朝ドラ「あんぱん」第52回感想 健ちゃんの変わらない笑顔と、八木上等兵の“謎のやさしさ”に救われた嵩の一日

朝ドラ

2025年6月10日放送の『あんぱん』第52回では、小倉連隊での厳しい軍隊生活が続く中、嵩(北村匠海)にとって心がふと緩む瞬間と、試されるような選択が交錯した。健太郎(高橋文哉)との再会、そして八木上等兵(妻夫木聡)の導き。嵩を取り巻く環境は過酷さを増していく中、それでもどこか救いの光が差し込むような展開だった。

健ちゃんとの再会がもたらした“日常”の回帰

軍隊という非日常の世界の中で、ふと現れた健ちゃん。嵩にとって、健太郎は心のよりどころであり、「日常」を思い出させてくれる存在だ。何も変わらない口調と態度に、画面越しでもほっとするものがあった。嵩の硬くなっていた表情が緩んだ瞬間、視聴者もまた癒されたのではないだろうか。

詩集を失った嵩、勅諭を通して得た“生きるための言葉”

井伏鱒二の詩集を破られた嵩にとって、それは精神的な支えを失うことでもあった。しかし、その直後に八木上等兵から暗記を命じられた「軍人勅諭」は、皮肉にも嵩にとって次の“生きるための言葉”となる。文学的な言葉から軍の言葉へ、嵩の中での価値の置き換えは複雑でありつつも、現実を生き抜く術でもある。

八木上等兵の“作戦”は希望か、生き残りか

八木上等兵が、嵩に軍人勅諭を覚えさせたことで嵩は導かれるように幹部候補生の試験を受験することとなる。それは単なる知識の伝達ではなく、軍の中で生き延びるための“希望”の提示でもあったように思える。彼がなぜここまで嵩に手をかけるのか、その背景には個人的な思いがあるのか、それとも単なる“生存戦略”なのか、視聴者の想像を掻き立てる。

中隊長の期待と古兵の妬みの板挟み

「中隊長の期待に応えられなかったら、古兵から仕返しされる」——八木のこの言葉が示すように、嵩は今、軍の中で非常に不安定な立場にある。上官の信頼と、同僚の反感。その間で生き残るためには、もはや“合格するしかない”という極限状態に置かれている。

そして、その極限状態を端的に表したのが、八木上等兵が放った「引くも地獄」という一言だった。試験に失敗すれば古兵からの報復、合格すれば今度は別の重圧がのしかかる。選択肢が存在しない中で、それでも前に進むしかない嵩の姿は、視聴者の胸にも重く響いた。

寝落ちという“罠”にかかった嵩の体力の限界

第52回のラストでは、嵩が試験準備の疲れから寝落ちしてしまうという、思わぬハプニングが描かれた。これは嵩の心身が限界に近づいていることの象徴でもあり、視聴者の不安を一気に高める仕掛けだった。試験を受けるために積み上げた努力が、わずかな隙で崩れてしまうのか——次回への緊張感が一層高まった。

現代視点で見る八木と嵩の関係性

現代の視点で見たとき、八木上等兵の振る舞いは単なる“やさしさ”なのか、それとも時代背景を考慮したうえでの“賢い生き方”なのか。彼のやり方は決して感情的ではなく、計算された理性的な行動にも見える。それでも嵩にとっては、暴力を振るわないというだけでも十分に“味方”と感じられたのだろう。

次回への期待と“救い”の兆し

第52回は、理不尽な軍隊生活の中でも、人と人との関係に救いの兆しがあることを教えてくれる回だった。嵩は試験を無事に受けることができるのか。そして、八木上等兵の真意はどこにあるのか。物語はいよいよ核心に近づいている。

 

タイトルとURLをコピーしました