2025年9月2日放送 第122回
ざっくりあらすじ
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雅紀(相原千興)の容体はさらに悪化。黒木医師(大門正明)は「最後まで諦めちゃいけません」とだけ告げるが、要(世良公則)と蝶子(古村比呂)が「助かる望み」を問うても、言葉は濁る。
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蝶子は「家に連れて帰りたい」と決断。黒木が静かに了承した瞬間、二人は“その先”を悟る。退院の報に、泰輔(前田吟)や、お向かいの音吉(片岡鶴太郎)・はる(曽川留三子)も一時は安堵する。
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しかし泰輔は病院へ乗り込み、黒木に噛みつく。「治ってもいないのに退院だなんて、“さじ投げた”ってことじゃねえか!」「九分九厘ダメでも、一厘の望みは持つだろ!」——医師の誠実さと身内の祈りが正面衝突する。
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洗足の自宅。眠る雅紀のうわごとに、学校や友達の気配が混じる。目を開けた雅紀は要へ「怒ったりしてたの、ちっとも恨んでないよ」と告げ、要は「アイスクリーム、好きだったな」と銀座へ走る。
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夕刻。岩崎家の座敷で、家族みんなでアイスを一口ずつ。虫の声に「虫のオーケストラみたい」と微笑む雅紀。二口目を含んで「…ああ、おいしかった」——そのまま静かに、九歳の旅立ちを迎える。
今日のグッと来たセリフ&場面
# | セリフ/場面 | ワンポイント |
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1 | 要「助かる望みは?」→黒木「最後まで諦めちゃいけません」の反復 | Yes/Noを求める家族と言い切れない医師、その距離。 |
2 | 蝶子「家に連れて帰ります」 | 希望ではなく覚悟の“退院”。言葉の重さが違う。 |
3 | 泰輔→黒木の噴出「九分九厘でも、一厘の望みは持つ」 | 誠実は時に刃。医師と身内、それぞれの正しさ。 |
4 | 雅紀「お父さんをちっとも恨んでないよ」 | “厳しさ”が“愛”に翻訳されていた証明。父子の関係が救われた、一行の赦し。 |
5 | 「虫のオーケストラ」 | 音楽の子が最後に聴いた“編成”。季節外れの虫が奏でる鎮魂。最後のコンサートは、庭先から。 |
6 | 要「東京がなきゃ横浜だ」→銀座のアイス | 走る父の祈りが、溶けないうちに届く。 |
7 | 「…ああ、おいしかった」 | 口福の余韻を遺して、静かに幕。 |
私が感じたポイント
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言えない/言ってほしいの断層。黒木(大門正明)は希望を残しつつ嘘をつかない。要(世良公則)と蝶子(古村比呂)は真実を求めつつも、どこかで奇跡の言葉を待っている。両者の“正しさ”が噛み合わない時間の冷たさに、医療ドラマ以上の体温差を見ました。
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“退院”という別の言葉。 今日の退院は回復の証ではなく、最期を家で迎える決心。泰輔(前田吟)の叫びは、誠実な説明が却って家族を突き放すことがあるという逆説を突きつけます。
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子どもの側からの赦し。 雅紀(相原千興)の「恨んでないよ」で、要の教育は受難ではなく遺すための時間として回収された。楽器をそばに置く/置かないの葛藤も、ここで静かに決着。最期に父を軽くする一言を選べた、この子の気高さに胸が詰まりました。
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音の演出が胸を掴む。 虫の声=世界最小のオーケストラ。戦時・停電・物不足の中でも、音は届く。最後の鑑賞者は、雅紀だった。
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氷菓という儀式。 白いアイスを家族で分ける行為は、短い祈りであり、さよならの段取りでもあった。甘さが痛みを包む——ドラマが選んだ最期の作法に納得しました。
まとめ——“おいしかった”で終わる物語
「望みだけは…」の先で、言葉ではなく小さな口福が一家をつないだ夜。父が走り、母が支え、子が赦し、虫が鳴く。誰も取り繕わないまま、綺麗に終わった。
——どうか、残された人たちの時間が、いつかまた音を取り戻しますように。