朝ドラ「あんぱん」第61回感想 教壇を降りたのぶと“今度教える”次郎――戦後の正義を手探りする二人

朝ドラ

2025年6月23日放送の第61回は、終戦から五か月が過ぎた昭和21年1月の高知が舞台だった。GHQの教育改革が急速に進む中で、のぶ(今田美桜)は自ら教壇を降り、海軍病院のベッドに伏す夫・次郎(中島歩)は速記ノートに言葉を刻み続ける。戦争が終わっても簡単には終わらない“正しさ”への葛藤を、描いた重い一話だった。

間違ったことを教えた――のぶの辞職

国民学校では、軍国主義色の強い教材が一斉に撤去され、代わりに新しい指導要領が配られ始めた。そんな最中、のぶは次郎に向かって「教師を辞めた」と静かに打ち明ける。理由はただ一つ、「子どもたちに間違ったことを教えてしまったから」。次郎は優しく「すまん、僕のせいで」と謝るが、次郎とは関係なく、のぶは“教壇に立つ資格がない”と思い込んでいた。震える声で絞り出した後悔の重さが、戦後の空気を一気に冷やした。

病室の速記ノート “今度教える”という不吉な約束

肺浸潤が長引く次郎は、それでも笑顔を絶やさない。のぶが教師を辞めたと告げた時もノートに速記を書き込み続けた。その文字の内容を尋ねるのぶに、次郎は「今度教えちゃうき」と軽く笑う。それは優しさかもしれないが、“先延ばしの恐怖”を思い出させる言葉でもあった。聞きたくない未来を、一瞬で想像させる不穏な余韻が残った。

台所の束の間の温かさと、玄関に届いた電報

病室を後にしたのぶは、次郎の母と台所に立ち滋養たっぷりの料理を準備する。包丁の音が「生きる力」を取り戻してくれるかのようだった。しかし玄関から声がして、一通の電報が差し出される。まだ中身を読まないうちから、画面越しにこちらの胸が締め付けられる。電報の内容が見えた瞬間放送は終わった。——嫌な予感だけを残して…

“逆転した正義”

戦時中に“正しい”と教えられた価値観は音を立てて崩れていく。次郎は速記ノートに何を書き遺したのか。

余韻――後悔・不安・かすかな希望

最も胸に残ったのは、のぶの「間違ったことを教えてきた」という告白と、次郎の「今度教え教えちゃうき」という優しいのに不吉な約束だ。後悔と不安が重なる一方で、のぶが精をつける料理を作ろうとした姿には、まだ希望を捨てていない強さがあった。

次回、速記ノートに刻まれた言葉が明かされるのだろうか。終戦は“区切り”ではなく“問いの始まり”であることを痛感させる回だった。

 

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