉の限界まで言った。 |
8 | 加津子の歌(詞:加津子/曲:要) | 家族史に折り畳んで持っていく、小さな国歌。 |
私が感じたポイント
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遺す/捨てるの“二択”をやめる勇気。 取っておく=過去に縛られる、捨てる=前に進める、ではない。要の「このままでいい」は、悲しみと一緒に暮らすテクニックの宣言に聞こえた。要の「泣いてもいい」で、その暮らし方に合意が生まれる。
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雅紀が「それでもバイオリンを」と願った重さ。 蝶子が「無理を言わない子」と評したからこそ、あの一言は別格。バイオリンは“課題”ではなく“宝物/相棒”。そばに置く=生きる手ざわりだったのだと腑に落ちた。
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音は喪の終わりを告げる灯。 「明るい音色」と他者に言ってもらえた瞬間、家の回復は自他ともに確定する。葬式の終わりではなく、日常の再始動を音が告げるのがこの家らしい。
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音吉は、最前列のリスナーだった。 要の“本物の音”を毎日かぶりつきで聴くうちに、音吉にも〈いい音を聴き分ける耳〉が育っていたのだと思う。家の外に漏れるバイオリンは、騒音にも贅沢な生演奏にもなりうる——受け取り方ひとつ。かつて意見の衝突はあったけれど、それを脇に置いて良好なご近所を続けてくれた音吉夫妻に、ただ感謝。
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“おめでとうございます”の残酷。 召集令状の手渡しが儀礼化した結果、言葉が人間から離れる。
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“淡々”の下は溶鉱炉。 富子の推測通り、子どもを連れて回るのは自分の怒りを抑えるための仕掛けだ。要は父になってから、感情を手筈で抑え込む術を学んだ。だから余計に胸が痛い。
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俊道の体調、要注意。 腹・背中・食欲・体重——ファンとしては不安材料が積み上がっている。強がりの「ワシも医者だ」を笑って済ませず、次回以降も小さなサインを拾っていきたい。
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残る人の連帯が、出征者の背を支える。 富子の宣言、音吉の胸張り、安乃・神谷の実務力——銃後チームの布陣が一夜で組まれた。戦時下の希望は、たいてい“静かな準備”として立ち上がる。
まとめ——喪が終わる前に、時代が襟首をつかむ
遺品の手ざわりがまだ温かいのに、玄関先の通達は容赦がない。一枚の紙が、家族の時間を次の章へ繰り上げた。要が明日持っていくのは軍靴だけじゃない。家族の歌、みんなの手、雅紀の記憶だ。
あなたなら——別れの前夜、何を持っていき、何を置いていきますか?