2025年6月11日放送の『あんぱん』第53回は、戦争という過酷な現実の中で、それでも人との繋がりに救われる若者たちの姿が印象的だった。試験合格という一見前向きな展開も、そこには重たい現実が影を落としていた。
試験に合格した嵩、それでも逃げられない戦争の現実
試験の日に居眠りした嵩(北村匠海)は、結果的に優秀な成績で乙種幹部候補生に合格する。「たっすいが(根性なし)」とすら思えるほど頼りなさげな彼が、なぜこうも周囲から助けられるのか——その理由は、彼の持つ不思議な“人たらし”の力なのかもしれない。
中隊長のご温情だと思われた措置も、実は班長の神野(奥野瑛太)の配慮だった。そして、その神野に影響を与えた「変わり者」の存在。それが八木上等兵(妻夫木聡)だと察する嵩だが、八木は「さあ、知らんな」ととぼける。その真意は、嵩を思うやさしさなのか、それとも距離を保つための照れ隠しか。
健ちゃんのセリフが突き刺さる「俺たちに逃げ場なんかなか」
嵩が「どんどん戦争から逃げられなくなっている」と漏らした際、健太郎(高橋文哉)は「俺たちに逃げ場なんかなか」と静かに返す。感情的ではないその一言が、戦時下の若者たちの置かれた立場を痛切に物語っていた。
馬房のひとときと馬場の“謝罪”がもたらした救い
馬房では、嵩の合格祝いにお酒を持ってくる先輩たちの姿があった。中でも馬場(板橋駿谷)が「だいぶ殴って、すまんやったな」と謝る場面は、理不尽がまかり通るこの環境でも、まだ人間らしさや理性が残っていることを示していた。
若者たちが酒を酌み交わし、笑い合う。その様子には、どんな状況でも笑い合える人間の強さがあった。そして、馬たちの存在はただただかわいく、無垢な命に癒される瞬間でもあった。
のぶへの手紙、次郎の“冷静な眼差し”
一方、高知ではのぶ(今田美桜)のもとに次郎(中島歩)から手紙が届く。「残念ながら君の言った通りにはならない」と、淡々と書かれたその手紙。ネガティブでもポジティブでもなく、冷静に物事を捉える次郎の言葉が、のぶの心を静かに揺さぶる。
2年後の嵩と八木上等兵、変わらない“何か”
時は流れ、嵩は伍長となっていた。一瞬、変わり果てたように見えたが、やはり嵩は嵩のままだった。「変わらんな」と八木がつぶやく。それは嵩への最大の賛辞だったのかもしれない。
再会した弟・千尋、変わってしまったのか?
終盤、海軍少尉となった千尋(中沢元紀)から手紙が届き、再会を果たす。海軍に入って、千尋はどのように変わったのか。兄は変わらなかった、弟も変わらないままの千尋でいてほしい。千尋に変化はあるのか、次回以降の鍵となりそうだ。