2025年8月21日放送 第112回
ざっくりあらすじ
-
〈泉〉最終営業日。店主・泰輔(前田吟)の挨拶で開宴。今日は閉店記念+加津子(椎野愛)の快気祝いのダブル名目、倉庫の在庫も総放出でパーッとやろう、の方針。
-
黒木医師(大門正明)&看護婦・たま(もたいまさこ)も参加。頼介(杉本哲太)は軍服姿、加津子はそのポケットが気になって仕方ない。
-
連平(春風亭小朝)に、たまがぐいぐい距離を詰める。かつての口喧嘩を水に流し、住所交換まで押し切り「お金に困ったら言って。私、お金だけはあるの」。
-
蝶子(古村比呂)は邦子(宮崎萬純)の結婚の報を会場で発表しようと提案→泰輔がスピーチで発表。神谷(役所広司)は笑顔で拍手、連平は沈没。安乃(貝ますみ)は複雑な表情で神谷を見つめる。
-
そこへ老人と大日本国防婦人會の女性が乱入。「戦時に遊興とは不謹慎」と糾弾して退去。場の空気は一変。
-
音吉(片岡鶴太郎)&夢助(金原亭小駒)の耐乏肯定と、連平&要(世良公則)の文化擁護が正面衝突。頼介は軍人として「挙国一致・忍ぶべき時」と主張、要は「演奏会場までぶんどるな」と反発。
-
泉が静まったあと、要が『蛍の光』を奏でる。回想が重なり、昭和16年9月、〈泉〉は幕を閉じた。
今日のグッと来たセリフ&場面
# | セリフ/場面 | ワンポイント |
---|---|---|
1 | 泰輔「今日は倉庫の物、全部出したから」 | 背伸びの景気づけに店主の矜持。 |
2 | たま→連平「困ったら用立てるから。私、お金だけはあるの」 | まさかの積極策。看護婦さん、頼もしすぎ。 |
3 | 泰輔「おめでたい話がある」→邦子の結婚発表 | 祝福と動揺が同時に波紋を広げる。 |
4 | 老人と国防婦人會「日本人なら恥を知りなさい!」 | “ご時勢”が店内にまで土足で入ってくる瞬間。 |
5 | 要「演奏会ぐらいやらせてもらいたいよ。会場までぶんどるんだ」 | 芸の居場所を奪われた叫び。 |
6 | 安乃「…私、兄ちゃん、嫌いです」→神谷「なんも、頼介君が間違ってるわけではない」 | 兄妹の断絶に、恩師が寄り添う言葉。 |
7 | 連平「布袋様がいらしたのかと思った」→(※鍾馗様じゃなくてよかった) | ※鍾馗(しょうき)=魔除けの鬼神。怖い顔で妖を退ける神像/一方、布袋は七福神の福徳の神。対比で笑いが立つ。 |
8 | 要のバイオリンで『蛍の光』 | 灯りの記憶が一本ずつ消えていくようで、胸がきゅっとなる。 |
私が感じたポイント
-
〈泉〉=“第三の場所”の大団円。 7年分の笑いと涙が一晩に凝縮。最後に残ったのは、誰が正しいかではなく「ここで出会えた」という事実。要の『蛍の光』は閉店の儀式として完璧でした(閉店BGM=『蛍の光』の由来は諸説ありますが、この場面に勝る使い方はない)。
-
四者四様の“ご時勢観”。
-
音吉&夢助:耐乏肯定(勝つために耐える)。
-
連平:贅沢は素敵だ派(人間の自由を守りたい)。
-
要:文化労働の尊厳(仕事場を奪うな)。
-
頼介:国家存立優先(挙国一致・忍耐)。 同じテーブルでも立場が違えば正しさが変わる。そのズレが、店という“緩衝地帯”をも飲み込むほどに大きくなっているのが痛い。
-
-
安乃の視線の物語。 邦子の結婚に笑顔で拍手する神谷先生。その善良さを分かっていながら、胸のどこかがチクリとする——安乃の複雑さにうなずく人、少なくないはず。直後の泣き顔と、神谷の“お兄ちゃんを嫌いにならないで”の処方箋は、二人の信頼を一段深くしたと感じました。
-
連平×たま、予想外の相性。 口の悪さを笑い飛ばし、要点だけを掴んで距離を詰めるたまは現場力×包容力の塊。連平の胸ポケットに滑り込んだ連絡先は、小さな再起動ボタンに見えます。
-
「鍾馗様」と「布袋様」の笑いの仕掛け。 鍾馗(しょうき)は中国由来の魔除け神で、端午の節句の掛け軸にも描かれる鬼神。険しい顔に長いひげ、剣を持つのが定番。一方、布袋は七福神の一柱で笑顔の福徳の神。連平の「布袋様」呼ばわりは、たまの“福々しさ”を愛嬌として讃える方向で、場の空気を和らげる絶妙な選択でした(鍾馗様と言っていたら、たまの怒りを買っていたかも!)。
-
“終わり”を丁寧にやる力。 雅代の涙、泰輔の照れ隠し、そして『蛍の光』。終わり方がきれいだと、人はその場所を良い思い出として持ち運べる。終幕の作法を、〈泉〉は教えてくれました。
まとめ——閉まった扉の向こうで、まだ生きていける
祝う・揉める・励ます——生活の全シーンが詰まった〈泉〉のラストナイト。時代は容赦なく文化の灯を消しに来るけれど、最後に鳴り響いたバイオリンは、私たちの中に小さな灯りを一本、確かに残しました。
次は、邦子の結婚と神谷・安乃ラインの行方。そして、要の音楽は“ご時勢”にどんな居場所を見つけるのか。
あなたなら、愛する店の最後の曲に何を選びますか?
『チョッちゃん』感想まとめはこちら