朝ドラ「あんぱん」第59回感想 飢餓・復讐・そして父の幻――“生き残れ”が響いた極限の夜

朝ドラ

2025年6月19日放送の第59回は、補給路が途絶えた駐屯地で飢餓と疑心が頂点に達し、岩男(濱尾ノリタカ))の悲劇、リンの復讐、そして父・清(二宮和也)の幻影という三重の衝撃が襲いかかった。八木上等兵(妻夫木聡)の“ひきょう者論”がさらに深まり、嵩(北村匠海)は「生きる意味」を揺さぶられ続ける15分だった。

飢餓の果てにタンポポの根をかむ日々

乾パンは底を突き、兵士たちは草や雑穀に手を伸ばす。嵩もタンポポの根を口にしたが、それすら食べ尽くし意識を失う。空腹が人間性を削ぎ落とし、正義も理性も霞んでいく恐ろしさが伝わった。

岩男が選んだ贖罪とリンへの「ようやった」

岩男はリンを守り続けていた。1年前のゲリラ討伐でリンの両親を射殺した過去を知り、いつか仇として撃たれる覚悟をしていたのだろう。「リンはようやった」という最期の言葉には、贖罪と安堵が同居して見えた。幼い息子と会えないまま倒れた姿が胸をえぐる。

八木上等兵、初めて激情をあらわに

リンを逃がした八木は嵩に真相を告げる。「お前はリンが憎いか? 幼なじみの仇を討ちたいか?」と詰め寄り、嵩は「分かりません」と涙。八木は“ひきょう者”の定義を再提示する――

「ひきょう者とは忘れられる者、ひきょう者じゃない者は決して忘れられない者だ」

理性を保つために忘れるのか、決して忘れず背負って生きるのか。八木の激情シーンはシリーズ随一の迫力だった。

父・清の幻が告げた“無駄なことは何一つない”

昏倒した嵩は幻の清と対話する。「自分は餓死するかもしれない」と弱音を吐く嵩に、清は静かに語りかける。

「お前は何一つ無駄なことはやっていない。父さんの分も生きて、みんなが喜べるものを作るんだ。何十年かかったっていい。諦めずに作り続けるんだ。」

この言葉が今日最も泣けた瞬間。「嵩、大きくなったな」と去る清の背中に、父が息子を認めた温かさを感じた。

救援隊到着、健ちゃんの温もりが戻る

意識を取り戻した嵩の目の前には健太郎(高橋文哉)。救援隊が到着し、健ちゃんはまずスプーンで嵩に食料を口に運ぶ。少し力が戻った嵩が「自分で食べるよ」と言い、鼻をすすりながら必死に口を動かす様子を健ちゃんが温かく見守る。友情と安堵が染み入る静かな締めくくりだった。

主題歌なしが示す重さ

今回は主題歌が流れなかった。過去にも思い当たらないほどのレアケースで、物語の重さを物語っていた。

まとめ——“ひきょう者”でも生きろ、そして父の言葉を胸に

飢餓、復讐、父の幻――極限の夜を経て嵩が得たのは「生きて作り続ける」という宿題。八木の問いと清の励ましが交差し、“生き残る”意味がさらに深まった。次回、救援物資で飢えは癒えるのか? リンの行方は? そして嵩は“忘れる者”か“背負う者”か、選択を迫られる。

 

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