2025年6月24日放送の第62回は、戦後の高知で同時に訪れた二つの喪失が心をえぐる回だった。のぶ(今田美桜)は夫・次郎(中島歩)を看取り、復員した嵩(北村匠海)は弟・千尋(中沢元紀)の戦死を知る。御免与駅ホームで交差しながらも視線を交わせなかった二人――そのすれ違いが、喪失の重さと残された時間の尊さを際立たせた。
「食べて眠る」――蘭子の抱擁がくれた生きる作法
次郎の初七日を終え、朝田家を訪ねたのぶは憔悴しきっていた。そんな姉を強く抱きしめたのは蘭子(河合優実)。「お姉ちゃんが何にも食べんで一人でしょんぼりしよったら、次郎さん悲しむき」と、豪ちゃんを亡くした経験者だからこそ言える優しい説得だ。悲しいときこそ「とにかく食べて眠る」。シンプルだが、戦後を生き抜く第一歩として胸に刻まれる言葉だった。
御免与駅ホームのすれ違い――会えそうで会えないもどかしさ
のぶが帰路につくホームに停車した列車から、復員服姿の嵩が降り立つ。椅子に腰掛けるのぶと改札口を出て駅を後にしようとする嵩——視線は交わらなかった。
見ているこちらが思わず息を呑む演出で、「いつ再会できるのか」という新たな糸を張った。
柳井家の座敷に飾られた遺影——“優秀な千尋がなぜ”
嵩が柳井医院に戻ると、伯母・千代子(戸田菜穂)が涙で出迎える。「千尋は?」と尋ねた嵩の前にあったのは遺影と位牌だけ。遺骨すら戻らない現実に、嵩は声を失う。千代子は「嵩さんはお父さん(清)が守ってくれた」と励ますが、嵩は震える声で「僕なんかよりずっと優秀な千尋を守ってくれれば良かったのに」と自責を吐露。戦場が残した残酷な比較に、胸が締め付けられた。
釜次の一言——「なくしてえい命らあ、一つもない」
柳井医院を出て釜次(吉田鋼太郎)に挨拶に立ち寄った嵩。そこで投げかけられたのが「お国のためじゃろうと、なくしてえい命らあ、一つもない」という言葉だった。次郎も千尋も、名もなき若者も――全員が取り換えのきかない存在だと断言する一言が戦争の虚無を突き付ける。
写真現像と蘇る笑顔——のぶの慟哭
のぶは次郎との思い出を現像液に浮かび上がらせる。次郎が撮ったのぶの満面の笑み、のぶが撮ったピンボケした次郎さん。フィルムが“過去を生き返らせる”優しさと残酷さを併せ持ち、のぶは写真を抱え泣き崩れた。「ごめんなさい、次郎さん…」嗚咽混じりの言葉が静かな暗室に滲む。
今日のハイライト
-
蘭子の「食べて眠る」——悲しみを知る者の実践的な優しさ。
-
駅ホームですれ違うのぶと嵩、視線が交わらない演出の切なさ。
-
釜次の「なくしてえい命らあ、一つもない」が胸を貫通。
-
写真現像シーンで甦る笑顔と、のぶの止まらない涙。
まとめ——喪失のあとでも“生きて前を向け”
次郎の死でのぶの支柱が崩れ、千尋の戦死で嵩は自責に沈む。それでも蘭子は“食べて眠れ”と背を押し、釜次は“命は一つも無駄じゃない”と力強く言い切る。奪われたものは大きいが、残された者は歩みを止められない。駅のホームのすれ違いが再会の伏線になることを信じ、二人が前を向く瞬間を待ちたい。